少年はひとり
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「そして、ここにいるのは」
あの日、オレたちはいつもの朝を迎えた。
今日お父様が来てくれるって!園の女子が嬉しそうに話している声で目が覚めたんだ。
オレはお日さま園っていう施設に住んでいて、周りには同じような境遇の子達が沢山居た。
結構な人数が居たと思う。
仲のいい子もいたし、名前だけ知ってる子もいたし、名前すら知らない子も居た。
お父様、っていうのはその施設を経営してる人。
すごいお金持ちだって聞いてる。
オレ達はそのお父様のおかげで生活に困ることなく生きて来れてて。
皆はそのお父様がダイスキだった。
だからその日は一日中どこか落ち着かないような雰囲気があって。
こういうのを「浮足立っている」っていうんだなって思ったのを覚えている。
―――…けれど、オレはどっちかというとあの人があまり好きじゃなかった。
そりゃあ、身寄りのないオレ達の居場所を作ってくれた人なんだけど。
どこか不気味で、どこか上辺だけの笑顔を浮かべてるみたいで好きになれなかった。
そう。それでその日もお父様が来るって皆が騒いでて。
大夢…オレの一番の友達と二人で遊んでたんだ。
そしたら、変に細くて不気味なオジさんが来て「お父様が呼んでますよ」って言うから。オレと大夢で顔を見合わせた。
何でオトウサマがオレ達を?
不思議に思いながら連れられた先には他にも大勢の園の子達が集まってて。
やっぱりそこには知ってる子、知らない子、話したこともない子もいた。
何が始まるんだろうとざわつくオレ達に、オトウサマから発せられた一言は。
「君たち、サッカーは好きですか?」
サッカー。
種目として、一つのスポーツとしては知っていたけれど。
サッカーっぽいものをやったりはするけれど。そこまで真剣にやったことはなくて。
「私のために、サッカーをやりなさい」
威圧的に言い放たれた言葉。
笑みの消えたその顔がオトウサマの本性だってすぐにわかった。
しらずしらずに大夢と手を握りあっていた。
こわい。
純粋にそう感じた。
そのあと、サッカーをやるために別の施設に移されて血とか抜かれて、いろんな器具を付けられて。
「おめでとう。君は選ばれたのですよ」
「……」
「君は今日から『レーゼ』です。エイリア学園、ジェミニストームのキャプテン。レーゼ。今の名前は捨てなさい。」
「レーゼ…」
その日から俺達はジェミニストームとしてサッカーの練習を始めた。
同じチームに当たった大夢(その時はもうディアムだったけど)と、あと女子と、知ってる子、知らないやつ。
皆訳が分からないまま決められたプログラム通りに練習して、またデータを取られて。
何人かジェミニストームからいなくなったりして、そのたびに新しいやつが入ってきて。
「実力主義の世界はこんなものです。同情してたら貴方も捨てられますよ?…いくらキャプテンだからと言ってもね」
捨てられたら、お日さま園に帰れるのか、
…帰れないだろうな。
この間脱走しようとした奴が捕らえられたと聞いた。
「知ってるか?○○、つかまったって」
「ああ、脱走しようとしたんだろ?聞いてるよ」
○○は一週間前まで同じチームでサッカーしてたやつだった。
けれど、なんかもうそんなことはどうでもよくて。
ただ負けられなくて、勝つしかなくて頑張るしかなくて。
「貴方たち、もっと強くなりたくはないですか?」
「はい」
「これを付けて練習しなさい。きっともっと強くなますよ」
手渡されたのはプロテクター。
中央には不思議な色の光を放つ石みたいなものがはめられていて。
手にした瞬間「これはやばいもの」と頭が警告を放つ一方、手にすれば強くなれるという確信。
オレ達には勝ち続けるしかなくて、
勝っていないと居場所なんかなくって、
生きていくことが出来なかったから。
迷いなんてなかったから。
エイリア石を手にするしかなかったんだ。