デフォルトネームは『花澄』
シン夢短編
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ひだまりの中で
「おーい、起きろー」
突然体を揺すられて、私は強制的に脳を覚醒させられた。とは言っても、先程まで気持ち良く寝ていたので急には起きられるわけがない。寝ぼけながら何度も瞳を瞬かせた。そして、寝ぼけたまま声がした方に顔を向けると、そこにはきらきらとした金色の何かが揺れているではないか。あまりの眩しさに私は目を瞑った。
「いや、寝るなよ。あと、眩しいってなんだ」
決してもう一度寝ようとしたわけではない。仕方ないので再び目を開けると、ぼんやりとした中にシンくんの姿があった。
「あ、れ……シンくん……?」
私が名前を呼ぶと、目の前にいる彼は肯定するように頷いた。金色がきらりと光って揺れる。どうやら、あのきらきらした金色は陽の光を浴びたシンくんの頭だったようだ。
それにしても、夢でも見ているのだろうか。ここはどう見ても私が普段生活している部屋で、シンくんがいるはずなどない。でも、目の前にいるのは紛れもなくシンくんであった。じっと顔を見つめていると、彼は呆れたようにため息を吐き出す。
「夢なわけないだろ。もう昨日のこと忘れたのか?」
「……き、のう?」
そう言われ、昨日の記憶の糸を手繰り寄せる。
――確か、昨日は帰りに坂本商店に寄って買い物をしたはずだ。もう外もけっこう暗くなっていて、ちょうど仕事が終わったシンくんが送ろうかと声をかけてくれたような気がする。
「うんうん」
私の心の中を読んでいるのか、彼はしきりに頷いている。ここまで合っているようだ。
――その後、シンくんのそのご厚意に甘えて私は家まで送ってもらった。だけど、離れるのがどうも名残惜しくて、ドアの前で引き止めるように立ち話をして、それで――
「……あ、私が泊めたのか」
「なんでそこ忘れてんだよ。ほら、もう起きろよ。ごはん作ったから」
ごはんという言葉に、部屋の中にパンの焼けた良い匂いが漂っていることに気づく。自然と私のお腹はくぅと鳴った。ついさっきまであんなに眠かったのに、今は食欲の方が勝っているようだ。
私はベッドから体を起こし、彼をじっと見つめる。
「シンくん、ありがとう。大好き」
「お、おう……」
そっぽを向かれてしまったが、一瞬だけ赤く染まった頬がちらりと見えた。もしかして照れているのかもしれない。そう思うと、胸がいっぱいで愛おしくなる。
「て、照れてなんかないからな! 準備してくるから早く顔洗ってこいよ!」
「はーい」
くすくすと笑いながら私はベッドから抜け出した。
私が顔を洗って戻る頃には、すでにテーブルの上には朝食が準備されていた。こんがり焼けたトーストの上に目玉焼きが乗っている。そういえば昨日、坂本商店に寄った際に明日は目玉焼きの乗ったトースト食べようかな、などと考えていた。またシンくんに心を読まれたなと思う反面、覚えてくれていたのかとうれしくなる。
こうして誰かが朝食を用意してくれるのも久しぶりだ。テーブルに並べられた二人分の食事を眺めていると、なんだか不思議な気持ちになってくる。
「はい」
キッチンから戻ってきたシンくんが私のマグカップを差し出してくる。手に取ると、ふわりとコーヒーの香りがした。
「いただきます」
テーブルに着いて手を合わせると、二人の声はぴったりと揃った。私はマグカップに口をつけながら、ちらりとシンくんの方を盗み見る。相変わらず、陽の光に当たった金髪がきらきらしてきれいだ。彼がトーストを掴んで食べているのを眺めてみる。一口が大きいなとか、おいしそうに食べるな、などとぼんやり考える。その様子を見ていると、やっぱりシンくんがここにいるのが不思議だなと思った。
いつも一人でごはんを食べて、テレビを見て、お風呂に入って、寝る。それが私の日常だった。けれど、シンくんと出会って、仲良くなって、恋人同士になってそれも変わりつつある。いつかはこの光景が私にとっての普通になるのだろうか。
「食べねぇの?」
気づけば、彼がじっとこちらを見ていた。
「……不思議だなぁって、思って」
「何が?」
「シンくんが私の部屋にいるのが。ずっと一人だったから、不思議な感じだな〜って。……いつかはこれが当たり前になるのかな」
――当たり前になればいい。きっと私がそう思っているだけだ。今さら一人にされたら、前よりも寂しくてたまらないから。
「俺もそう思ってるよ。隣にいるのはお前がいい」
いつの間にか落ちていた視線を上げる。
「だからさ、寂しいときとか会いたいときは呼んでよ。いつでも来るし」
「うん」
「……俺たち付き合ってるんだから」
「ありがとう、シンくん」
やっぱりシンくんは優しい。胸がじんわりと温かくなっていく。シンくんのことを好きになって、好きになってもらえて良かった。
(これからもずっと大好きだよ、シンくん)
心の中で想いを告げると、彼の顔は次第に赤く染まっていく。
「また、照れてる」
「照れてねぇし。ほら、早く食ってしまおうぜ」
「ふふっ」
暖かい陽が射し込む中で、私たちは笑い合いながらテーブルを囲む。いつか幸せな当たり前の日常になることを願って――
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