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横たわる熱と灰
「ねぇミラージュ」
「なんだなんだ?この俺ミラージュ様になにかご用かな?」
「今回のゲーム、本気出そうと思ってるんだよね」
唐突な宣言に、隣で屈伸をしていたミラージュはポカンとした表情でコチラを見た。
ドロップシップの中は戦場に向かっているとは思えないほどリラックスした空気が満ちている。今日はどんな戦略を試そうか、なんの銃を使おうか、そんな様々な思いつきを試してみようとする余裕がある。
ニューキャッスルとバンガロールは何か雑談をしているし、オクタンは義足でぴょんぴょんジャンプして具合を確かめている。レイスはじっと窓の外を見ていて、クリプトはまだ座ったまま何か端末を操作している。皆、これからのゲームにいい意味でベストコンディションなのが見て取れる。
もしかしなくても、今このドロップシップにいる中で一番緊張しているの私だ。
ミラージュは屈伸していた前屈みの姿勢から戻ると首を傾げて私の顔を覗き込む。
「ど、どーしたんだ?急にやる気が出てきたってのか?ナナシが?」
「そーだよ。今日の私は一味も二味も違うんだ」
「はっはーん、わかったぞ。なんかそりゃあもう涙が出ちまうくらいいいことがあったんだろ、そうだなぁ俺の予想だと……髪型だ!どうだ?当たっただろ?」
わざとらしいくらい顔をくしゃりと悩ませたあと、打って変わって笑顔を浮かべて、……ミラージュは言う。くるくると変わる表情に私はつられて笑って、それからきゅ、と唇を噛んだ。
私は今日、チャンピオンをとる。
それで、ミラージュに告白する。
ちゃんと考えたらもう少しいいやり方があるかも知れない。ローバみたいに、思わせぶりなことを言って誘惑するとか。ラウンジに通ってちょっとずつ仲良くなるとか。
けれど、私はそんなに時間をかけて距離を詰めるなんてやってられない。今すぐにでもミラージュに抱きついてしまいたい。今すぐにでも、キスを送りたい。貴方を好きだと伝えて私のものにしてしまいたいのだ。
だから決めた。
チャンピオンをとって告白するのだと。
正直ミラージュが私のことをどう思っているのかはさっぱりわからない。
彼はいつも誰に対してもパーソナルスペース広めだし、態度も大体こんな感じだ。嫌われてはいないと思うけど、恋愛感情を持たれているようにも思えない。
「今日の髪型イカしてるなぁ、なんていうかー、あー、……いっきょ、きょ、一丁裏!ってかんじでよぉ!」
「ありがと、ミラージュも今日も超イカしてるよ」
「だろだろ〜?」
今日は絶対チャンピオンをとる。
それで、ミラージュに告白するんだ。
髪型と服装のこだわりについて話すミラージュに相槌をうつ。
そうこうしているうちにドロップシップがエリアの上空に突入するアナウンスが流れた。
視線をあげると、モニターに今日のチームメイトが表示される。
「あ」
「おっ、残念どうやら俺たちは別チームらしい!」
私のバナーの横にはマッドマギーとヒューズが表示されている。2人ともバナーデザインを変えたのか、デカデカの自身の顔が表示されていて、まるで双子のようだ。思わずふふ、と笑うと、ゲェ、とマッドマギーの嫌そうな声が響く。
「おいヒューズ!なァに真似してんだ!」
「おいおい、お前が、俺の、マネをしてんだろ」
そんな喧嘩声に肩をすくめてもう一度モニターに視線を向ける。ミラージュは……オクタンとシアだ。
「同じチームですね、よろしくお願いします」とシアが腰を折って挨拶をするのにミラージュが片手を上げて返す。オクタンは誰が同じでも一緒だと言わんばかりに顔を向けてこちらを一瞥したのち、くるくると肩を回した。
『まもなくワールズエッジ上空です。レジェンドはチームごとにスタンバイしてください』
アナウンスが鳴る。
ミラージュがぽん、と私の背中を叩いた。
つられてそちらを見ると、ニンマリとした笑顔がある。どきり、心臓がギュッと痛くなる。
「まっ、いつもどーりリラックスしてけ、それからちょーっとのスパイスで緊張する、それが1番ちょうどいいんだ。あんまり気張りすぎるなよ?」
「う」
こう言うところが本当に、好きだ。
ばくばく、心臓がうるさい。
目の前が酸欠でチカチカする。
苦しくて、眩暈がして、今すぐにでも喉から言葉が飛び出してしまいそうだ。
ふらふらとする足取りでゲートに立つ。
がこん、リフトが動き始める。強風が吹き込んできて、ミラージュが褒めてくれた髪の毛なんか一瞬で乱れてしまった。
ヒューズが「よろしくな」と言って肩を叩いてくれた。
ちらり、ミラージュを見る。
彼はニコニコとしてオクタンと何か言葉を交わしているようだった。風と、ドロップシップの音がうるさくて何も聞こえない。
あ、あぁ。
これならバレないだろうか?
「ミラージュ」
小さな声で名前を呼んでみた。
ねえ、好きだよ、って、
貴方が欲しくてたまらないの、って。
気づかないだろうと思って呼んだのに、彼はパッとコチラをみて手をヒラリと振った。
あ
(溢れる)
「ミラージュ!!」
声を上げた瞬間、私の首に腕が回ってきた。
ぐっ、と呼吸が薄くなり、自分のではない力が身体を引き落とす。
「っ大好きだぁぁぁあぁぁぁ」
「!!」
驚いたミラージュの顔が、ぐんぐん遠くなっていく。
風が耳を打つ、空気の匂いが変わる。私はまだミラージュの顔を見たまま。首にまわっていたマッドマギーの腕がさらに力を込めて私を引き寄せた。
「気合い十分じゃねぇかナナシ!アタシゃそういうの好きだね!」
「いいねぇ、青いねぇ」
「チャンピオンとって祝杯をあげようぜ!!」
そうだ、チャンピオンとらなきゃ、
酸欠でクラクラする頭を振って私は前を向く。
ごうごうと身体を打つ風は、熱を奪い、私の言葉をも飲み込んで行った。
「………」
「ヒュー!やるねぇナナシ」
「ふふふ、いいですねぇ。こういうの。私大好物です。」
「…………な、なぁ、あれ、マジだと思うか……?」
「そりゃー終わってから本人に聞くんだな!行くぜアミーゴ!」