私の神様(仮)
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「そ」
「……」
「梵ちゃん、大丈夫?なんか…食べたいものとかある?」
「……鯛」
「鯛?!」
「の煮つけ」
「に、煮つけ?!!???!」
ごめんそれはちょっと無理かも…と梵ちゃんに言ったら「知ってる」と返された。
おい!!!
「冗談だよ」
「うーん!!元気そうでなにより!」
実際梵ちゃんは滅茶苦茶元気だ。
家に帰ってきてとりあえず言われた通りに布団を敷いて私は着替えて、あと何かできること…!とやよっちゃんとオロオロしていた。
おじさんに背負われて帰ってきたときには、もう目が覚めてて、濡れた着物の代わりに手ぬぐいでぐるぐる巻きにされていた。
水はすぐに吐き出したし、ケガもない、あとは風邪ひかないように温かくしておけば大丈夫だよ、という与一の言葉に滅茶苦茶ホッとした。
そして「梵も姉ちゃんも休むこと!!」と釘を刺すと、おじさんを見送りながらやよっちゃんと一緒に手ぬぐいを洗いに行ってしまった。
しょーちゃんは庭に梵ちゃんの着物を干しに行ってしまって、私と梵ちゃんが取り残された。
それでとりあえず何か栄養を、と思って聞いたらとんでもない品目を言われてしまった、という感じだ。
「とりあえず、風邪ひかないようにしないと。梵ちゃん寒くない?」
「ああ、むしろ暑い」
たしかに滅茶苦茶今日は暑いが、さすがに太陽は西に傾いてきているし、川遊びですっかり体が冷えているおかげで汗をかくほどの熱は感じない。
梵ちゃんは代謝がいいのか、子供体温だからなのか、もうすでにうっすらと汗をかいていて、布団をちょっと蹴り飛ばしている。
お腹にだけはかけておきなよ、と声をかけると、嬉しそうに梵ちゃんは布団から足をはやした。
「ちょっと寝たら?」
「こんな昼間に?」
「そうそう。お昼寝ができるなんて世界一の贅沢!社会に縛られる前だから許される極上の時間よ!!」
私だって許されるなら1限目は寝たいしお昼食べたらお昼寝を2時間くらいしたいわけ!!
けどカリキュラムの中に組み込まれてしまった以上、そんな贅沢を満喫することは許されず、今日も寝たくないんですよ!でも瞼が落ちてきちゃって…体は…嘘をつけなくて…みたいな顔をしながら寝るんだ!!
日本史の先生は寝てても怒らないし、テストも簡単だし、本当に生徒の味方って感じで毎回神回なんだよなあ
カズセン、元気かなあと、生え際が怪しくなってきている56歳男性教師のことを思い出していたら、梵ちゃんが「シズカ」と私を呼んだ。
「なに?」
「ありがとな、その…助けてくれて。それから、ごめん」
「……」
言葉を迷って、それから梵ちゃんは瞼を伏せた。
そんな謝ることじゃないと思うんだけど、というかそもそも謝るべきはちゃんと見てなかった私というか…
「私こそ怖い思いをさせちゃってごめんね、水辺を侮ってた…」
「……ケガとか、してないか?」
「うん!それは大丈夫!元気満々あんまんぱん!ってかんじ!!」
「?」
あんまんおいしいよね!
特に冬の夕方帰り道で買い食いするあんまんの美味しいことと言ったら…
この時代でもあんまん作ろうと思えば作れるかな?
…もしかしてもうあったりして!?ぐぬぬぬ気になる…!
「ネットにさえつながってればすぐに調べてすっきり解決するのに!」
「ねっと?」
「あーうーん。電子辞書…あの南蛮語を教えてくれるカラクリのもっと性能がいいやつ…っていうか…?」
「すげえ、そういうのもあんのか!」
「うん、とはいえ…今ここにあっても使えないんだけれどね」
「……!そうだ、なぁ、よければシズカの故郷の話してくれよ」
「私の?」
梵ちゃんは私の方へ体を向けて、大きく頷く。
「あのカラクリもだけど…きっとシズカの故郷には俺の知らない色んな物とか、色んな場所があるんだろ」
「まぁ…そうだね」
道はコンクリートで舗装されていて、暗くなっても街灯が自動で付いてくれるし、何処かの家の明かりが外に漏れて照らしてくれる。いつでも新鮮な食べ物が食べられて、……人々は空を飛んでどこへでもいけてしまうそんな時代。
私のいた時代はそういう色んな事や物で溢れている。この戦国時代(正確にいえば婆娑羅の時代だけど)とは全然違くて、だけど数百年後には訪れる世界。
視線を落とせば、ワクワクとした表情の梵ちゃんがいて、私の話を待ちきれないと言わんばかりに待っている。
この梵ちゃんだってゆくゆくはLet' party!といいながら刀を6本抜く筆頭になるし、私の現実世界での……史実での伊達政宗にだってきっと…子供の頃、こうやって目を輝かせていた時代があったんだろう。
「……そうだなぁ、じゃあ…せっかくだから南蛮の話をしようかな。」
私は話す。
日本の外にはたくさんの国々があること。
それぞれに文化があって、考え方が違うこと。
もちろん食べるものも違うこと、それから色んなお祭りがあること。
ちょっと前に流行った海外の歌のこと。
思いついたことはどんどん話した。
そして、ふと気がついた頃には梵ちゃんからすっかり寝息が聞こえてきていて、いつの間にか代わりにしょーちゃんがわたしの話をきいていた。
しょーちゃんは私を見るとそのまま隣に腰掛けた。
すやすやと寝息を立てる梵ちゃんを見て、それからジッと私を見つめてくるもんだから、なんだかいたたまれなくなって、口を開く。
「あ……話長かったかな?!それとも面白くなかったかも…!?」
「梵天丸も嬉々として聞いていたぞ。……眠気に勝てなかっただけではないか」
「そ、そっか、なら……いいんだけど」
「……姉上は」
「ん?」
「帰りたいと思うのか?今さっきまで話していた…故郷に」
しょーちゃんは真っ直ぐに私を見ている。
その視線は…なんだか私に怒っているようにも見えて、混乱する。なんか変なことを言ってしまっただろうか、突拍子もなさすぎて嘘をついていると思われただろうか。
「ほ、ほんとだよさっきの話!本当に南蛮だと真っ青な甘味があったりして、砂糖がどっばどばだったりして……」
「そうではない、姉上は、帰りたいと思っているのか、と聞いている」
そう言い直したしょーちゃんの声はやっぱり少し怒っているように聞こえて、私は言葉を詰まらせた。
しょーちゃんの言葉は、時々とんでもない重みを持っているように感じることがある。それは例えば…先生に怒られた時のような。友達の愚痴を聞いている時のような。
ずん、と心に直接届くような、そういう言葉。
のちの戦国武将だから為せることなのか、それともこれはしょーちゃんだからなのか。私は素直に今思っていることを口にする。
「……帰りたいとは…実はあんまり思ってないんだ」
「……」
確かに話をしていて、ジャンクフードハンバーガーが恋しくなったし、久しぶりに映画館に行きたいなって思ったし、音楽も……自分の音痴な歌声でも綺麗な音色の笛の音でもなくて、JPOPを聴きたいって思ったのも本当だ。
だけど、私は今ここでの生活が好きだな、と思う。
ちびちゃんズのおかげで毎日が騒がしくて楽しいし。なんて言うか
「うーん、飽きない?的な….」
「……」
「だってほら!私しょーちゃんたちのこと大好きだし!!」
私はなんか気づいたらここにいて、与一もたまたまここに来て、それから梵ちゃんもやよっちゃんもしょーちゃんも、全員がたまたまここに集まっただけではあるけど、なんとなく今の関係が心地よいと言うか、楽しいと言うか。
もちろん私がいなくなった隙にどんな激萌えイベンツがあるかわからないから、見逃したくない!ってのもあるけどね!
しょーちゃんは私の言葉に怪訝な顔をして見せて、それからハァ、とため息をついた。
そしてそのまま私の隣に腰を下ろして、一緒に梵ちゃんを眺める。もうその横顔にはさっきまでの重たい何かはなくて、いつものしょーちゃんだ。
「……ならいい」
「…うん!」
突然ここに来てしまって、帰り方も、みんなの帰し方もわからないけど、いつか終わりが来る時までみんなと一緒にいられればいいな、なんて思う。
それでくだらないことで笑って、それからたまに泣いたり怒ったりして過ごせたらいいな、なんて。
「もう一つ聞きたいことがある」
「ん?なぁに」
「……姉上のいた場所では、死んだ者について…どう言われていた?」
「……」
しょーちゃんの話を思い出す。
お母さんが星になったと伝えられたこと、だけどしょーちゃんはそれを信じていないこと。
死んだら星になると言う逸話はもちろん私のいた時代にもあったし、子供に聞かせる話でよくあることだけれど、しょーちゃんはそれを子供扱い…と感じているのかもしれない。
「……やっぱり、私のいたところでも星になるってお話はあったよ。」
「…」
「けど、私はもう人は死んだら骨になるだけだって知ってる。……もちろんみんな大人になっていくうちにそれを知って、受け入れていくよ」
「……では、やはり母上は、星になどなっていないのだな…あの、夜空に瞬く星々に」
「……うん。そうだと思うよ。」
「……そうか」
しょーちゃんの顔を恐る恐る見ると、しょーちゃんは嬉しそうな表現を浮かべていて私は目を丸くする。
私は今とても残酷なことを言ったかも知れなかったけれど、少なくともしょーちゃんはお母さんの死を認めて欲しかったのかも知れない。その悲しみも気持ちも完璧には分かり合えないけど、しょーちゃんが嬉しそうならそれでいいな、と思えて私は口を閉じた。
「ありがとう、姉上」
「……うん」
***
「姉ちゃん、これ!」
「えっ、うわなにこの野菜?!」
「あのおっちゃんが元気出せって持たせてくれたんだ!」
「それにねほら、みて!お魚!!」
「えっうわホント……ってこれタイ?!」
「そうなの!すごいよね、あのおっちゃん漁師さんなんだって!」
「……本当に…鯛の煮付け作ることになりそうな気配がする」