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あの不二くんに好きな人がいるらしい。
そんな噂が回り始めたのはつい昨日のことだ。
クラスの男子が調子に乗ってかけた「お前って好きな奴とかいんの?」の問いに、不二くんがあっさり是と答えたのが事の発端だとか。
不二くんは実に好青年である。
いつもにこやかに目を細め、挨拶なんかも積極的にしてくれる。覚えている限りでは、多分毎日おはようを言ってくれている。
しかもその後に会話が途切れないよう良い天気だねを加えてくれるのだ。口下手な私は本当に助かるよそれ。
日直当番が被った時なんかは、黒板の高いところを先に消してくれていたり、重たい物を一緒に持ってくれたりした。
私が放課後に残って日誌を埋めている間、俺も日直だからと部活もあるのに待っていてくれた時には惚れてまうやろーと叫び出しそうになったくらいである。
困っている人は放っておけないようだ。素晴らしい人徳の持ち主である。
更にさらに、不二くんはイケメンだ。めちゃくちゃかっこいい。背も高いし、声も優しげで素敵。仕草もとっても上品な感じで、いつも清潔感のある身嗜みをしている。
自分の身にもしっかり気を使える。体育会系の中学三年生男子なのに、不二くんの髪は手入れが行き届いてさらさらのつやつやだ。
テニスもとんでもなく強い。
私はテニスに詳しくないのでよく分からないが、少なくとも私が見に行った試合で不二くんが負けたところは見たことがない。
完全無欠な不二くんは当然のようにモテる。
バレンタインは毎年大変そうで、ホワイトデーはもっと大変そう。なんと優しい優しい不二くん、チョコレートをくれた子みんなにお返しをするのである。凄すぎる。聖人君子なのだと思う。
仲のいい友達にあげた余りを、カーストがかけ離れているにも関わらず仲良くしてくれるお礼として不二くんに渡した去年のバレンタイン。不二くんはそんな義理にも程があるチョコレートに対してだってお返しをくれたのだ。
欲しいんだよねと不二くんの前で零したことのある、可愛くて機能性に優れた大好きな文具メーカーのボールペン。今でも大事に使わせていただいている。
そんな不二くんに、好きな人が。なんてこった。全校生徒を震撼させる大大大ニュース。
……それ、もしかしてだけど、私じゃない?
不二くんは実に好青年である。
けれど流石に、クラスメイト全員に挨拶をすることは無い。挨拶をしたとしても、会話を続けることは滅多にない。というか女子では私にだけな気がする。
日直当番が被っても、不二くんは基本的にさっさと仕事を終わらせてしまうタイプだ。仲良くなるチャンスだったのに、と意気消沈する女子生徒はごまんといる。
重い物をスマートに持ってあげることはあるけれど、わざわざ一緒に運んだり、ましてや必要も無いのに放課後に部活時間を犠牲にしてまで居残ったりしない。
不二くんはイケメンで、いつだって頭のてっぺんから爪の先まで綺麗にしている。
だけど一度街で偶然会った時はアホ毛が立っていたし、それを大変気にする素振りを見せていた。
テニスは普通にいつも強いらしい。
問題はバレンタインだ。
不二くんは確かに皆にお返しを用意している。けれど流石に皆同じものだ。それも個包装のお菓子とか、いかにも義理っぽくて安価なものである。
まさか長持ちしてずっと使えるボールペンなんて、そんなそんな。
……ということなんだけど、やっぱり私のことなのかな!?
友達に「実はイケメンから好かれてるっぽいんだよねー」などと相談できるわけがない。これは私ひとりで解決しなくては。でもこんなの、一体どうすれば。
頭をこねくり回した結果、私は素直に不二くんに聞いてみることにした。
さり気なく、さり気なく。私のこと好きなの? なんて聞けない。好きな人って誰なの〜? せっかく仲良いんだし教えてよ〜キャッキャウフフ。これだ。
「ふ、不二くんの好きな人って誰なの?」
不二くんはきょとんとして、少しだけ考え込んで、頬杖をついた。そしていつもはきゅっと細められている目を妖艶にもほんのり開けて、真っ直ぐにこちらを見抜くと、ひとこと。
「誰だと思う?」
……まさかほ、ほんとに?
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