少年はひとり
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今ここで生きている
―――…目の前で校舎が崩れていく。
破壊していく。
目下で膝をつき、悔しそうな表情の彼らを見ながら。
壊す。壊す。壊す。壊す。
壊して壊して壊して。
完全に崩れ落ちた校舎と、逃げ惑う生徒たち。
エイリア石の力の恐ろしさを感じながら、それでもどこか無関心だった。
だって、オレだって逆らえないから。
だからオレは宇宙人の『レーゼ』にならないと、サッカーで力を示さないと!!
エイリア石がより強く反応して頭の中をクリアにしていく。
沢山の足音が聞こえてくる。
振り返れば今年のFF優勝チームの面々がこちらを睨んでいる。
「――…我々は、遠き星エイリアよりこの星に舞い降りた『星の使徒』である。」
そう、オレは
いいや我らは。
「我々はお前たち星の秩序に従い、自らの力を示すと決めた。」
誰より強くならないと。
我々が強いことを示さないと。
「サッカーで我らに勝利しない限り、地球に存在できなくなるだろう!」
オレ達が、存在するためにも!!
そして我らは人々を服従させるために傷つけるサッカーをする。
雷門中のサッカー部たちを見下して我らは廃墟と化した中学校を後にする。
校舎を破壊していくたびに、浴びせられる罵詈雑言、悪意、敵意、殺意。
それらから逃れたくて目をそらしたくて、耳をふさぎたくて、忘れたくてエイリア石にのめり込んでいく。
常にエイリア石を付けていないと、どうしようもなく不安で、弱い自分がどうしようもなく脆く感じてしまった。
最初はサッカーをする時と不安になった時だけ、それがどんどん時間が増えて来て、いまはもう、エイリア石がないと落ち着かない。
まるで麻薬だ、と与えられた個室のベッドの上で、ぼんやりと考えた。
そして、ついに来てしまった。
やっときてくれた。その瞬間。
「やったーー!勝ったぞーーー!!」
膝から力が抜ける。終わって、しまったのだ。
我々が、負けたのだ。
両手が震える。膝をつく。
キャプテンの声に喜ぶチームメイトたちの声。
自分たちが敗北した相手の勝利の歓声が耳をすり抜けていく。
顔を上げればジェミニのみんなも同じように呆然としていて、まるで信じられないかのような表情をしている。
そのままゆっくりと自分のほうへ視線を向けてくる。
(私たちは負けたのですか。)
そんな絶望にも、混乱にも似た色をしている目が問いかけてくる。
(我らはもう、)
…そうだよな、オレたち、もう。
「少々おしゃべりが過ぎたようだな、レーゼ」
「――デザーム、さま」
「敗者はエイリア学園にいらぬ。」
お前たちを、追放する。
「……」
どうして、だろう。
満足している自分がいる。
なぜ、
あれほど必死にしがみついてきた居場所から追放されたのに、こんなに安心しているんだろう。
目の前で飛んできたサッカーボールが黒くゆがむ。
一度デザーム様を見つめる。彼は、昔みたいに笑ってはいなかった。
ただ、支配者として。あざ笑うみたいに口端を持ち上げている。
自分も外からはこう見えてたんだなぁなんて場違いに笑いが漏れた。
ああ、こんなに安らかな思いになるのだったら早く追放されてしまえばよかった。
今は不思議と簡単に手放せた。
エイリア石も、エイリア学園も。…ただ少し心残りなのはお日さま園だけれど。
ジェミニの皆を見渡す。
みんな、何故か笑っていた。苦笑しているのも、ニヒルに笑っているのもいた。
なんだ皆も同じきもちだったんじゃないか……――――
少し笑うのと同時にオレの視界は真っ黒に塗りつぶされていった。
「―――これが、オレがナナシに会うまでしてたこと」
震える手、泣きそうになるのをグッとこらえて顔を上げる。ナナシは真剣な目でオレを見ていた。
きゅっと優しく、それでもどこか強く手を包んでくれてる名前の手のひらは暖かい。
「引いたろ、宇宙人なんて。しかも学校を壊して、いろんな人を傷つけて。」
嘲笑とか涙声とかそういうの全部吐き出してしまいそうになる。
なんとかポーカーフェイスを保とうとするけれど、そのせいでもっと変な顔になってそうで。
いつもどんな顔してたんだっけ?
どんな声音で話してたんだっけか?
レーゼじゃない自分は一体どんな人間だったっけ。
「…ねぇ」
ナナシが口を開いて、オレの肩は大げさにはねた。
何を言われるのかと身構えたオレに、ナナシはにっこり笑って。
「なまえ。」
「え?」
「レーゼって、本当の名前じゃないんでしょう?君の本当の名前、教えて?」
「あ…」
オレの本当の名前は。なまえ、…は
「リュウジ…緑川リュウジ」
「……緑川リュウジくん」
ぞわりと何かが背中を這った。
なんだろう、この感覚は。
むず痒いような、恥ずかしいような。
頭がガツンと殴られたような。目が覚めるような感覚。
自分の名前。
緑川、リュウジ。
「…こんにちは、私はナナシ。改めましてよろしくね。」
ナナシはふわりと笑う。初めて会ったあの時と同じ笑顔で。
「君がここを出て行きたくなるまでここにいていいんだからね」
「今は、ここがリュウジ君のお家だと思ってくれていいんだから」
ぼろりと目から涙があふれてきた。
一度こぼれた涙は止まらないで。ずっとずっとあふれて。
「お、れ…ここにいて、いいの…?」
「…うん。リュウジ君が居たいと思うだけ居てくれて構わないよ。」
隠そうとしていたものが全部涙になって零れ出てるんじゃないかってぐらいに、涙があふれて。
声も震えてるし、鼻水も出そう。
ああ、オレ情けないなぁ
ナナシが立ち上がって俺の隣まで来た。
歪む視界でもナナシがゆっくりとオレの背中へ手を伸ばして、圧迫感。
ナナシの腕の中は柔らかくて、あたたかくて、いい香りがした。
「―――…おかえり。」
「っ」
息が詰まった、
おかえり、…おかえりなさい
その言葉に自分でもワケがわからないほど心が揺れた。
苦しくて苦しくて仕方ないのに嬉しくて、吐きそうなくらい泣き声を上げて
「ただいまぁっ…!」
ナナシに思い切りしがみついた。