私の神様(仮)
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「ぬ」
「さてさて!お買い物に!行こう!!」
「ついでに油とかも買わないと」
「ok」
……
…………?!?!?!!!!??
「いいいいいいいいま何つった?!?」
やよっちゃんを迎え入れてご飯を食べて布団を干して、ふぅ、と一息茶ァしばいた後、根っこが生える前にと立ち上がって体を伸ばしたら梵ちゃんから聞き慣れてるけど聞き慣れてないワードが飛び出した。
ギュンッと其方を向くとドヤ顔の梵ちゃんが腕を組んでいた。
「もももももしかしてもうダテムネの片鱗が?!?」
誰だ純粋ニヒルかっこいい梵ちゃんに英語教えたのは!!!
「って私だ?!!?」
「姉ちゃん落ち着いて!」
膝から崩れた私に、与一が慌てて背中をさする。
うう、小さなおててが温けぇや…
まだもう少し可愛い梵ちゃんを眺めていたかったのに……電子辞書使いこなすの早すぎじゃない?!
未練がましい目で梵ちゃんを見ると梵ちゃんはニヤリと笑みを浮かべて、まさにどっきり大成功!と言った表情だ。
くそぅ…帰ってきたら電子辞書の電池の残り確認しよ…
「シズカお姉ちゃん、膝大丈夫?」
「うん…ありがと与一、やよっちゃん……子供はすぐ大きくなっちゃうね…」
よよよ、と涙をこぼしながらどさくさに紛れて与一をギュッとすると与一は「暑い」ともがく。
えーん!!酷い!抱きしめ返してよ!!
「シズカ、早く行かないと店閉まるぞ」
「呉服店遠いの?」
「ついでに町の案内もしようと思ってさ」
私の腕からするりと抜け出しながら与一は言う。
やよっちゃんは「ほんと!?」と嬉しそうな声をあげてぴょんと飛び跳ねた。そうだった!人気の団子を売ってるお店とか、お野菜が安いお店とか色々案内したいんだった!!
「こうしちゃいられないね!!行こう!与一!梵ちゃん!やよっちゃん!!」
いざゆかん!社会見学!!
「ねぇねぇよーちゃん、あれは?」
「あそこは金物屋!良いもの揃えてるって話だけど、店主のおっちゃんがちょっとおっかないんだ」
「あそこは?」
「あれは米屋だな、あそこから奥はずっと米場になってるんだ」
「梵あそこ行ったことあったっけ?」
「前に一回帰りに通り過ぎたろ」
「あ、そうか」
「お店全部がお米屋さんなの?」
「そうそう、一区画ずっと」
「へぇー!」
なぜだか最初はびくびくとあたりを見回していたやよっちゃんだったが与一による社会見学ガイドのおかげなのかすっかり緊張は解けたようだった。
数歩先を歩いているちびちゃん達を眺めて私はニヤニヤとしている。
やよっちゃんが「すごーい!」「そうなの?!」と反応するたびに与一が嬉しそうな横顔で身振り手振りで教えていて、梵ちゃんがたまに口を挟んで、それにまたやよっちゃんが嬉しそうにぴょんと跳ねる。
与一も梵ちゃんも大人びて見えるけど、こうやって見てると年相応の子供のようだ。それに町を案内する与一は本当に楽しそうに見えた。
「むふふふ」
「何ニヤニヤしてんだよ」
「いや、与一が楽しそうで良いなぁって思って」
「……」
少し歩幅を緩めた梵ちゃんは、私の回答を聞いてまんまるな目をこっちに向ける。それから肩をすくめて、何も言わずにまたふたたび与一達に混ざっていった。
梵ちゃんももちろん楽しそうで、その光景をしっかりじっくりジットリと満喫していると、あっという間に見慣れた景色が広がってきた。
店先にかけられた看板代わりの大きな暖簾が揺れて、そこにきれた「呉」の文字がチラリと見えた。
「シズカお姉ちゃんはやくはやくっ」
やよっちゃんが我先にと暖簾をくぐって駆け込み、次いで与一が後を追い、最後にゆるりとした動作で梵ちゃんが暖簾をくぐった。
前の3人に倣って中に入ると、ちょっとだけ薄暗い店内には所狭しと着物と生地が並んでいた。どれが何でいくらなのかもわからないが、とにかくわかるのはコレの中から何かを探すのはものすごく大変そうだと言うことだけだ。
辺りを見てみるとすでにやよっちゃんと梵ちゃんの姿はなく、私と同じようにキョロキョロとしている与一を見つけた。
「与一」
「姉ちゃん着物って…高いんだね……」
チラリと着物の横に置かれた板に視線を向けて与一が声を潜める。この時代、数字が漢字のような何かで書いてあるため私は全く読めてないんだけど空気を読んで頷いておいた。
なんか、そう、これは初めて大型百貨店に足を踏み入れて、名だたるブランドショップと美人でいい匂いのするお姉さんに絡まれる…….アレだ…!!
「ねぇ、梵ちゃん。この色とあの色ってどうかな?」
「あー…こっちの色だったら白より朱色じゃねぇか?」
「そっかぁ…あ、その下地だったらあっちの…そう、その帯がいいよ」
「おう、」
そしてそんな中で堂々とお買い物を楽しみおる梵ちゃんやよっちゃんの肝っ玉よ……
可愛らしい着物を楽しそうに選んでいる2人にウフフ、となりつつ(やべぇお金足りるかな…)と微妙に思っていると店の奥からガタガタと引き戸が鳴って「いらっしゃい」と声がした。
着物の森の奥から現れたのは若い人あたりの良さそうな兄ちゃんで、彼は私と与一、それから梵ちゃんやよっちゃんと順に視線を向けてキョトンとした表情を浮かべた。
「おや、ずいぶんと子沢山なお客さんだ」
「こんにちは!」
やよっちゃんが手を挙げて挨拶をする。
それに兄ちゃんはこんにちは、と、ニコニコしながら手を振りかえす。
なんかずいぶんと若い人がやってるんだなぁと眺めていたら、ふと、兄ちゃんが顔を上げた。
「何か私の顔に何かついてますかね?」
「あっ!いえなんかずいぶん若い人がやってるんだなぁと思って…」
ジロジロ見てすいません!!と頭を下げると兄ちゃんはいえいえ、と首を振る。
「もともと母が営んでたんですが、先日腰をやっちゃいましてね、それでちょうど良いやと言うことで私が代替りをしたんです」
「あーなるほど!」
ポンと手を打つと、兄ちゃんは「そんなわけで今後ともどうぞご贔屓に」と会釈する。つられて私が頭を下げると、与一達もつられて頭を下げた。
「今日は着物をお探しで?」
「あ、私じゃなくてこの子になんですけど」
やよっちゃんの方に視線を向ける。兄ちゃんはやよっちゃんを見てちょっと首を傾げた後、手に持った着物を見て笑みを浮かべた。兄ちゃんもやよっちゃんの可愛さにメロメロか?わかる、わかるよ!
「そうだ、それとほぼ同じなんだけれど、素敵な反物があるよ」
「えっほんと?」
「今持ってくるからちょっと待ってな」
兄ちゃんは去り際に私にウィンクを残して(なぜ?)店の奥に消えると、手に大きな箱を持ってすぐに戻ってきた。
「これこれ、どうだい?」
「わぁ!」
箱の中には色とりどりの着物が入っていた。新品ではなさそうだけど、どれもよく手入れされているのが一目で分かった。兄ちゃんはその箱の中をゴソゴソと漁ると、やよっちゃんが手に持っていた着物と同じ色合いのものを取り出す。
「ほらこれ!丈も長めだし、ぴったりじゃないか?それに、実はこっちには柄が入ってるんだよ」
ひらりと裏返されたそこにはかわいらしいお花の模様がつけられていて、やよっちゃんは嬉しそうに手を叩いた。
「かわいい!僕、これがいい!」
「私の娘のおさがりなんだけど、すぐに着なくなっちゃってね。よかったら心機一転格安で売るよ」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん!代替わりした呉服屋【しぐれ】をよろしくたのむよ」
子供が多いからお得意様になると判断されたのか、兄ちゃんはにっこりと笑みを浮かべて見せた。
兄ちゃんの期限がいいついでに与一や梵ちゃんの服も余分に買っておこう…!
そして今後とも良いお付き合いができるといいなーなんてちょびっと邪心を抱いて、私は与一にぴったりな着物を見つける作業に取り掛かった。
「あっこれめっちゃ電●のキンタロスっぽい!!これにしないか!?」
「大きさが全然違うよ姉ちゃん」
「くぅ~~~!!!与一今すぐ身長20センチくらい伸ばさない?!」
「無理に決まってるじゃん!!」
「さて布団…はどんなのがいいかな!やっぱ可愛いのがいいかなぁ!ねえやよっちゃん!」
「うん!僕お花がいいな!」
「大きいのがいいな」
「みんなで雑魚寝するってこと?」
「やだよ、だって梵ってば寝相悪いんだもん」
「あ?与一てめえ俺になんか恨みでもあんのか?」
「夜中蹴られた」
痛かったんだからな!と蹴られたんだろう左腕をさする与一に、梵ちゃんは自覚があるのか苦虫を嚙み潰したような顔になる。
まあ確かに朝起きたとき梵ちゃんひっくり返ってることあるもんな…と思いだして、乱れて眠る美少年ズに思いをはせる。
な、生足鎖骨ちらりの美少年たちがくんずほぐれつ…?!
「くうううぜひ布団一枚ですごしてください!!」
「「絶対嫌だ!!」」
ギギギ、とにらみ合いをしていた二人の声がハモってお互い再び渋い顔になった。それをみてやよっちゃんがケラケラと笑い声をあげる。
「二人とも仲良しさんだね」
「何言ってんの、弥三郎もだよ」
「お前だってもう家族なんだからな」
「……!」
きょとんとした後、やよっちゃんは花が咲いたみたいに笑みを浮かべた。
うれしい、と呟いた声がちょっとふるえていたような気がしたけど、あまり顔を見ないようにした。
やよっちゃんもなんか家族とひと悶着あるタイプのおうちで育ったのかなぁ、とかなんとか考えていたら布団屋さんの前を通り過ぎたらしく、与一があきれた声を上げる。
「姉ちゃん行き過ぎ」
「ワォ!」
やよっちゃんと手を繋いで店の中に入れば、色々な種類の布団とニコニコしながらこちらにくる店主さんが目についた。
かわいらしい花柄や(もう、やよっちゃん決定)唐草模様の緑の布団とかが積んである。
さっきよりも埃っぽい空気なのはひとえにこの布団の重量感によるものだろう。
……これだけ沢山あれば一つぐらいある気がするんだけど。
「、すいませーん。ラブホ風の布団ありますかー?!」
「……はい?」
意味がわからない、と言わんばかりに目を丸くさせて店主さんが声をあげた。
説明しよう!
私は昔からラブホの布団が見てみたかったのだ!所謂極彩色の布団で視力にとてもよろしくないという、アレ。すごい派手なデザインで、汚れとかが目立たない色合いをしている!らしい!!
しかしどうやらおじさんはラブホがわからないらしく硬直したままである。
そりゃあそうじゃ!
「すいません、気にしないでください。ちょっと頭打ってるんで」
「与一、酷いよッ!」
そう言った私を華麗にスルーして子供たちはさっさと布団を選びにかかっていく。そして私のことはおおむねスルーしてさっさと布団を決めて戻ってきてしまった。
重量感抜群な布団一式を抱えて私達は家路を急ぐ。
「お…っおも……!」
「…シズカお姉ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だ…よ……!後で梵ちゃんがメイドになってくれればね…っ!」
「無理」
「梵ちゃんメイド解るの?!」
「よくわかんねえけど、俺にとって良い事じゃないのは解る。」
「………(梵ちゃんにも耐性が付き始めてる…!)」
帰り道を行く私たちの足元に影が4つ伸びている。
今日も一日楽しかったね~!と言えばやよっちゃんから元気な返事が返ってきた。
えっちょっと二人は?!
「梵ちゃん与一!返事は?!」
「えっ、うんまあいい日…だったかな、天気もいいし」
「右に同じく」
よしよし!ちびたちが楽しんでくれてるならそれでよし!
私は重量感抜群の布団に押しつぶされながら今日の夕飯に思いをはせて家路を急いだ。
……このままだと腰痛めちゃいそうだからね!!できるだけいそいで!!!帰ろうね!!!!