理想の身長差
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「でっかいものクラブ?」
「はい……」
改めて人に説明するとなると非常に恥ずかしい。私は縮こまって、柳くんとどうして仲が良いのかを説明していた。
幸村くんは宣言通り、昼休みにうちのクラスへやって来た。
朝から昼にかけて美女と野獣の噂は広まり続け、教室には大勢のギャラリーが集まっていたのだが、幸村くんの「人の居ないところに行こう」というとても高校生とは思えない言葉と共に蜘蛛の子を散らすように消えた。この人の影響力は一体どうなってるんだ。
クラスメイトと少しばかりの野次馬が残った教室から、幸村くんは私の手を、手を! 引いて、中庭へと足を運んだ。
例の桜の木がある、私が幸村くんからこ、告白を、受けた、いわく付きの現場である。
「でっかいものクラブのよしみで、あと私の成長記録に興味があるみたいで、それでデータ収集がてらよく話し掛けてくれるだけというか」
「……なるほど。蓮二らしい」
あっさり手を離し、ベンチに座って膝の上にお弁当箱を広げると、まず蓮二のことだけど、と幸村くんは話を切り出した。どうして仲が良いのかと。
意外にも大きなお弁当箱を膝に広げ、ぱくぱくとテンポよく中身を減らしていく幸村くんに私は目を白黒させながら答えたが、幸村くんは納得しつつもまだ不満そうである。
……やはり、説明しなくてはならないだろうか。
憂鬱な気持ちを白米と共にごくんと飲み込む。
幸村くんを傷付けず、不快な気持ちにさせず、かつ正しく伝えるというのは私には荷が重い。重いけれど、だけど必要なことだ。
膝の上でギュッと拳を握って、意を決して口を開いた。
「あの、それで、幸村くんに敬語を使っている件なのですが」
「え、」
「幸村くんとは昨日……というより、今日ですか。ほとんど、その、初対面でしょう。そ、それに幸村くん、凄い有名人だし、私なんかが急にタメ口をきくなんてそんな真似、できなくて。それでつい、こんな感じで敬語になってしまうんですけど……もう少し経てば、えっと、砕けられると思うので。もう少しだけ待っていただけると……」
「いや、あの、ちょ……ちょっと待って」
細心の注意を払って言葉を選んでいると、幸村くんから制止が入った。
しまった、何か気に触ることを言ってしまったのか。
違うんですそんなつもりなかったんです。
そう弁解しようと、自分のお弁当ばかりを見つめながら何とか話していたのを顔を上げれば、幸村くんは右手で顔を覆い隠し、左手でこちらに待ったをかけていた。見れば指先はふるふると震えている。
そ、そんなに怒ってるんですか。そんなにですか。
もうこれはダメかもしれない、と気をやってしまいそうになったが、唸るような声にしゃっきり背筋が伸びる。
「名字さん、は」
「は、はい」
「名字さんは……気付いてたのかな」
気付いてた? 何に?
心当たりがなく首を傾げた。どういうことだ、と幸村くんを見詰めて分かったことには、彼は怒っていたのではないらしい。これまた意外にも大きな手のひらを以てしても隠せていない耳と首が真っ赤っかだ。
どうして、そんな、なんで。伝染したように私の体温まで上がってしまう。
私が不思議そうにしているのに気が付いて、幸村くんは非常に言いにくそうに言葉を発した。
「だから、その……俺が……」
幸村くんが?
「俺が……蓮二に……」
柳くんに?
───しっと、してたって。
しっと、が嫉妬と分かるまでは少し時間を要した。
お陰で私がぽかんとしている間、幸村くんら居た堪れなさそうに視線を右往左往させる羽目になってしまっていた。
幸村くんが、柳くんに嫉妬。
なぜ。
なぜって、幸村くんは私のことが好きなのに、私は柳くんとばかり仲が良いから。
私が、私が、幸村くんには敬語なのに柳くんにはタメ口で話していることをどうしてわざわざ説明しようとしたかって、それは何となくで、理由なんて無くて、無かったはずだけど、でもその何となくって、言い表せなかっただけで、ひょっとしてその形って、もしかして、もしかしたらだけど。
「あ……」
私、幸村くんに、柳くんを特別扱いしてるって、誤解されたくなかったの、かも。
なんで?
それは……。
「あー……やっぱり、気付いてたんだね。恥ずかしいな。でもそれって、俺のこと見てくれてるってことだよね。嬉しいよ」
それは。
「……あ! そ、そうか。そうですね、多分、きっとそうです、だからです!」
「えっ? 冗談のつもりだったんだけどな……」
照れた困り笑いの幸村くん。私は一昨日まで彼がこんな顔をすることも知らない間柄だった。友達になったのはつい昨日のことだ。
だから、私は無意識に幸村くんのことをたくさん気にかけていた。出来たばかりの友達に、その友達のことを贔屓にしているなんて誤解は誰だって受けたくない。そうだ。だから、だから。
……なんて、そんなでっち上げの理由で納得できる性格ならこんなに苦労なんてしてない……!
あぁもう私、なんて浅はか。気にもとめなかった人を、好きになってもらったからってコロリと簡単に、す、好き、とまではいかなくとも、こんなにこんなに意識するなんて。ちょろすぎる。最低だ。私たちは、どう考えたってお友達なんかじゃない。
「ええと、そろそろ本題に入ろうか。俺がどうして君を好きになったのか、話すよ」
これを聞いてしまったら、私たちはますますお友達でいられなくなる気がしたけれど、私は幸村くんが話すのを止められないでいる。
それが答え、なのだろうと、自然とそう思った。