こば主♀短編

今日の主役に青春を


「小鳩先輩、お誕生日おめでとうございます」
 そう言って彼女は小さな箱をオレに差し出した。両手のひらに収まるぐらいの小さな箱。綺麗にラッピングされていてまさにプレゼント!という有様だ。
「いらないんですか……?」
 中々オレが受け取らないものだから不安げな顔をして覗き込んできた。ちょっとだけ距離が近くなる。今日も彼女はかわいい。いや、そんなことを考えている場合ではない。
「え、あ〜、いや、もらっていいの?」
「当たり前じゃないですか。先輩のために買ってきたんですよ」
「キィも選ぶの手伝ったんだぞ!」
 嬉しそうな声と共に彼女の後ろからひょっこりと顔を覗かせたのはキィだ。早く開けてくれと言わんばかりに目がキラキラと輝いている。
「お、おう。ありがとよ。ブッチョ、キィ」
 そう言って、彼女の手のひらにあった小さな箱を受け取る。重みはそんなにない。
「先輩が気に入ってくれるといいんですけど……」
「部長〜まだ心配してるのか?コバトは部長からのだったらなんでも喜ぶだろ。さぁ、コバト早く開けてくれ!」
 ちょっとだけイラっとしたが概ね事実なので何も言えない。そもそももらえるとは思わなかったので正直倍は嬉しい。早速箱にかかっているリボンをゆっくりほどく。箱を開ければ中に入っていたのはシルバーのペンダントだった。
「小鳩先輩シルバーのアクセサリーよくつけてるし、こういうの好きかなって……ど、どうですか?」
「ブッチョよく分かってんじゃん!こういうのめっちゃ好き。マジでありがとな」
「喜んでもらえて良かったです!」
 満面の笑みを浮かべるその姿も充分誕生日プレゼントにふさわしかった。やっぱりかわいいな、なんて。
「でも、それは現実には持って帰れないんですよね」
 確かに、今この手の中にあるペンダントもリドゥから現実世界に帰れば消えてしまうだろう。せっかく彼女からもらったのに。せめてリドゥの中で大事に使おう。手のひらにある物に一人思いを馳せていると、彼女がこう宣言した。
「……なので、特別にもう1個だけプレゼントがあります!」
「嘘だろ!?マジ!?」
 オレはこんなにも幸せ者で良いのか?ゴクリ、と唾を飲み込む。
「なんと、今日一日だけ先輩の言うことを叶えてあげます!ただし、無理のない範囲で!」
 とんでもない言葉が返ってきた。
「いいのかブッチョ!?オレなんかにそこまでしてもらって!?」
「もちろんです!小鳩先輩にはお世話になってますから」
「お世話してるの間違いじゃないか?」
「オイ」
 彼女の後ろでキィが口に手を当ててくすくすと笑っている。一言余計なんだよ。
「……先輩何がいいですか?ドンとこいです!」
 そう言われても正直何も思いつかない。この誕生日プレゼントをもらっただけでもめちゃくちゃ嬉しいのだ。たとえ、現実に帰ったら消えてしまう物でも。これ以上求めたら逆にバチでも当たるのではと考えてしまう。だが、やる気満々の彼女の顔を見ると何もないとも言えない。まぁ、オレと言ったらやっぱりアレしかないか。こんなときしか誘えないのは男としてどうかとは思うが、もうこれしかない。
「あ〜じゃあさ、今日一日ブッチョの時間ちょうだい」
「えっと、それはどういう?」
「……デートに誘ってんの」
「あ〜……えっ!?」
 キョトンとしていた顔がみるみるうちに驚きの表情へと変わる。驚きのあまりか、口を魚のようにパクパクさせている。
「ほら、オレとブッチョとノトギンとマリマリでプラネタリア行ったときあっただろ。あのときちゃんとデートできなかったし。リベンジデートしよーぜ」
「それだったら私じゃなくて茉莉絵のほうがいいのでは?」
「……ブッチョがいい。まあ、嫌じゃなきゃでいいんだけどよ」
「……いいですよ」
「いいの!?」
「だって今日は先輩の誕生日ですからね!」
 誕生日様様である。
「それじゃあ、キィは大人しくしてるか〜。楽しんできなよ二人とも〜」
 そう言ってキィは彼女の体に戻っていく。多分、空気を読んで戻っていったのだろう。珍しいものである。何かお土産でも買ってやるか。
「小鳩先輩早く行きましょう!」
「おう!目一杯楽しませてやっからな」
「それはこっちのセリフです!」
 そんな他愛もない話をしながら。二人で青春へと一歩足を踏み出した。
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