私の神様(仮)
名前
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「い」
「ぐあっ!」
「ッ佐助!」
「…………」
めぎり、と嫌な音が背後で響いてかすがは思わず振り返った。その刹那、冷たい光が喉元を捉えて咄嗟に身体を引く。
この数センチ下がらなければ自分の喉は掻き切れていただろう。
距離を取り、伝説と呼ばれたその人物を目に焼き付ける。
まさか、本当に実在していたなんて。
丸く肥えた月の光を背に、小太刀が煌めき翼が舞う。僅かに見える口は一文字に縛られ、言葉を発することはない。
ただそこにいるだけなのに感じる圧迫感と恐怖を前に、思わずかすがはつぶやいていた。
「……あく、ま……」
今まで相対して来たどんな相手よりも恐ろしく、強大で圧倒的な力の差を感じる。
音もなく振り翳された小太刀に自分たちの血が混ざっているのを目にし、最期を悟る。
あぁ、謙信様…貴方様にお仕えできて幸せでした……
「っ馬鹿野郎!」
咄嗟に腕を引かれる。橙色の髪が揺れて、土草色の上着が目に飛び込んでくる。
「さす、け」
「諦めてんなよ!まだ俺たちには守らなきゃならない主人がいるだろうが!」
鼓舞される。そうだ、私はこんな所で死んでる場合じゃない。せめて、せめて謙信様を守るためにこの命を散らすのだ。震える足を叱咤する。
逃げろと叫ぶ脳を無視する。
「かすが、雷塵」
「ッ」
背中越しに放たれた言葉にかすがは息を詰めた。
雷塵は里に伝わる禁術だ。昔、まだ幼かった頃に師匠の書庫から見つけた禁書、その中に記載されていた。
淡い記憶を掘り返す。
禁書に書かれた印を紡ぐ。紡ぐ。
「「禁術、」」
バチバチバチ
空間が歪み、瓦解する。
音を立ててそれは形をなそうとしている。
古い記憶だというのに、それは不思議と鮮明に思い出せた。
あの時もこうやって佐助と…あと……。……?
ふと記憶の隅に引っかかるものがあったが、記憶の本流に流される。
「「雷塵」」
発動まであとわずか、という所でその悪魔は腕を振り下ろした。
目にも止まらぬ速さで苦無が放たれ、佐助の腕を掠める。彼の腕は途端にだらりと力を失ったように垂れた。
「くっ、そ、麻痺毒か!」
「佐助……!」
途中で紡がれなくなった禁術が暴走する。
雷が爆ぜて火花を散らし、空間はどんどん歪んでいく。暗雲が立ち込め、蟠を巻いていく。
空気が震えて木がさざめく。
これは。
「ッかな、り、不味くないかこれ…」
震える声で佐助が呟き、かすがも悪魔も身構えた。
禁術はその多くが発動するための条件が厳しかったり、代償を求めるものだったり、あるいは何かの犠牲を伴ったりするものが大半だ。
だからこそ手にするものを厳しく制限したり、一子相伝であったりするのだが、果たして雷塵の代償はなんだったか。
かすがが記憶を必死に手繰り寄せている間に、どんどんと歪みは大きくなり……そして
「っぎゃぁぁぁああ!!」
……大絶叫と共に人が落ちて来た。