少年はひとり
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少年は独り
ザァァ
音を立てて雨が降っている。
いつの間にか降り始めた雨は大粒で、あっというまに数メートル先も見えないほどにまで強くなった。
むかしは駄菓子屋だったのだろうか、色あせた看板とところどころ穴の開いたビニールの軒。
沢山の子供たちがお金を握り締めて、賑やかだったのだろう。
今やその面影はどこにも無く、古ぼけた印象を受ける。
彼…レーゼはとっくの昔にたたまれたであろうその軒先でぼんやりと跳ね返る雨粒を見ていた。
目の前で雨粒が弾けて消えていく。
商店の前を通る道には人影も、車の通行も一切ない。
世界には雨の音と、レーゼのか細い息の音しかなかった。
ざぁぁぁ、
相変わらず雨が降り続いている。
軒先から滝のように流れていく雨を眺めていた。
風が冷たく吹いた。
雨粒が風下に流される。レーゼの身体が少しぬれた。
雨が降る前は心地よかった風も、今はレーゼの身体を冷やすばかりだ。しっとりと濡れてしまった体もそのままに、風が体温を奪っていく。
それでもレーゼはただ無関心に雨を見ていた。
なんで、ここにいるのか。
ここは、どこなのか。
自分はなにをしていたのか。
手に持っていたサッカーボールに視線を落とす。
いつから持っていたのか。
どうして持っているのか。
なぜまだ持ち続けているのか。
…なにを、?
ぼんやりとしたまま浮かべた問いも、そのまま頭の中の暗く粘着質な中に吸い込まれていく。
思考することを止めていた。
ばち、ばちん。
雨粒の跳ね返る音が変わった。
顔を上げる。
いつのまにか目の前に女の人が立っていた。
「…君、こんなところでどうしたの?」
「……」
「すごい雨だし、よかったら家…来る?」
優しい声音が降ってくる。
五月蝿いはずの雨音の中でも不思議と響いてくる声。
誰かに、似ていたのだけれど。思い出すのも億劫で。
ふわりと良い香りのするハンカチで肩を拭かれて。
「私ナナシ。きみは?」
「…レーゼ」
「そ、レーゼ君ね。よほど辛いことがあったのね。疲れた顔してる」
「つかれ、てる」
「そう。だから、ね?行こう?」
手を差し出されて、レーゼはサッカーボールを片手に持ったまま、その冷えた手を
「い、く。」
疑いもせずにとった。