こば主♀短編

My Dearest


『小鳩先輩お誕生日おめでとうございます』

 日付が変わって真っ先に目に入ったのはこのメッセージだった。スマホからは他のメッセージを告げる通知音が鳴り続けているがこの画面から動けないでいた。
 一瞬だけ考えたのち、押し慣れた電話のマークをタップする。二回コール音が鳴ったところでもしかしてもう寝てしまったかもしれないと思った。次ダメだったら切るかと諦めていたら、もしもし、と少しだけ眠たそうな声が聞こえてきた。
「悪い。もしかして寝てた?」
「いえ、起きてましたよ。返事来ないかなって」
 その言葉に心拍数が上がるのを感じる。待っていてくれたのかと思うとかわいくてしょうがない。
「改めて、小鳩先輩お誕生日おめでとうございます」
「おう、ありがとよ。ブッチョが一番最初だったぜ」
「本当ですか? うれしい。明日……じゃなくて今日は先輩の好きなものいっぱい作りますね」
「そりゃ、楽しみだ。ブッチョの料理うまいからな」
 誕生日の日家に来ませんかと言われたときは正直驚いたが、部長は至って普通に誕生日会的なものをしようとしただけだった。やましいことを考えてたのは自分だけだった。
「喜んでもらえるようにがんばりますね」
 普段聞くことのない眠たそうなふにゃふにゃとした声。今どんな顔をしているのだろうか。 今すぐ会って顔が見たい。リドゥだったら可能だったかもしれないが、さすがに現実世界では無理な話だ。
「……あ、私とこんなに話してて大丈夫ですか?友達から連絡とか」
「そんなたいそうな友達いねぇよ。それに今はブッチョが一番大事だから」
「それはうれしいですね。でも、友達は大切にしてくださいよ」
「ちゃんと後で返信するよ。どーせ、帰宅部の奴らからも送られてるだろーし」
 今頃帰宅部のグループWIREではいろいろなメッセージが飛び交っていることだろう。
「でも、あんまり長く話すのは悪いですからそろそろ寝ますね」
「え〜、まだ話そうぜ」
「どうせ、また会うんですから。そのときにしましょう。やっぱり顔見て話したいですし」
 部長が自分と同じ気持ちだったようでうれしく思う。普段はあまりストレートにこういうことを言ってくれないので、本当に眠たいのだろう。眠気でぽやぽやしている部長もまたかわいいものだ。
 名残惜しいところではあるが、そろそろ部長を寝かせてあげよう。そう思って、声を掛けようとしたとき
「……小鳩先輩」
「ん? 何? まだ話し足りない?」
 まだ眠たげな声が名前を呼んだ。話し足りないのであれば寝落ちするまでとことん付き合うのもいいかもしれない。なんだか恋人っぽいし。

「えっと、今日は特別な日なので。……小鳩先輩のことが大好きです」

 どこか甘い声が耳を撫でていった。頭の中で反芻するがうまく飲み込めない。
「エッ⁉ 待ってもう一回‼」
「もう言いません。寝ます。おやすみなさい」
「待って待って待って!」
「え〜」
 ここで律儀に待ってくれるからまた好きの気持ちが溢れてしまう。
「オレにも言わせて。ブッチョのことが大好き。愛してるよ」
 しばしの沈黙。
「……目が覚めました」
「それは悪かった。でも、ほんとのことだし」
「……分かってますよ」
 小さな声だったがしっかりと小鳩の耳には届いていた。自然と口元が緩むのを感じる。
「じゃあ、もう本当に寝ますね。おやすみなさい」
「おやすみ」
 まさか日付が変わった瞬間に一番に祝ってくれるとは思っていなかった。こうして少しの間話すこともでき、心が満たされたような感覚だ。
 突然、眠気が襲ってきてあくびを一つこぼす。そろそろ自分も寝るとしよう。たくさん来ているであろうメッセージは朝起きてから少しずつ返すとするか。
 最愛の人の顔を頭に浮かべ、今日のことに思いを馳せつつ静かに眠りにつくのだった。
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