少年はひとり
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死んでしまったものは
レーゼがこの家に来て数日が経った。
この数日で分かったことは、使われていない部屋が沢山あること。
この家にはナナシが一人で住んでいること。
本が沢山あること。(ナナシも読み終わっていないぐらい膨大な量が)
洗濯機、キッチン用品は最近のものであること。
そしてナナシはレーゼが起きるより必ず早く起きて朝食を作ること。
「どれだけ居てもいいよ、私一人しか居ないから。あ、でもレーゼくんはあくまでお客さんだから、ご飯は作らせてね」
少しおどけてナナシが言ったが、レーゼはそれでは不平等だと(…)思った。
だから、掃除くらいは手伝うと申し出たのが数日前。
そんな事を思い出しながらレーゼは腰を伸ばした。
今は、お風呂掃除の真っ最中だった。
長い髪が肩から流れてきている。
(ちょっとうっとおしいのだが、髪を上げるとナナシは嫌そうな顔をする。)
(「あんまり似合わないね」)
(ほっといてくれ)
この家はナナシが一人で掃除するには大変で、だからナナシは一日に掃除する部屋を決めておいて一週間で家全体を掃除できるようにしている。
レーゼに今日割り振られたのは風呂掃除。ナナシから借りたジャージの裾を折って上げて、手には洗剤。
ディアム辺りに見られたら指を指されて笑われそうな光景ではあった。
「レーゼくん。」
「なんだ?」
ひょっこりナナシが顔を出した。
後ろに何かを隠しているのか不自然な動きで浴室に入ってくる。
「お掃除ありがとうね」
「べつに、これくらい」
「でね、お礼。ちょっと後ろ向いて?」
ニコニコとして言うその顔に裏がないようだったのでレーゼは言われた通り後ろを向いた。
髪、ちょっと触るね。ナナシが言うなり髪に手が触れた。
さらさらと手櫛で梳かれてそのあとブラシが入る感覚。
何をされてるのかと訝しんでいると、ナナシが声を挙げた。
「うん!これでよし!なかなか似合うよ!!」
「なにをした、」
「ほら!」
手鏡を渡される。覗き込むのと同時に首に髪の束がぶつかる感覚。
後頭部で髪が一つにまとめられていた。
俗に言うポニーテール。
これは、女子がする、髪型じゃないのか。
そんな意味もこめてナナシを見たが、ナナシはニコニコと笑っていてとても言い辛い。
「レーゼ君髪が長くてそのままじゃ邪魔だって言ってたでしょ?」
だから、それ、レーゼ君に。
薄い紫のヘアゴム。
きれいにまとめられた髪はやっぱり女子みたいだったけれども。
「…ありがとう」
「!ううん!いいんだって、お礼だから!」
ナナシみたいに素直に感想を言ってみればナナシはずいぶん慌てた様子で(それでもすごく嬉しそうに)首を振った。
それが少し面白くて(そう、面白い、と思った)思わずレーゼは笑みをこぼした。
「…レーゼ君、笑ったほうがいいよ。うん、絶対」
ナナシがそう言うからその時初めて自分が笑っていることに気づいて、
笑うということはどういうことなのか、なんて当たり前のことをいまさら思い出した。