少年はひとり
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オレは、
「ねぇ、リュウジくん。…サッカーしない?」
「―――え?」
いつものようにソファに腰掛けて本を読んでいたら、ナナシが急に声をかけてきた。
本から顔を上げると、ナナシの手には少し汚れた白と黒のボール。
それを見た瞬間、オレの心の中がざわりと粟立つ。
恐ろしいものに触れるような、懐かしい親友に会うような。不思議な感覚。
「…やっぱり駄目かな?」
「―――…ううん、いいよ。サッカーしよう。」
なんだか、サッカーをやることに、意味があるような気がしたから。
* * *
足元に、サッカーボールがある。
芝生の上に置かれたボールはじっとそこにある。
顔を上げた。
少し離れたところにナナシがいる。オレを真剣な顔で見ている。
もう一度ボールを見た。変わらず足元にあるボール。
「…っ」
やばい。心がざわつく。
エイリア石も手放した。
今のオレは緑川リュウジなのに、心の中にいる「エイリア学園ジェミニストームキャプテンのレーゼ」が笑っている。
(お前は結局、レーゼでしかない)
(逃げられると思っていたのか?滑稽だな)
どくどくと心臓が五月蝿い。痛い。
思わず胸を握り締める。
「う、るさいよ…オレは、レー…ゼじゃない」
(お前は沢山の人を踏みにじってきただろう、その足で、そのボールで。)
「…」
(なにか、間違っているか?)
「く…っ」
間違って、ない。
確かに、オレはこの足で、このボールで。
思い出す。恨みのこもった瞳、絶望、恐怖、怒り、悲鳴、それから
「リュウジくん」
「…ナナシ」
いつのまにかナナシがそこにいて、オレを見ている。
肩を引かれて、すっぽりとオレはナナシの腕の中に、入った。
「たしかに、君は沢山人を傷つけてきたのかもしれない」
「っ」
「けれどね、やり直すことが許されないわけじゃないんだよ」
ナナシの腕の力が強くなる。
一方の腕は背中に、一方は頭に。やわらかくて、あたたかくて。まるでおひさまのような気持ちよさで。
「リュウジくんにとって、サッカーが辛いものになるなら、やる必要なんて全く無いんだよ」
「でも、リュウジくんがサッカーを続けたいって思えるなら、やっぱりサッカーが好きなんじゃないかな」
「レーゼくんとして、でもなく、緑川リュウジくん、としてでもなくて、一人の男の子として。」
頭の上からナナシの言葉が降り積もってくる。
ふわふわとしていて静かにそっと心にしみこんでくる。雪みたいな優しさ。
「君がやりたいこと、やっていいんだよ」
「誰に強いられるでもなく、誰に束縛されるでもなく。」
君自身の言葉が聞きたいよとナナシはゆっくりオレから離れた。
ナナシの温かさが残ってる。
そして問い。
「リュウジ君はサッカー、やりたい?」
オレは、サッカーやりたいのかな
もう一度ボールを見た。
白と黒のまるい玉。
軽く足先で触れてみれば少し揺れて動いた。
ただの、ボール。
今度は足でボールを上げて足首に乗せてみた。
普通に上手く乗った。
そのままボールをもっと高く上げて頭上へ。リフティング。
ぽーん、重みがあって音がして弾む。
何回かボールを打ち上げてそのまま膝へ、足へ。
「……」
そう、この感じ。サッカーは、こうやってやるもの。
ナナシが笑ってもとの位置へ戻っていく。
「…よしっ」
いける。
(…いいのか、お前はそれで。)
レーゼが言う。
オレは笑う。
「――……そんなの」
確かにオレはレーゼだったし、多分まだレーゼでもあるけど。
オレはいま、緑川リュウジだし、今ここにいる。
今ここで一人の男として、人間として、ここにいるから。
真っ直ぐ前を見ればナナシが大きく手を振っている。
「ナナシ、!!」
それから、自分の中に居るレーゼ。
大きく息を吸う。胸いっぱいに大好きな草の香りが入ってくる。
瞬間思い出したのは自分が倒して、倒されたオレンジのバンダナの
「サッカーやろうぜ!!」