マーガレットの火葬
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「将軍」
「モニカ、どうした」
「先ほどの記者の女性から……差し入れです。『皆さんで食べてください』だそうです」
「……そうか」
「ここの自慢料理みたいです。……匂い嗅いだらお腹すいてきちゃいましたね」
「他の隊員たちは食べてるか?」
「ええ。もう凄い勢いでガッついてますよ。ですから将軍も少しは休んでください」
「…分かった。ありがたく頂戴しよう。」
そんな会話がガレージで行われているころ、シャンディはボックス席の一つで泥のように眠りについていた。
長い1日が終わり、世界に朝がやってくる。
ジェット噴射でランナウェイ
いつもよりゆっくりと目が覚めた。
思っていたより疲れて居たのと、ボックス席で寝たのもあってなんだか身体が重たい。
更に窓の外を見れば雨が降っていて、太陽をすっかり隠してしまっている。
ここのところずっとガーディナにいたから、雨は久しぶりだ。
こんなに気だるく感じるものだったっけ。
そんなことを思いながら、私はグッと身体を伸ばした。
将軍たち王の剣は太陽が昇るのと殆ど同時にハンマーヘッドを出たらしい。
目が覚めたらしっかり完食された差し入れたちと、ハンマーヘッドに残って難民の受け入れ兼警護を任されたロジェたちが残されていた。
警護?と問えば、なんでも「王の剣がここにいたことを盗聴されてる可能性がある」とかでコル将軍が危惧したらしい。
正直それを聞いてちゃらんぽらん上司が頭によぎってキモが冷えたが、バレていないと信じたい。うん。
そして王の剣の人達がハンマーヘッドを出立して少ししてから、警護隊のダスティンさんが幾人かの避難民を連れてやってきた。
ダスティンさんはかつて他のチームを指揮していたから一方的に知っていたけれど、四年前に比べたら少しだけ白髪が増えたように見えた。
避難民の人たちの誘導だとかを諸々やっていたら結構な量になっていたけど、イリスちゃんという可愛らしい女の子が治療や食事の準備を手伝ってくれた。
黒い髪が外に跳ねていて印象通り活発で明るい女の子だ。グラディオとよく似た琥珀色の目がとても似合う、笑顔の可愛い女の子だった。
一通り片付けて外に出ると、ベリアたちが話し込んでいた。
こちらに背を向けているけど、あの後ろ姿はもしかして。
「なんだ、お前たちも無事だったか!」
「そう言うフィッツこそ。到着が遅いから心配してたんだから」
「王都を出たって連絡あってから音沙汰ないし。シガイにやられたのかと思った。」
「バカ言え、だれが。」
「なぁ、フィッツ、会わせたい人がいるんだ」
「は?」
「………久しぶり」
「……は?……シャンディ…?」
相変わらずちょっとナルシストなフィッツの目が点になった。
その様子が面白くて思わず笑うとフィッツは「な、……笑うなよ!」と顔を赤くさせた。
軽く事情を説明する私にフィッツは少しだけ高圧的な視線を投げかけつつ、最後に「生きてるなんて思わなかった」と彼は肩をすくめて笑った。
「俺たちみんなよく生きてたなほんと。」
「本当。あれだけの大騒ぎの中…警護隊もほぼ壊滅、なんて現状で。どれだけ悪運が強いのよ」
「ハ、それを言ったら1番悪運が強いのはシャンディだよ」
「それは、言えてるかも」
「自分で言うなよ…」
4人で顔を見合わせて、そしてほとんど同時に笑い出した。
四年ぶりだと言うのに、その空気は昔とほとんど変わらなくて安心する。
私がかつて身を置いていたあの場所の温かさだった。
……皮肉にも、王都の襲撃があったおかげで、私はかつての仲間たちと再会することができたのだった。
昼ごろだろうか。
あいも変わらず帝国の飛空艇がインソムニアに向かっていくのを見上げて、私は車のドアを開けた。
「さ、片付いたからどうぞ。」
「あの…本当にいいんですか?」
「うん。どうせ私もレスタルムに行かなきゃいけなかったから。ちょうどコレ4人乗りだし…」
「よかったですね、イリスさま!」
タルコットくんがひょこりと跳ねて言うと、イリスちゃんもそれに笑顔を返した。
隣に立っていたダスティンさんが「申し訳ありません。助かります」と、タルコットくんのお爺さん、ジャレッドさんが曲がった腰をさらに曲げて「よろしくお願いします」と2人揃って頭を下げた。
イリスちゃんには王都の外で働いている兄がいるらしく、レスタルムで合流するつもりらしい。
レスタルムは難民を比較的受け入れてくれていることと、王都から遠く帝国に襲われる危険も少ないだろうと言う判断から遠くまでいくことにしたんだとか。
ジャレッドさんは体を引きずっているし、タルコットくんはしっかりしてるとは言えまだ子供で、イリスちゃんも女の子だ。
ここまではフィッツとダスティンさんが守ってくれていたらしいが、フィッツはロジェ達とハンマーヘッドに残る。
どうしたものかと悩んでいた矢先、ちょうどそこに私がいたと。
「本当は将軍たちについて行きたかったけどな、けど俺にだってやることは沢山ある。」
「……そういって、本当は悔しいんでしょ」
「うっせ」
唇を尖らせてそっぽを向いたフィッツに笑う。
こう言うところは変わらないんだなぁ。四年前に比べてうんと大人びたフィッツの横顔を眺めて小さなため息をつく。
…私は、少しは変われているのだろうか。
ちょっとだけ置いていかれたような寂しさみたいなものを感じながら、私はかぶりを振って運転席に乗り込んだ。
助手席にはイリスちゃん、後部座席にはダスティンさんとタルコットくんとジャレッドさんが座る。
「シャンディ」
運転席の窓を叩いてロジェが覗き込んでくる。
車の窓を開けると途端にハンマーヘッド特有の、オイルとガソリンの臭いが飛び込んで来た。
「どうしたの」
「……気をつけろよ、帝国も無差別に狙ってるわけじゃないだろうけど…非常事態なんだから」
「うん、ありがとう肝に銘じとく」
「なんかあったら……ああいや何もなくても連絡くれよ。俺たちも…手が空いたら連絡するからさ」
「……うん。楽しみにしてる」
「あとこれは言うなって言われたんだけど。
将軍たちが昨日の差し入れ『美味かった、感謝しなくてはな』って言ってたよ」
「…そっかそれならよかった。」
「それから……」
「ちょっと、いつまでそうやって話し込んでるのよ」
何やらまだ言い足りなさそうな顔のロジェを押し退けてベリアが苦笑する。
だって、言葉を続けようとしたロジェに「はいはい分かったから」と彼女は肩をすくめた。
「シャンディ、ロジェも言ってたけど連絡。ちゃんとしてよね。…もう逃がさないから」
ウインクしながらベリアは言う。
ベリアなりの気遣いはなんだかすごく心に沁みた。
ありがとう。そう言って笑みを返すと、彼女は私の肩を叩いてヒラリと手を振った。そして唇をまだ少し尖らせたままのフィッツも頬に泥をつけたままこちらを見た。
「シャンディ、無理はするなよ。お前いつもいっぱいいっぱいなんだから」
「ハイ……」
「…なんかあったらすぐ連絡しろよ。俺がすぐに解決してやるから」
「ふふ、フィッツ本当変わらないね。ありがとう、フィッツも疲れてるだろうしちゃんと休憩とってね。……その頬の泥も」
「あ? …うわカッコ悪」
苦虫を噛み潰したような顔をしてフィッツは不貞腐れた。
そうやってちょっとキマらないところも含めて変わってなくて安心した。私は改めて3人の顔を見回した。
ここで3人に……生きて会えて本当に良かった。
「3人も、無理しないで。私も……手伝うから。ありがとう、…ほんと、会えてよかった」
「うん。私も」
「お互いな」
「今度はちゃんと見つけられてよかったよ」
「じゃあね、レスタルム着いたら連絡する」
手を振って、私は車を動かした。
道は雨でぬかるんでいて、視界もあまり良くはない。
私は大きく手を振ると窓を閉めて、そしてレスタルムに向けて車を走らせた。
サイドミラー越しに手を振っている3人をみて、少しだけ泣きそうになったけれど不思議と心地の良い感覚だった。
相変わらずの荒野を進んで行く。
曇天の中に溶け込むように、帝国の飛空艇が王都へ向けて飛んで行く。ラジオからはひっきりなしに王都のニュースが流れている。
『……王都での混乱は依然として収束の目処は立たず…レギス陛下やノクティス王子、ルナフレーナ様の死亡が確認されました』
(ビブさん本当にやってくれたんだ…)
車のラジオからそんなニュースが流れてくる。
私から頼んだことと言え、ビブさんの影響力には畏れ入るものだ。
ビブさん、会社の中でも結構好きにやっているからあまりそんなイメージはないけど、先輩と同じで「見た目よりもやり手」の記者なんだなぁと改めて認識させられた。
そんなことをぼんやりと思ってニュースを聞いていたのだけれど、隣に座っているイリスちゃんは眉間にしわを寄せてカーステレオを見た。
「なにそれ、ノク……ノクティス王子が亡くなったとか……」
「イリスさま」
「う……」
何かを言いかけたイリスちゃんを咎めるようなダスティンさんの声が飛んできて、イリスちゃんは閉口した。
チラリとバックミラー越しにダスティンさんがこちらを見てきているが、私は気づかなかったふりをする。
さっきから気になってたんだけど、タルコット君たちがイリスちゃんのことを「イリス様」と呼んでいるのは、彼女が王都の上流階級の家柄の子からなのだろうか。
王都にいた頃は良くも悪くも世間知らずだったから、上流階級の人たちの名前なんて覚えてないし、顔も覚えている人の方が少ないくらいだから今イリスちゃんをみてもピンとこない。
けれどダスティンさんも(自身が王都警護隊だと名乗っていないけれど)イリスちゃんにわざわざこうやって同行していることを考えたら、その線は強そうだ。
……変に勘繰られて雰囲気悪くなっても嫌だし、私が記者なのは黙っていよう。
車は三つ子谷を左後方に見ながら進んでいく。
流石に今日中にレスタルムにはつけないから途中のコルニクス鉱油の店で泊まるか…少し離れてしまうけど無理をせずちゃんとしたベッドのあるチョコボポスト・ウィズに泊まるか。
頭の中の地図を確認しながら、私はこれからのことを考える。
ひとまずレスタルムに着いたらイリスちゃんたちを送って、私はビブさんのところに書類を出しに行かなきゃいけないし、本社に行かなくては。
それから溜まりに溜まってるだろう仕事をチェックして、新しい仕事をいくつか拾って……またガーディナに戻るべきか。
先輩も最近暇そうにしてたし、いくつか仕事を持って帰ってあげよう。嫌がりそうだけど、仕事が溜まって嫌がる部長もいるんです!あの人アレ以上禿げたらどうす…あ、オルティシエで買ったお土産、置いてきちゃったな。
「あっ、シャンディさん!前!」
「え?うわ!?」
後部座席からタルコットくんが声をあげる。
促されるまま前方を見ると、大自然の中に突然物騒な建物が現れた。北ダスカの大門だ。
30年以上前、戦時中はここも一つの要所として活躍したが、帝国の侵攻により障壁が縮小されて以来破棄されていて、今はもうただの要塞跡になっている……はず……なんだけど……
思わず路肩に車を寄せて止めた。
ここからでも、大門の前に魔導兵や魔導アーマーが動いているのが見える。
運び込まれていく鉄骨たちは資材、だろうか。
「なんでこんな場所にまで魔導兵が…」
「ここは使われなくなってそんなに経っておりませんからな、帝国の駐屯地として使うには…最適なんでしょう」
「ダスカ地方への道を封鎖して、王都の要人を閉じ込めようという魂胆かもしれませんな」
「んもう、人の国のもの勝手に使うとかサイテー!」
ジャレッドさんとダスティンさんの推測にイリスちゃんが憤慨する。
まったくもって同意見なのだけど、問題はあそこが封鎖されてしまうとダスカ地方に抜けるのはひどく遠回りになってしまうという点だ。
それこそランガウィータやガーディナまで戻って西か南の封鎖線を抜けていく必要があるが、この調子だと向こうまで帝国兵が居座っていることも十分考えられた。
……さて。
「…………。」
「どうしましょう、ここを抜けてかないとすごく遠回りになりますよね?」
「……あのさ、つかぬ事を聞くんだけど、4人とも車酔いはする方です?」
「……え?私は平気…タルコットたちは?」
「僕は平気です!」
「……シャンディさん、まさかとは思いますが」
その、まさかなんだよなぁ。
答えることなく私は再び車をゆっくりと動かして、北の大門が正面から見える場所まで進む。
門の左右に魔導兵が数体、それからすぐ動けるのかわからないけど魔導アーマーが二機。
建設途中の二重の門があって、向こう側もこちら側も開いたままになっている。
門の向こうはダスカ地方だ。ありがたいことに出てすぐの道はほぼまっすぐ一本道。緩やかなカーブが続いているだけだ。
ふむ……150km以上で飛ばせば、8秒くらいだろうか、目算を立てる。
「無茶はよしてください…!」
ダスティンさんが声を荒らげているが。
ここを抜けなければいけないことはこの人だって良くわかっているはず。
「大丈夫です。上司に連れまわされたおかげで、多少の荒運転には慣れてます。」
「し、しかしですね!?雨も降っていて視界も悪い、道も滑る、あまりに危険すぎます!」
「……でもきっと時間が経つほど通るのは難しくなりますよね?」
「それは……そうですが…」
ヴヴん、ヴヴん、エンジンが音を立てている。
「イリスちゃん、それから後ろの3人も」
「は…はい」
「伏せてて」
門の前の魔導兵の目が明るいことがわかるほどの距離まで進んで、私はジワリとアクセルを強く踏み込み始める。
車が近づいてきたことで魔導兵が銃を肩から下ろしたが、知ったことか。
イリスちゃんたちが視界の隅で頭を下げたのを確認して、私はアクセルペダルが床につくほど思い切り踏み込んだ!
ギュルギュルギュル!!!
高速でエンジンやベルトが動く音がして、車の速度メーターが一気に逆方向へ傾く。
「身体支えて!!」
ぶぉん!!一際大きな音を立てて車は矢のように大門の中へ飛び込んだ!
途端に警報が鳴り響いて、魔導兵たちがガチャガチャと視界の隅で動いているけれど、それより先にこんな場所突破する!
「シャンディさん!門!門が!!」
イリスちゃんの悲鳴が木霊する。
要塞全体に警告アラートがガンガンに鳴り響いて、目の前の仮設の扉は凄い勢いで閉まろうとしている。
けど山岳地帯の岩合に比べたらぜんっぜん広い。
「いけるいける!!」
「いや、無理!無理ですよぉ!!」
タルコットくんの悲鳴が聞こえてきたが、それより何が何でも通り抜けなくてはいけないので、返事をするよりさらに私はアクセルをベタ踏みした。ギリリリリリ!!モーターが悲鳴を上げている。
あと200…
100…
50…!
「きゃあぁああああ!」
「うわああぁぁ!」
「よっし!!」
要塞のアラートとイリスちゃんとタルコットくんの悲鳴をバックコーラスに、車は高速のまま閉じようとする門を車幅ギリギリで通り抜けて、そのままバウンドしながら飛び出した。
バックミラー越しに門が閉じたのが見えて、私は内心ガッツポーズをしつつ、アクセルからゆっくり足を離した。
雨で道は濡れているが、王都周辺のような土砂降りではないし、このままゆっくり減速していけばいいだろう。
ふぅ、ため息をつきつつ後方から追手が来ないかを確認しつつ、車がスリップしないように調整しつつ。
私は車内の人たちを確認する。
「みんな、大丈夫です?」
「こわ、こわかった……です…」
隣から死にそうな声が聞こえてきて、後方から深い深いため息が聞こえてくる。
「まったく、無茶をされる!何かあったらどうするつもりだったのですか!」
「いやぁ……すいませんでした。」
あんまり反省はしてないけど。
おかげで無事ダスカ地方に来れたわけだし、ひとまずは良しとしようと思う。いやぁまさか先輩に連れまわされてついた運転技術がこんな所で役に立つとは思わなかった……。
すっかりスピードも落ちたところでふと、チョコボポストの看板が目に付いた。
「……少しだけ遠回りになりますけど、今日はチョコボポストで一泊しましょう。森の中だし、人目にも付きにくいですから!」
建設途中だったわけだし、そこまでの余力があるようには思えないけど、もしかしたら追手が来るかもしれないし。
車を左折させて、車を森の中へ滑り込ませた。リード地方とは違って新緑が多く、風も一気に森林の香りになって心地よい。
すっかり縮こまってしまったイリスちゃんに「ごめんね」と謝って、私はそっとラジオを消した。