私の神様(仮)
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「を」
「ほんじゃまー、一稼ぎしてきまっするー」
「シズカお姉ちゃんって何のお仕事してるの?」
「ん?大道芸だよー!長所は好きな時に稼げる所、短所は収入がまばらな事でー…」
「僕も行きたい!」
「へっ?!」
「え、まぢで来るの?」
「…ダメ……?」
うっはー!上目使いで頼まれたら断れないYO!!
春も麗らかなとある日の朝、私はやよっちゃんから可愛い爆弾をぶち込まれていた。
可愛い顔をしているやよっちゃんの頭を撫でてみるとふっかふかしててやたら気持ちがいい。
あぁ、きっとお日様のかおりがするんだろうなー…スーーッハーーーッ!!!!!
「仕方ないなぁ、じゃあやよっちゃん…いこうか!」
「うんっ!」
「弥三郎だけずりィぞ!俺も行きてぇ!」
私がやよっちゃん拉致計画を練っていると入口から声がした。
振り返ると畑から帰ってきたばかりの梵ちゃんが唇を尖らせて仁王立ちしているではないか。
何となく感じた嫌な予感に頬を引き攣らせると梵ちゃんの後ろから与一も出てくる。
「おいらも姉ちゃんの仕事してる姿が見たいなー」
「……やっぱりこのパターンなのね…」
いくら私が人目もはばからず萌えてる腐女子とはいえ、仮にも人間なんだ。
恥ずかしい事この上ないだろ!しゅーちしんで死んでしまうわ!!!
「なぁ良いだろ?」
「えぇえー…?」
与一には聞かれたけどさぁ……
梵ちゃん達は正直引くかもしれないじゃん…
あぁ、なんか初めての腐女子メンツでいくカラオケでGLゲー曲歌う時並に怖い!!
「ねぇねぇ!良いでしょ?」
ぐををを!!与一の上目は反則やぁぁぁあ!!
「……はい、シズカ姉ちゃんとのお約束はっ!」
「ひとっつ、勝手にどこかに行かないっ」
やよっちゃんがびしぃっと手を挙げて言う。素敵すぎる白い手を着物がズレたせいで紫外線の元にさらしてしまった。
「一つ、どんな歌でも絶対に引かない」
梵ちゃんが重心を右足から左足に移して言う。その際、オプションとしてニタリとニヒルに笑った。
「ひとつ、知らない人に怪しい事をされたら叫ぶ事」
そして最後に与一が後ろで結んだ髪を揺らしながら腕を組んで言った。
「はい、よろしい。絶対守ってね?」
『はぁーい』
仲良く返事をして三人は周りを見回す。
私は結局、3人揃って私の仕事と言う名の恥さらしを見世物にすることになった。
なので今、私達は少し広くなっている所にいる訳で。
「あ、お姉ちゃん!」
「桃ちゃん!」
と、なると決まり始めた常連さんにも遭遇するわけなのです。
案の定、13歳の常連さん関西なまりが可愛い桃子ちゃんと出会った。
「お姉ちゃん、この人達誰なん?」
「ん、私の家族だよ!」
「…ふぅん…」
某乙女ゲームのキャラソン(しかもCPデュオ曲が好きなんて結構良い趣味してますよ、この子)は私の言葉を聞くと腕を組んで三人を見回した。
「あれ?君…」
「へっ…僕……?」
桃ちゃんの視線はやよっちゃんで停止したらしく、やよっちゃんが少し怯えた声をあげる。
「君めっちゃ綺麗な肌してるやん!えぇなぁ…うらやましいわぁ!」
「えっ…いや…あの…」
「このきめ細かい肌とか絶対化粧映えするで!もったいないやん!」
「いや…だから…僕は…」
「なぁ、今おかんの化粧こっそり借りてくるさかい化粧せぇへん?」
「えぇっ?!」
「大丈夫やって!そら確かにうちのおかん怒るとめっさ怖いけどな可愛い子と化粧は好きなんよ!ちょっと拝借したぐらいやったらばれへんって!待っててな今持ってくるわ!」
「いや…あの、ちょっ…!」
どうやら桃ちゃんは天性の姐御肌らしい。
私も驚くぐらいのマシンガントークと大阪のおばさん並な人の話を聞かない具合で言葉を並べると、あっという間にいなくなってしまった。
うーん本当に元気で愉快な子だな……。
ちらりとやよっちゃんを見てみれば、目をウルウルと揺らして怯えた様に私を見上げる目と目が逢ってしまった。
そして落ち込んだようにショボンと肩を落とす。
「…あの子人の話聞いてくれなかった……」
「あぁ…大丈夫…悪い子ではない…ハズだから」
「弥三郎大丈夫だ、女なんて満足すりゃすぐに止めるか飽きるかだからよ」
「ギャッ!なんか梵ちゃん生々しい上にまるで実体験みたいな!ッダメよ、お母さん紹介もできないような彼氏なんて許さないんだからねっ!!」
「―――…あ、帰ってきた」
梵ちゃんの腕をもってガタガタ揺らせば、与一が声を上げる。
やよっちゃんが肩を跳ねさせて梵ちゃんの後ろに隠れた。
「お待たせな!おかんに直接借りて来たから怒られへんで!」
桃ちゃんは走ってきたのか頬を赤くさせて風呂敷を掲げる。
そして梵ちゃんの影でプルプル震えるやよっちゃんを見つけると腕を掴んで引っ張った。
「はぅぅうっ」
「ほらほら、化粧と涙は女の武器なんやから逃げたらあかんって!」
「ぁぁあ…!梵ちゃん、よーちゃん助け…っ!」
「…悪いな、弥三郎」
「ごめんね」
「ひぃぃぃぃっ!」
「かんにんせーなっ!」
桃ちゃんはやよっちゃんを拘束するとズルズル引きずって私達から見えないようにやよっちゃんを座らせた。
後でのお楽しみのつもりなんだろうか、ホラー映画ばりの迫力で吸い込まれていったやよっちゃんに梵ちゃんが手を合わせたのを横目に私は肩をすくめた。
ごめんやよっちゃん。後で甘いもの買ってあげるから…
「待ってる間に……お仕事しますかぁ」
「わーい」
「楽しみにしてたんだからなっ」
梵ちゃんと与一はそう言って適当な位置に座った。
うおーーーー緊張するぜ!!
………
「そしーてー輝くウルトラソウッ!!はぁい!」
ノリノリで歌い終わると昼間っから酔っ払ってるおっちゃんや、なんだなんだと見にきた人たちから拍手が上がる。ぺこりと頭を下げると、籠にお金が投げ入れられる。
いくつか籠からあふれたお金は手早く拾って私はありがとうございます!とお礼をした。
いやだってあんなカラオケレベルの歌で喜んでお金までいただくなんて感謝しかないじゃん?!顧客は大事に、だよ!!!?
「へー、変わった歌だな」
「相変わらずだね、姉ちゃん…。」
「引いてないよね?」
「あぁ」
ウルトラソウッで引かれたら何も歌えないじゃないか。
一応英語とカタカナはあったけど、私の発音の悪さで軽く空耳しか聞こえないだろうし。
梵ちゃんは聞き慣れない単語を聞き取ろうとしてたけど、まぁ私の発音じゃ無理だよ!!
「できたで!」
「おっ」
ナイスタイミングで桃ちゃんが手を挙げて喜んでいるのが見えたので、私も一緒に両手を上げた。
生贄になったやよっちゃんが俯いたまま背中を押されて前に出てくる。
「あ、あぅ…シズカお姉ちゃ……」
「ギャァァアァ!がふっ!」
やよっちゃん の おめめきゅるるん こうげき!
きゅうしょにあたった !
いちげきひっさつ!
シズカ は たおれた!
テレレレッテッテーン
頭の中で勝利音が流れる。そのぐらい、殺傷能力は抜群だったのだ。
白粉に紅をさして少し頬も赤くて、何を思ったか控えめメイク。
とりあえずなんか後光が見えるしあぁもうやばいよよよ!???!!!!桃ちゃん天才なのでは?!!?
「…嘘だろ…」
「弥三郎…別人じゃん…」
横にいたboysもビックリビックリビンビンだったのかポカンと間抜けな声と感想を送った、かという私は自分の中で理性と煩悩で葛藤を繰り広げる羽目に。
「あぁ…うちの最高傑作や…!」
自分のメイク術に手を合わせてうっとりしている桃ちゃん。
対象的にやよっちゃんは肩を落として半泣きである。
「桃子~?何処におるんー?」
「あ、おかんや。じゃあな姉ちゃん!また会おうなっ」
遠くにお母さんの声と姿を捉えた桃ちゃんは手早く荷物を纏めると、嵐の様に去って行った。
「…………」
後には呆然とする私達と半泣きで俯いているやよっちゃんが残される。
「………シズカお姉ちゃん……」
「…早く帰ろうか」
「うん………」
ぷるぷる震えているやよっちゃんがなんだか可哀相になったので、帰り話を持ち掛けると与一達も同じ気持ちだったらしく頷いてくれた為大急ぎで撤収!!やよっちゃんを早く解放してやらねば!!あでも写真は撮らせて欲しい。10アングルほどお願いします!!!!
ふふふふふ、これでまた私のマイメモリーベストウィッシュに思い出が増えるね……
とくにトリップしてから写真を撮る手がとまらねぇんだ……
例えば、与一と梵ちゃんの寝顔(手を二人でとってるとか萌ぇえええ)とかやよっちゃんが野菜を楽しそうに引っこ抜いてる写真とか。
充電器持ってないから、充電なくなったら怖いけど…!
「……シズカお姉ちゃん…」
「大丈夫、ちゃんと家に帰ったら写真撮ってから落としてあげるから!!」
「僕、本当に姫になっちゃった…、」
「姫?」
「あ、えっとね、元居たお家で……たまに呼ばれてたんだ」
やよっちゃんはそういって一度正面を見据えた。
落ちはじめた日に輪郭が縁取られて、やよっちゃんの銀の髪でキラキラ輝く。お化粧しているからか、それとも元々の顔の良さか、その横顔はアンニュイでもあり、引き込まれるような美しさを誇っている。
「僕…お外に出てなかったって言ったけど……そうしてたらいつのまにか、そうやって呼ばれてて……」
それは、どう考えても嘲りだ。
やよっちゃんのことを馬鹿にした呼称なのは私にだってわかる。この時代それを言われて嫌な気持ちになるのだって簡単に想像がついた。
「ごめんやよっちゃん…」
「え?」
「嫌だよね、お化粧なんて……やよっちゃん男の子なのに」
可愛いからって、女の子っぽいからってお化粧や女装が嬉しいわけじゃないってこと、忘れてしまっていた。
ごめんね、本当に傷ついたよね……と言えばやよっちゃんは私の手を取った。
「ちがうの、あのね」
「え?」
「僕は男の子だけど……姫でいいって思ってたんだ」
だって、姫のままならお外に出て怖い思いをしなくても済むでしょう、とやよっちゃんは遠くを見て言う。その目にはどこかにある本当の家の景色が、人が、記憶が映っているのだろうか。
私は何も言えずにやよっちゃんの言葉の続きを待った。
「……ううん、お外はそんなに怖いことばっかじゃないんだって知った今でも、僕は姫のままでいいやって思ってる」
「……」
「お化粧してみて、姫ってこんな気持ちなんだなって思えたから、……思ってたよりも嫌じゃない、のかも」
「やよっちゃん」
やよっちゃんはそんな曖昧な言葉を使うと、私の手を強く握った。
私はその力の強さに驚く。
「シズカお姉ちゃん達と会ってから、毎日本当に沢山のことを知れて楽しいの、だからね、謝らないで」
「やよっちゃん……」
彼は何を思っているのだろうか。
やよっちゃんの置かれた環境も、言われた言葉も、もちろんその心うちも分かるはずないので私は強く握られた手を握り返すことしかできなかった。
少し心の奥にもやっとしたものが残ったけれど、気づかなかったふりをした。