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「お! 千歳くん、今日来てるやん」
はい、飴ちゃん。
ころん、手のひらの真ん中に小さく転がる包装紙を破いて、口の中に放り込む。からころ。
背ェ高い人が飴ちゃん舐めてるんちょっと可愛ええな。名字が独特の音で笑うのを、上から眺める。これが千歳の日常だ。
千歳は転校生である。つまりは部外者、異物、異端者であったわけであるが、大阪という奇異な地域の、特にヘンテコな四天宝寺という学校の人間は、異端者を大いに、盛大に、しかし仰々しくなく、当然のように日常のように受け入れた。
そのうちの一人が名字だ。
名字は千歳の放浪癖、サボり癖を知るとすぐに言い放った。
「ほな、千歳くんが学校来たら飴ちゃんあげるわ。ほんなら少しは来る気になるやろ」
大阪人にとっての飴ちゃんは一体どれほどの価値なのか。宝石か何かと勘違いしているのではないか。
そうテニス部の部室で零してみると、その場にいた全員がポケットから飴を取り出した時はさすがにホラーだった。
そんな飴ちゃんパワーをもってしても千歳のサボり癖は治らなかったが、その数は明らかに減っており。
白石がやれやれと胸を撫で下ろすのを見たと、謙也が涙ながらに語っていた。謙也はいつも大袈裟である。
さて、今日は何味か。
昨日はサボって、一昨日はレモン。名字が黒飴も買ってみたから楽しみにしといてや、なんて笑っていたのは先週のことだが、千歳の元には未だ黒飴はやって来ていない。これはそろそろ、来るのか。どうだ。
「堪忍やで千歳くん! うっかり飴ちゃん袋忘れて来てもうた!」
「あ、ほんなこつ? 別によかばい、気にしなっせ」
珍しい。というか、千歳が名字から飴を貰うようになってから初めてのことだった。
味予想までしていたので拍子抜けではあったが、別にいい。だって飴が無くたって、名字と会えるなら。
名字と、会えるなら、それで、それだけで。
それだけで?
……あれ?
「千歳くん、顔赤ない?」
「気にせんで……」