私の神様(仮)
名前
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「わ」
私の携帯が午前2時過ぎを映す、夜も大分更けた頃。
それは突然降って来た。
「スピー…カー…スカー……イシュヴァール……
ッぐっばぁっ!?」
「ッ?!」
「な、何だ!?」
「シズカお姉ちゃん?!」
私のあげた奇声に跳び起きた与一が手早く蝋燭へ火をつけた。
ほんのりと明るくなった室内に私達の影がうつる。
「シズカお姉ちゃん!」
「ぅぐはぁぁああた、助け…ッ!」
「………あれ?」
与一が間抜けな声をあげたのを引き金にやよっちゃんも梵ちゃんも動きを止めた。
「……人だ」
そして私たちのドタドタを聞いてか否か、その人物はこちらを睨みつけて声を出した。
「…お前は何者だ?」
「……………またこのパターンか…」
私の呟きにはぁ、とため息をついたのは梵ちゃん。
やよっちゃんは眠そうに頭を揺らしていて、与一はあくびを一つ。
人だと分かった途端に眠気がやってきて、つられた私もあくびを噛み殺した。
そしてウトウトと鈍い思考の中でもこの子の眼光の鋭さだけは理解できて、起きねば、と体を叱咤する。
目の前で正座をしている、この茶髪な少年。
流れるようでやんわりと揺れる髪、一重で鋭い瞳と、男の子にしては長い睫毛が蝋燭の光でゆらゆら影が流れていた。
あぁ、眠い。
昨日遅くまでみんなでおしゃべりしてたせいだねこれ……
いやでも梵ちゃんのご実家の話めちゃくちゃ面白かったんだもん……噂の景綱さんが慌てた話とか、梵ちゃんのお家の脱走経路の話とか……
「…とりあえず、君の名前を教えておくれや。」
「なんで我が名乗らねばならない。名前を尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀であろう」
ぴしゃりと言い放たれて、私はどこぞの漫画のセリフみたいだなぁと、他人事のように思ってまたあくびを漏らした。こんどは噛み殺せない、クソデカ欠伸だ。
えーっと……なんだっけ?……あー、そうか名前だ
「私はシズカ…ふぁぁあ」
「おいら…与一…」
「俺は梵天丸…」
「…僕はや…三郎……ふぁー」
「欠伸をしながら名乗る者があるか」
かと言うこの少年もさっきから眠そうに目を擦ったり、欠伸を噛み殺していたりする。
このままじゃ、話にならないのは一目瞭然。そして全員が今同じことを求めているはずだ。なら、やることはひとつ。
「…よし、決めた。」
「何を?」
「寝る。」
「は?!」
私がそう宣言して横になると最初の数秒は戸惑っていたが、1番眠そうだったやよっちゃんがもそもそと私の後に続いて布団へ潜り込んでいく。
与一と梵ちゃんも顔を見合わせた後、明かりを消して布団へ吸い込まれていったのが気配でわかる。
「お前ら正気か?!誰とも知れぬ者が居るというのに寝るなど…!」
「……与一、梵ちゃん、」
「…あぁ…」
「何をするっ!!」
私の号令で二人が自分の布団に少年を押し込んだ。
正しくは二人の間に寝かせた、だけど。
ドサって音の後にゴソゴソと音がして、少年の抗議の声が飛んでくる。しかし、今の私たちには眠りが必要なのだ。
「はい、おやすみー」
「ッ、この…!我の話しを……!」
私の意識はそんな少年の言葉を最後にぶっつり途絶えたのだった。
「へい、グッモーニン」
「おはよ…姉ちゃん」
「…おはようシズカお姉ちゃ…ふぁぁ」
「Good morning…ぁく…シズカはなんでそんな元気なんだよ…」
なんで平気かって?アニメ、原稿で徹夜慣れしてるからさ!ただ、速く起きれないけど。多少睡眠時間削っても平気なお年頃なのよ!
この時代の人達の朝はすこぶる速くて、朝日が昇ると「おーはー☆」ってなり、日が沈むと「おやすみー」という日と生きる生活をしているから、昨日は本当に夜更かししてしまった。
超健康的だね!!
…とまぁ、とりあえずそんな話は置いといて。ふと視線を動かすと与一の布団を完全に奪って眠る一つの影が目についた。
「……寝てるし」
「…だな。」
「起こしちゃかわいそうだからシズカお姉ちゃんも、みんなシーッだよ」
やよっちゃんが人差し指を立てて静かにね、と私達を制す。
「コイツ、あの後もずっと起きてたんだぜ」
「そうなの?」
「うん、なんか一人でぶつぶつ言ってた」
それを聞いて少し怖いと思ったのは秘密で、私は彼を覗き込むように見てみた。すると、昨日は薄暗くてわからなかったが彼も相当美形だ。色も薄いし。
与一がやんちゃ、梵ちゃんがイケメン、やよっちゃんが姫系の美形だとすれば、彼は間違いなくお人形系の綺麗なお顔だ。
……まぁそれもこの眉間のシワがなければ、だけど。
「てか、コイツどうするんだ?」
「私、今日も稼ぎに行かないと。」
昨日は桃ちゃんの襲撃であまり稼げなかったからねっ!!
するとやよっちゃんがポンと手をひとつ打った。
「お姉ちゃん、僕達が交代で見てるよ」
「おぉ、名案じゃねぇか弥三郎」
梵ちゃんもほんのりすまし顔で笑って見せる。なんと可愛いことか!!
どうやら、私が恥晒しをしている間にこの子が起きても大丈夫なように交代で面倒を見てくれるらしかった。すっかり分担作業ができるようになってまた…!!お姉ちゃんみんなの成長が嬉しいよ!!
「じゃあ、お願いしてもいい?早めに戻ってくるつもりではあるから」
「お願いされましたっ」
「はぁ…」
私は家への道を行きながらゆっくりため息をついた。
なんでか、なんて愚問!心配なんだよ!やよっちゃん達が!!
「いくら与一がしっかりしてるとしても男だし…寄ってたかってやよっちゃん相手に2P…ッ?!
『いやだ、止めてよ…!』『別にいいじゃん…?』『弥三郎…テメェがCute過ぎるのが悪ィんだぜ…』
なぁんてムフフ…これは是非拝見して動画保存せねば…ッ!」
るんたるんたとスキップしながら私は家の前に立った。
軒下で耳を澄ませてみたが、にゃんにゃん言っている声はしない。
やよっちゃん鳴くの我慢してるのかなァ、ゲヘヘヘ
私は窓の格子から顔を少し覗かせて、中の様子を伺った。
薄暗い室内に丸まった一枚の布団…
「あれ?」
あの美少年もやよっちゃんも与一も梵ちゃんも居ない。
どうしたんだろう、と格子から一度身を離して家に入った。
しかし、視界には誰m「何をしている」「おっしょい!!」
視界には入らなかったが、最近都合の良いことしか入らなくなって来た耳が美少年voiceを捉えた。
あ、あはー☆扉横で待ち構えられてたねコレ!!
恐る恐る振り返ると偉そうに腕を組んで、壁に背をもたれる美少年の姿があった。
茶色い髪がさらりと流れて、さながら恋シュミのOPのようだ。
「――…って、あれ?やよっちゃんは?」
「?あの女々しい奴の事か、あいつならそこだ」
少年が指差した先には丸まった布団から覗く白い足がジタバタもがいている。まさかのす巻き?!
「ギャアァァ!何て言うプレイだ!やよっちゃぁぁあぁん!!」
「我の策に敵う訳無かろう」
フフンと鼻を鳴らして口端を持ち上げた少年をスルーして、なんかの紐で結ばれて巨大す巻きと化しているやよっちゃんを開放する。
「ふぇええっシズカお姉ちゃぁぁんっ!」
「おーよしよし、大丈夫?苦しかったよね?」
「軟弱な上に泣き虫ときたか、」
「ちょっとアンタ!やよっちゃんに謝りなよ!」
「何故我が」
何言っとんねんコイツ、と言わんばかりに眉を寄せて、少年は組んでいた腕を外して小さく首を傾げた。
何故、ってこのガキがぁぁあっ!
私はこの異常に躾のよろしくないガキを叱り付けてやろうと口を開く。
「名前は知らないけど君!!悪い事しておいて何故も何もないでし…
「我の名は松寿丸、覚えておけ。」
―――……は?」
今何て言ったよこの子。
「わ、ワンモアプリーヅ…!」
「は?」
「もう一回言ってくれ、ってよ」
「お帰り、姉ちゃん。」
「与一、梵ちゃん!ただいまー!」
振り返ると、畑に居たのか与一達が帰ってきた。
梵ちゃんはため息をつきながら私に抱き着いて大泣きしているやよっちゃんを見た後、冷たい目をして梵ちゃん達を見ている少年に言った。
「聞こえなかったか?もう一回、だ、とよ。」
鬼畜梵ちゃん発動!!
やよっちゃんを文字通り包めたことに怒っているのか、それとも自分がかつて踏んだ轍ゆえに面白がっているのかは定かじゃないが、とにかくニヤリとした笑みを浮かべて少年を顎でしゃくった。
これが一桁歳だなんて誰が信じるんだろ。
なんだか凄い悪役顔よ、梵ちゃん!
「チッ…我は松寿丸だ。もう言わぬからな!」
そしてその悪役フェイスに負けてか、少年は舌打ちをして確かに名乗った。
『松寿丸』…と。
あ、あの!松寿丸って…まさかの元就様?!
ちびっこ元就様!?
も、元就さん……ってあ、あの緑の妖精さんだよ?!ふわって浮きながら船に上がる妖精さんだよっ?!
日輪大好きサンデーだよ!!実は甘党説な元就様だ!!
キタァァァア!!!!!!
O☆KU★RAだぁあああァァァア!!
「しょーちゃぁああぁぁ」
「ッ寄るでない!」
「ぶへらッ!!」
飛び付いて腰に縋り付いてやろうとしたらまるで虫を叩き落とすが如く手で叩かれた。
痛くはないけど、なんか泣きたくなった。
「……うぅ…しょーちゃんに殴られた…叩き落とされた…」
「泣くなよ、シズカ…」
梵ちゃんが、同情するような声で言う。
まって、同情されるってどれだけ私哀れな姿だったの?!一応ちゃんと人間として形は保ててたと思ったんだけど?!
「…シズカ、と言ったか」
「うお?!」
あれ、トリップというかドリームの典型的パターンつか、お約束「そこの女」って呼ばない!?
なんで?!
少し私期待してたのに!
ナリ様のフラグが立つと名前で呼ばれるのに!!
そんなの乙女として最高の展開なのに?!!!
「変な声を出すな、それより…」
ちらっとしょーちゃんが、やよっちゃんを見た。
未だに泣き崩れたままの体制だったやよっちゃんは静かにして動いてない。
「やよっちゃん?大丈夫??」
思わずやよっちゃんの顔を覗きこめば、スヤスヤと息をついていた。おぉっと、やよっちゃんまさかのお休みモード?!
「弥三郎…寝てるね……」
「仕方ない、とりあえず寝かしとこう。泣き疲れちゃったんだよ、」
「ん、布団これでいいか?」
「うん、枕さえ抜いておけば大丈夫だと思う」
枕あると寝れないとか、かわいいよねぇ!!とニヤける頬を隠さずちびちゃんたちと連携してやよっちゃんを寝かせてあげていると、その様子を見ていたしょーちゃんが声を上げる。
「……お前たち、緊張感というものらないのか?」
「ん?」
「突然、しかも真夜中に見知らぬ人間が家にいるのだぞ」
「んやー、まぁしょーちゃんで3人目だからなぁ」
驚くも警戒するもないよねぇ、と与一と梵ちゃんに言えば、2人はこくりと頷いた。
ついでに突然夜中人間が落ちてくるのも今更だよ!!
しょーちゃんは私たちの顔を見比べて何か納得したような表情をする。
「なるほどな、ただの戦孤児の集まりか誘拐犯ではないと思っていたが……」
「ん?」
「我は部屋にいたところ突如として現れた異空の穴に飲まれてここにいる。お前たちも似たような境遇なのだろう?」
「んん?」
なんだ異空の穴って。
しょーちゃんの言葉に首を傾げたが、しょーちゃんはすっかり自分の思考の中に浸かっているのか返事はない。梵ちゃんを見れば、梵ちゃんは肩をすくめるだけだ。
「……まぁよくわかんないけど、しょーちゃんも帰り方が分かるまでここにいるってことでしょ?」
「あぁ。少なくとも手がかりが得られるまでは」
しょーちゃんは頷いて私たちの顔を見渡すと一つ頷いた。
どうやら、すんなりと受け入れてくれるらしい。よかった!誘拐犯だなんだって誤解を解くところからにならなくて!!
こうして我が家にすでに知将の片鱗を見せている美少年がまた1人増えました!!