私の神様(仮)
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「れ」
じりじりと降り注ぐ太陽光、雲一つなくて空はどこまでも青く澄んでいる。
木々や家々はそんな光を反射して、熱を蓄えて…。
「……」
「……」
「…ううう」
「……あ、ああ、あ”」
熱を……熱…
「あああああっっつーーい!!!」
なんか今日めちゃくちゃ熱いんだけどーーー!!!!
「言ったら余計に熱くなりそうだったから言わなかったのに!」
「だ、だってぇ~~」
つい口から出ちゃうんだもん!
汗でべとべとになった腕を地面に投げ出すと、手のひらが同じように転がっていた梵ちゃんのお腹にあたって、梵ちゃんから「ぐえ」と力の抜けた声が上がる。
おおそーりー梵ちゃん…しかし梵ちゃんのお腹やわっこくてきもち…いや人肌の温かさで死ぬわ嘘だごめん子供体温あったかすぎるわ!!!
「なんでこんなに暑いんだ!まだ夏じゃないんですけど?!春として軸がぶれてるよ!」
ぶれぶれぶれぶれ…
思考0で思いついた言葉を口から出していると、同じように地に伏せたままの与一が「姉ちゃん壊れちゃった…」とぼやき「それはいつもだろ」と梵ちゃんが返す。
酷い言われようだけどそれに返す体力もなくて私はひらひらと手を振った。
しょーちゃんは床の冷たいところをさがしてどんどん転がっていくし、やよっちゃんは着物を寛げてなんだかセクシーショットな感じだ。
私はしょーちゃんを真似して一度ごろんと転がって、それから「あ」と声を上げる。
「そうだ!!川遊びしに行こう!!」
そうだ京都行こう…もとい川へ行こう!と意気立った私たちは汗だくの体を引きずってなんとか川へとやってきた。
ちらほらと他にも人がいるけど、みんな顔が死んでる。
暑いもんね…この河原の石も熱されててとても素足で腰掛けられるようなもんじゃないよね!!
勝手にわかるよ~!って気持ちになりながらちびちゃんズに視線を向けると、水を得た魚…もとい水を得たキッズのようにはしゃいでいる。
与一と梵ちゃんは着物の裾をまくって水を掛け合ってるし、やよっちゃんは泳いでる魚を追いかけている。そしてしょーちゃんは…
「……しょーちゃんはいかないの?」
「……」
なぜかしょーちゃんは木陰の土の上にいる私の隣にいる。
準備しているときからなんか不服そうだなと思っていたけど、まさか川へかけていくちびちゃんズを見ながらおもむろに座りだすとは思わなかったからねーねーびっくりしちゃったヨ…
私の隣で悠々と現国の教科書(私のカバンから勝手に抜き出したらしい)(おい)を眺めるしょーちゃんにちらりと視線を送ると、しょーちゃんはなんだか渋い顔をして目を細めている。
声を掛けたら、チラとこちらをみたのち上に視線を向けた。
「…今日は日が強すぎる」
「まあ確かに暑すぎるけど…太陽大好きしょーちゃん的には嬉しいんじゃないの?」
「…?なぜ我が」
首をかしげるしょーちゃん。
おもわず「え、」と声を漏らすと、しょーちゃんも不思議そうな顔でこちらを見上げてきた。
え、だ、だってしょーちゃん…太陽だよ、日輪だよ!?
「に、日輪だよしょーちゃん、だって……?え?!」
「なぜ我が…日輪を崇めねばならぬ」
「えええぇぇえ!??OKURA様といえば手を広げて『日輪よーっ!』じゃないの!?」
私の言葉に、しょーちゃんはものすごく嫌そうな顔をした。
その反応が地雷を踏んじゃった時のソレで、私の喉がぐっと詰まる。
「我は、信じぬ」
「…」
「姉上は……人が死んだらどこに行くと思う」
ぽつりとしょーちゃんが呟く。
唐突なような気もするけど、きっとしょーちゃんの中になにか気になる何かがあって聞いているんだろうっておもって私は口を閉じる。
しょーちゃんの視線は落ちて、何かを思い出しているのかまつげは深く落とされている。
私は、そんなしょーちゃんを見て、それから考える。
人は死んだらどこに行くのか。
何万と語られて、幾億と願われてきたこと。
私はまだそれを語れる言葉を持っていない、とおもう。エンタメとして、例えば漫画やアニメの表現としてなら知っているし、現代を生きるものとして死とはどういうことなのか知っている。
けれど、私自身の言葉として……何かを答えることはできない。
「私は……わかんないや」
「…人は死ぬと星になるのだ、と。我の義母が言った。……だが、我はそれは幼子をあやす詭弁だと知っている」
「人は死ぬと土になるのだ。躯は塵となり、土となり、そしてやがてなくなる。天に昇り星のように瞬くなど、嘘だ。もし…もし本当に……」
「……母上が、星になったと言うのなら、日輪など要らぬ。あの声を二度と聞けぬままなら、母上など要らぬ。……その代わりをする女も」
しょーちゃんは膝を抱えて顔を埋める。
その声はなんだか寂しそうで、私は言葉を飲み込む。
以前言っていたお母さんのこと、本当に大好きだったんだな、というのがわかる。しょーちゃんの家族このことは知らないけれど、まだしょーちゃんはお母さんがいなくなってしまったことを引きずっているのかもしれない。
けれど、しょーちゃんは武将の息子として期待されていることもあるだろうし、……やっぱり私の知りえないことだろうなと思う。
「我は、嫌いだ。死を美談にする語り事も、手の届かぬ星も、子ども扱いする杉大方も、大人になれと説いてくる父上も。…星を遮る日輪も」
「…しょーちゃん」
そしてしょーちゃんは顔を左右に振って黙り込むと、はしゃぐちびちゃんズに視線を送った。
答えがない私が答えられることはなくってそれ以上言葉をつづけられない。
しょーちゃんは何かを思い出すように私から意識を外して何かを考えている。
実家のことを思いだしているんだろうか。私…私も両親は健在だし(多分)しどろもどろになった私は、口を開いて、そして結局また口を閉じる。
梵ちゃんと与一はしょーちゃんが見つけた魚を、ばしゃばしゃやりながら追い立てて遊んでいる。
日差しは相変わらず降り注いできているし、暑さも相変わらずだけれど、水のそばにいるだけで、それから遊んでいる3人を見ているとなんだかそれも涼しげに感じる。
私としょーちゃんはしばしその光景を眺める。
「しょーちゃん、お母さんのこと大好きだったんだね」
「……ああ」
「……」
「……」
私は比較的、順応が早いタイプだから…あんまりこう家族と離れ離れになったこととか気になってないというか…正直悲観する気持ちより萌えを処理して捌くのが忙しくてそれどころじゃないっていうか…?
もし私がしょーちゃんの立場だったら…と考えてもいまいちピンとこない。
しょーちゃんが苦しんでることの3分の1も想像がつかなくて、もやもやする。
そんなモヤモヤに頭を悩ませていると。
バシャーンッッ
「?!」
「ね、姉ちゃん!!」
与一の慌てた声に意識が急浮上する。
慌てて周囲を見渡すと、梵ちゃんが見当たらない。
その代わり与一が指さす先、水中で大きな影が揺らめいているのが見える。
揺らめきの向こうに、ちらりと蒼色が
「梵ちゃん!!」
私は音が出たんじゃないかと思うくらい一瞬で背中に冷や汗が出るのを感じて、はじかれるように飛び出す。
川べりに立つと、足元に冷たいしぶきが細かく当たる。きらきらと反射する水面があぶく立って、その合間に小さな手が見える。
私は泳げるとか、泳げないとか、水の冷たさのこととか、そんなことを思うよりも早く川へ飛び込んでいた。
体の形に合わせて小さな泡が立ち上っていく。
泡の濁流の先で、私は梵ちゃんを見つけて川の底を蹴った。そんなにしっかりした川じゃなかったのが幸いして、梵ちゃんとの距離はあっというまに縮まった。
私は腕を伸ばして梵ちゃんの着物の裾をつかんで引き寄せる。
現代の素材よりもゴワゴワとした感触がして、それから梵ちゃんの柔らかい腕になる。
あぶくと水流で視界が悪い中、なんとかそれだけを把握すると私はごつごつとしたむき出しの水底を蹴った。
「ぶはっ」
「姉ちゃん!!こっち!!」
「シズカお姉ちゃん!!」
与一の声がしたほうに顔を向ける。
与一としょーちゃんが大きく手を振っているのが見えて、私は梵ちゃんを抱きなおす。
どうやら梵ちゃんは気を失っているらしく、だらりと体は脱力してしまっている。
気を失った梵ちゃんと、濡れた着物で腕の中はずっしり重たく、油断したらずり落ちてしまいそうだ。
滑る水底と冷たい水流、それから重たい体をなんとか引っ張って私は二人のもとを目指す。
うおおお、唸れ私の着衣泳の授業の記憶!!と、体!!
どうにかこうにか岸辺までたどり着くと、体がどっと悲鳴を上げる。
ずるりと梵ちゃんをおろして、仰向けに寝かせる。
与一が急いで体をぺたぺたと触って何かを確認して、やよっちゃんは心配そうな顔をして梵ちゃんの帯を外した。
「姉上!」
「しょーちゃん!こっち!」
やよっちゃんが声を上をあげる。
駆けてくるしょーちゃんの後ろには初老くらいのおじさんがいて、おじさんの手には大量の手拭いがみえる。
梵ちゃんが溺れたのを見て急いで呼びに行ってくれたんだろう。
息も絶え絶えな私に変わってちびちゃんズが手早く動いてくれてるんだ。
「坊主、様子は?!」
「大丈夫息はしてる!」
与一がおじさんと一緒に体をふいたり、水を吐かせようとしている。
梵ちゃん、大丈夫だろうか。
「姉上」
「しょーちゃ」
「家に戻って布団の準備を。…弥三郎も」
「う、うん」
「そのままだと、姉上まで風邪をひく」
しょーちゃんの小さな手が私に手ぬぐいを押し付けてくる。
私は痺れた脳でその言葉を飲み込む。やよっちゃんに手を引かれて、私は立ち上がった。
「…梵ちゃん」
「…大丈夫だよ、きっと」
頭は霞がかっていて、でも気持ちだけは急いでいて…、
私は一度振り返って梵ちゃんたちをみたあと、足早にその場をあとにした。