マーガレットの火葬
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「っ」
「……シャンディ……?」
暑いくらいの陽射しが飛び込む彼の琥珀色の目に、私は再び射抜かれた。
あめいろのめ
「なんで、ここに」
波止場に波が打ち付ける。いつもよりも少しだけ強い風が頬に打ち付けて髪を乱していく。
目の前にいるひとは、最後に見た時よりうんと大人になっていた。掻き上げた髪も、少し長めの襟足も、隠すことなく晒された大鷲のタトゥーも、鮮やかに飛び込んでくる。
「シャンディ、…だよな」
「……!」
ぞわ、背筋に甘い痺れが走る。
名前を呼ばれただけなのに、捨てたはずの思いがぶり返す。
胸が強く締め付けられて呼吸もままならない。
私、まだこの人のことが好きなのか。
あの時抱いていたそのままの想いが身を焦がす。
そして脳裏に浮かぶのはあの日のこと、あの日、あの日も同じように彼は私を見ていて、そして
……思い出したくない。
「ひ、……ひと、ちがいです…」
「ンな訳あるか。何年一緒にいたと思ってんだ。俺がお前を見間違う訳ねぇだろ」
「……っ」
彼が一歩前に踏み出して手を伸ばしてくる。
違う、違う。私は、わたし、は。
「あっ!」
「おい!」
私は、彼の目から逃げた。
彼の声がしたけれど、私はいつだかのように全部を置いてそこから走り去る。
結局私は何も変わっていなかった。
私はまだあの場所に立ち続けるままなんだ。
「っ……!」
ああ、恐怖で頭がどうにかなりそうだ。
* *
民宿のいつもの部屋に飛び込む。
色あせた部屋の壁と、すっかり馴染んでしまった私の荷物が置かれた部屋だ。
化粧が付くのも気にせずそのままの勢いでベッドに飛び込む。埃が舞って少しだけむせた。
破裂しそうなほど高鳴る心臓は走ったからか、それとも別の理由か。小さく唸って窓の外に視線を向けた。
部屋に差し込む陽射しはだいぶオレンジ色に染まっている。窓枠も壁も私の仕事道具も茜色に染め上げてゆっくりと水面へ沈んで行く。
ガーディナの海は今日も変わらずそこにある。
この部屋も、私の荷物も、仕事も。
朝と何も変わらない。4年間積み上げてきた仕事と道具たち。
それに少しだけ安心した。
「…………」
脳裏に再び鳶色の目が浮かんでくる。
怖くなるほどまっすぐで力強い目。
……なんでここに。
いや、それは少し考えればすぐわかる。彼と一緒にいた人たち、ノクティス王子だ。
昔グラディオと一緒に迎えに行ったことがある。ゲームセンターで遊んでいて酷くびっくりしたからよく覚えている。
……隣にいた子はその時の友達だろうか。
……と、なると正面から見なかったけれどもう一人は噂の側近さんだろう。
(にげ、ちゃったな。)
あの時と同じ、私は踵を返して走り出してしまった。
私は結局あの時から何も変わっていない、んだ。
どれだけ仕事に明け暮れようと、どれだけ忘れようと奮起しても、……忘れられるはずがなかったの、だ。
あまりに虚しくて視界がボヤけた。
目の奥が熱を持ってジリジリと焼けてくる。
泣きたくない、認識したくなくて目を閉じれば、じわじわと眠気がやってくる。
もう何もかも抗うことも考えることも億劫で、思考を眠気の中に溶かしていく。
ぐずぐずと溶けていく意識の中で、忘れられもしない日の出来事が浮かび上がっては弾けていった。
まぶたの裏に浮かんでくるその景色は懐かしくも苦々しい。
……私はあの日見た火花を、一生忘れることはないだろう。
* *
四年前、私がまだ警護隊として息をしていた頃だ。
整備されたコンクリートの地面をブーツの踵で叩きながら私はいつもの詰所に向かっていた。
道行く人たちは制服やスーツに身を包んで歩いていく。
お店はシャッターが開く前だが、どこからが良い匂いが漂ってくるから、仕込み中、だろうか。
(あ、そうだ大通りのクレープ屋この間オープンしたって言ってたっけ。お昼休みにでも友達と食べに行こうかな)
今日も何もなければ、だけど。
見慣れた路地を抜け、よくあるビル街を抜けて……この国で一番高い建物、ルシス王家の住む建物が見上げないと視界に収まりきらなくなるあたりに警護隊の詰所はある。
もちろん王様達の住まうこの建物の中にも詰所はあるが、そこはそれこそ王の剣や従者の人といった警護隊の中でも群を抜いてエリートの人たちが控える場所だ。
私みたいな一兵卒はこうして街の安全だとか、もしくは城壁の外に出て害獣を狩ったりだとかそういう任務に就く。
危険な任務も多いが王都の外の世界に行ける数少ない仕事だし、なにより国を守っているのだという誇りもある。
それに、任務を一つこなすたびに微力ではあるけれど彼に近づけているのかもなんて、そんな気がするのだ。
(まぁ、流石に支えられるようになるにはまだまだかかるけど。いつか、いつかあの人の相棒になれたら、なんて……)
「おはようございまーす」
「おはよ…ん?シャンディなんか上機嫌じゃない。良いことでもあった?」
スチール製の冷たいドアを開けて仕事場に入る。ロッカールームには夜勤で残っていた先輩が、眠そうな顔で惣菜パンを食べていた。あまり眠れなかったのだろうか、目の下の隈が頬骨にまで届いてしまいそうだ。
普段から忙しい中でもしっかり化粧をして綺麗にしている人だから余計にそう思うのか。
「いえ、今日の昼休みにでも大通りのクレープ屋さんに行こうかなと思って……たんですけど」
「あーそりゃ残念。私たち今日"アタリ"だったから。昼休みなんてないわよ~」
「ですよねー!先輩の顔見たらそんな気はしてました!何引いたんですか?」
「……聞きたい?」
「えっ、なんですかその含みのある言い方」
「討伐任務。しかも外。」
昨夜、王都に続く道でブラッドホーンが目撃されたという。
本来ならもっと西の方で目撃されるような生き物が王都の近くまで来ている、しかもそれが物資の搬入なども行われる主要道の近くということで住み着く前に討伐せよとのお達しだった。
夜の間に報告が上がってきたらしいが、王の剣は出張中であるし、外となるとシガイが出るためこうして日勤帯の出勤待ち、となったのだそうだ。
「先輩オオアタリじゃないですかー…今年なんか多くないですか?」
「そーなの。これで三回連続大物取りよ。今年は引く年なのかなぁ……」
「まぁこなすの日勤帯なんですけどね…」
「そういうことだからヨロシクシャンディ」
「わかりました~先輩お疲れ様でした」
夜勤明けの疲れた背中を見送って、私は警護隊の服に腕を通す。
黒のレザージャケットと白のワイシャツ、慣れた位置に携帯を入れ、いつものポーチを腰に巻く。
扉を開ければ、そこにはもう多くの同僚たちが仕事の始まる時間を待っていた。
私は少し視界を巡らせてベンチに腰掛けた友人……ナターリヤの姿を見つける。
おはよ、挨拶しながら彼女の隣に腰掛けると、ナターリヤは挨拶もおざなりに「ねぇ聞いた?センパイまたアタリ引いたって」と前のめり気味に口を開いた。
「本人から聞いた、外の任務って言ってたよ」
「もーあのコンビで夜勤すると毎回置き土産していくんだもん、お祓いとか解呪とかしてもらった方がいいんじゃないのほんと」
「たまにあるよね、この人とこの人が組むと急務が入る、みたいなやつ」
「あーあ、せっかく今日はシャンディとクレープ食べに行こうって思ってたのにな。」
「大通りの?偶然、私も誘おうと思ってたとこ」
「ホント?じゃあ今日仕事終わり……は怪しいからまた今度タイミング計って行こうよ」
「そうだね」
彼女の深いため息を聞きながら腰に下げたサーキュラソーを確認した。
使い慣れた相棒は今日も変わらずここにある。
手入れもしたし、討伐任務もすぐにでられるだろう。
ブラッドホーンかぁ、実際見るのは初めてだ。凶悪なツノと超体重による突進や踏み付けが危険な生き物だ。
よく外の生き物を紹介する番組などで「超危険!」みたいなカテゴリで紹介されるようなやつ。私の知識もその程度だ。
不意にガチャリと音がしてドアノブが回った。
何気無しに振り向くと、そこには角刈りにした大男が一人。
私の心臓が一つ大きく跳ねた。
「あ、グラディオおはよ」
「おっす。……なんだ?ヤケにざわついてんじゃねぇか」
「討伐任務きてるんだよ、ブラッドホーンの」
「へぇずいぶん大物だな! …もしかして引いたのは例のコンビか?」
「そうそう」
そんな会話をしながら私たちの正面のベンチに腰掛けたのはグラディオラス=アミシティア。
"王の盾"アミシティア家の長男坊でシャンディのクラスメイトでもあり、……想い人でもある。
王都警護隊に入った理由でもあり、いまここに私がいるすべてでもあった。
グラディオは面白そうにくしゃりと笑って私の方を見た。
それだけで心臓がぎゅっと締め付けられたような感覚があって、朝からクラクラとしてしまう。
「シャンディは外の任務何度か行ったことあったか?」
「うん。……って言ってもキュウキとかが相手でブラッドホーンみたいな大物は初めてだけど。グラディオはブラッドホーン見たことある?」
「ああ。倒したこともあるぜ。」
「すごい…流石。なんかいいアドバイスあったら教えてよ」
「そうだな。ああいうのは足を狙って動けなくするのが鉄則だ」
「いや、それグラディオだからできんじゃん!私とシャンディじゃ無理だよ」
「ははは、そうかもな!」
快活に彼は大口を開けて笑った。
グラディオが扱う武器は大剣だし、彼の戦い方は完全なパワーアタッカーだ。武器の重さと長さ、それから彼自身の腕力や速度で文字通り敵を薙ぎ払う。
それでいてキチンと全体を見据えて適材適所で相手取る冷静さもあるのだから恐れ入る。
以前コル将軍と一ヶ月の修業に出たとも聞いているし、本当に努力の人だと思う。
(背中は遠いなぁ)
もっともっと…頑張らなくちゃな。
遠くを見ていた私に気づいたナターリヤが私を小突いてきた。
そして前のめりになってグラディオに笑みを向ける。
「ねっ、ねっ、もし今日の外部任務が私たちのチームだったらグラディオも来てよ」
「あ?…そうだなぁ」
「私たちのチームで外に出たことあるのシャンディ入れて数人しかいないし…大型相手にしたことあるのあんまりいないから。ブラッドホーン見たことあるグラディオが居てくれるとすっごい助かるんだけど。
ねっ、シャンディもそう思うでしょ?」
「へ?あぁうん、助かる」
「ほら、ね、お願いしますグラディオ先生!」
「ンだよそれ。わぁった、主任に聞いて来てやるよ」
「さすが!ありがと!」
んじゃあ行ってくるわ、と手を振ってグラディオは立ち上がると主任のいる方へ歩いて行った。
すごい、二つ返事で大型を倒しに行こうかなんて言えるんだ…
ただただ尊敬して背中を見送っていると、その視界にジト目をしたナターリヤが入り込んで来た。
「ちょっと。もっとガンガンいかなきゃダメだってこの間反省会したじゃん!ボンヤリしてる暇なんてないよ!」
「そう、なんだけどさぁ…実際前にすると頭真っ白になって言葉が出てこないんだよ……」
「もー…ただでさえライバルが多いんだからしっかりしなよ……なんでそんな奥手かな」
「うっ…面目ない……」
実際こうやって近づこうとすればするほど、彼がどれだけ努力していて、あの背中がどれだけ広いのかを痛感してしまうのだ。
多分私の《好き》は、積もりに積もってまた別の形へと変化してしまっているのだと思う。好き、なのは変わらないけれどそれ以上に尊敬していて、そして恵愛してしまっているのだ。
だから……不思議と恋人同士になりたいという感情より、共に在りたい、という気持ちの方が強いのかもしれない、なんてナターリヤに言ったら目玉が飛び出るくらい驚かれそうだから言わないけれど。
「まぁほらシャンディこうやってキッカケないとどんどん引っ込んでっちゃうしね、何かしらかあるまでは応援するよ」
「ありがとう、おかげで普通に話せるようになったし感謝してるよ」
「でしょ。」
* *
ガタンガタン、音を立てて荷台が揺れている。
積んだ食材が揺れているのか、誰かの衣服の金具が当たっているのか、はたまた荷台自体の固定が甘いのかは定かではないがやたらと揺れたり跳ねたりしていて、なんだか腰が痛くなってきた。
深いため息をつきながら私は同じ荷台に乗っているグラディオに視線を送った。彼は同じように揺られながら平然とした様子で外の景色を眺めている。
その横顔は余裕綽々としていて色んな意味で緊張しっぱなしの私とは全然違う。
あの後予想していた通り私たちのチームが外の任務に赴くこととなり、大型であることや外の経験者が少ないことからグラディオも同伴することとなった。
……までは良いんだけど、ブラッドホーンの捜索をするにあたって範囲が相当に広いという理由で、二手に分かれることとなった。どちらかに何かあった時はすぐに駆けつけられるような距離を取りながら…と、いいつつどうして道中私とグラディオだけでトラックが同じなのか。
(向こうにはナターリヤとフィッツとロジェ、ベリアの四人も乗ってるのに…なんで私とグラディオだけなの……絶対ナターリヤが何か計ったんだ…!)
口のうまい彼女がどう言ってあの上官を言いくるめたのか、むしろそのテクニックが知りたいものだがチーム分けする前にワケあり気なウィンクを貰ってしまったので、聞いても教えてくれないどころか道中のことを根掘り葉掘り聞かれてしまうだろうことは安易に予想できた。
チラリとグラディオに視線を向ける。
王都警護隊の服に身を包んで外の風を気持ちよさそうに受ける彼は不思議なほど景色に馴染んでいる。
きっと私よりも外の事を知っているんだろうなと目を伏せた。同い年なのにここまで大人びているなんて…、また差を感じて歯噛みする。
「シャンディ、緊張してんのか?」
「えっ?」
ふと声をかけられて顔を上げるとニヤニヤとした笑みを浮かべるグラディオと目があった。
たしかに緊張してはいるけど、絶対これは任務だけが理由じゃない。思い返せばこうして一対一になるのも随分と久しぶりな気がする。
答えに困って私は膝を抱えて足に身体を寄せた。
こうすると多少は風の冷たさもマシに感じられたけれど、その分自分の心臓がバクバクと音を立てているのも聞こえてしまって尚のこと意識してしまう。
「…緊張するよ、そりゃ。ブラッドホーンなんてテレビで見たことあるくらいだし」
「まぁそりゃそうだろうな」
「…………」
だよね。言いそうになった言葉を飲み込んで、膝の中に顔を埋める。
ちょうど良い暗さが心を少しだけ落ち着かせてくれる。私はその暗闇の中にさっきの言葉と一緒にため息を吐き出した。
ら、不意に隣に温もりが来て慌てて顔を上げた。
先程よりもうんと近い距離にグラディオの瞳がある。
私はその鮮やかな色に一瞬瞠目して、息を飲んだ。
目を逸らせない。
この人の瞳は、不思議な力が満ちている、と心底思う。
きらきらと温かくて柔らかで、だけど、なぜかずっと見てしまう力強さがある。
「俺もついてるし、同じチームの奴らもいるだろ。大丈夫だ」
「……」
「それに、お前だって十分強くなってる。ブラッドホーン相手だって十分やれるぜ」
「う、そ」
だってグラディオと比べたら私はまだまだ足りない事だらけだ。
経験値も、力も体力も、それから行動力だって全然違う。
背中を預けるどころか隣に並ぶことすらまだまだ先だっていうのに。
「お前が入ってきたときから見てる俺が言うんだ間違いねぇって」
「っ!? そ、それ、は」
「お。赤くなった。」
「あっ、あたりまえ、じゃん。そんなこと、……ズルイよ…!」
「ははは、悪い。けどよシャンディはもっと自信持てって。その服は誰でも着れる服じゃねぇんだからよ」
「……うん。」
私は自分の服に視線を落とす。
黒い革生地の、王都警護隊の服だ。
それぞれの身体に合うように設計されている特別な服。
グラディオも、友人も、コル将軍も着ている服。
私は少しだけ上着の裾を引っ張ると口を緩めた。
グラディオは冗談でもそんな事を言うような人ではない事を十分知っている。
本当に以前と比べて私が強くなっていて、ブラッドホーン相手だって戦えると思ってくれているからこうやって私を勇気づけてくれている。
それが嬉しくなって、少しだけ単純な自分に笑ってしまって、私は小さく頷いて返した。
「分ったなら良い。…ま、何をそんなに気負ってるのか知らねぇが、もうちょい肩の力抜けよ」
頭に軽い衝撃があって、少し遅れて頭を撫でられていることに気づいた。彼の荒れた大きな手が頭を行き来して髪を梳いている事実に、また一気に頬が熱くなる。
もうこれ以上赤くなれないんじゃないかって思ってしまうほど顔が火照っている。
「な、な、な、っなに、して」
「あ?んまぁ、なんだ。なんとなく?」
「なんとなくじゃ、ないよ…!」
顔がどんどん熱くなっていくのを感じて私はグラディオの大きな手から逃げ出そうと腰を浮かした。
私の行動を見透かしていたのかグラディオが途端に悪い顔をするものだから私の頬もヒクリと引き攣る。
と、石に乗り上げたのか車体が大きく跳ねた。
グラディオから逃れようとして中途半端な姿勢だった私はバランスを崩してそのまま前に転がった。
「ひっ」
「おっと、」
受け止めてくれたというか、私がダイブしたというか。
グラディオの体の上に転がっていく自分の動きがやたらスローモーションで流れていって、そのまま私は彼の鍛え上げられたお腹に顔面をしたたかに打ち付けた。
荷台の鉄板よりはマシだけど、マシ、だけど!
どうして良いか判らずグラディオのお腹の上でフリーズする私と、おそらく私のアクションを待っているであろうグラディオの間に微妙な空気が流れた。
グラディオの香水だろうか、スパイス系の香りが濃く漂っている。
しばらくそのまま荷台に揺られていた私はグラディオが少し大きな呼吸をしたその動きで我に返った。
全身の筋肉を使って飛び上がり、戦闘中に使うようなバネを使ってグラディオと距離をとった。
(あ、あ、あ、ぁぁぁ!!!)
言葉にならない音が頭の中でぐるぐると回り続けている。
頬はもうファイアが出ているかと思うほど熱い。もう、もう、もう、恥ずかしい!!
手の甲で両頬を抑えて熱を逃がそうと躍起になっている私にグラディオは何かを言いかけて、そして口を閉じると頭をぽりぽりと掻いた。
なんだかその頬も少し赤いような気がして、一気に私の血の気が引いた。
「あー……。悪かった、怪我ねぇか」
「う、ん……大丈夫…デス……」
……この反応…
……いやもうそりゃあ、あからさまにグラディオの前だと挙動不審だし、熱を持った頬は全く隠すつもりもないのか熱いままだし、むしろこれで気づかないようならトンデモないノンケではないか。
私だったら「好きなのかな?なんてねははは」とか思うくらいには露骨……だ。
……ああもう、
ああああもう!
こんなはずじゃなかったのに!!
(恥ずかしすぎる…いっそ埋めて………!)
羞恥でおかしくなりそうだったので私はそのままグラディオから少し離れた場所に腰を下ろして、今度こそ膝の中に顔を全部突っ込んだ。
早いとこ目的地に着いて任務を開始してしまいたくてたまらなかったが、任務地まではまだまだかかりそうだった。