モンキー・D・ルフィ


「ONE PIECE」について説明できるほど詳しく知らないが、あの物語には悪魔の実を食べ悪魔の実の能力者なる者になった輩が多数登場する。
主人公のモンキー・D・ルフィもその一人であることは皆さんも周知のことであろう。

ルフィは少年時代にゴムゴムの実を食べ、全身を自由自在に伸ばせるゴム人間になった。
しかしその代償は大きく、悪魔の実の能力者となった者は海に嫌われ、一生泳ぐことができないカナヅチになってしまう。
あの物語の登場人物達は、そういった逆境にも挫けることなく、海賊王を目指して大冒険を繰り広げるのである。

ルフィもまたゴムゴムの実の能力を駆使し、行く手に立ちはだかる様々な敵と戦い撃ち破って行くのだった。


そんなルフィのゴム体質を駆使した技は多数あるようだが、その一つがゴムゴムの銃(ピストル)である。

ルフィは「ゴムゴムの銃!!」と高らかに叫び、遠くにいる敵目がけて、ゴムの腕をグーンと伸ばし、強烈なパンチを喰らわすのである。


一般的に遠くにいる敵を倒す武器といえば、本物のピストルや手裏剣のような飛び道具が考えられる。

しかしこれらの武器は消耗品である弾丸などを飛ばすため、使えば使うほど戦力を消費してしまい、長期戦になれば戦いの最中に使い果たしてしまう危険がある。

また、発射されない限り武器として成立しないのも飛び道具の欠点だ。
発射は基本的に一発ずつ。弾丸や手裏剣は発射を待っている状態では、言い方は悪いがお荷物である。
長期戦を予測してあらかじめ弾丸をたくさん用意しておくと戦闘中邪魔になるというデメリットもある。

昭和のロボットヒーローの定番の武器であるロケットパンチは、一応帰ってくる事を前提に発射されているが、万が一帰って来なかったらそれ以降は腕無しで戦わなければならないというたいへんなリスクを負うことになる。

ルフィのゴムゴムの銃はどんなに遠くまで飛んで行っても決してルフィ本体から離れる事はないので繰り返し使え、なおかつ紛失の心配も無いローリスクな武器と言えよう。

しかしこのゴムゴムの銃、本当に実戦で使えるだけの威力があるのだろうか?
便利かどうかと、武器として破壊力が有るかどうかは別問題である。


ゴムゴムの銃は早い話が遠くまで届くパンチである。

パンチの威力はパンチが繰り出されるスピードが大きく影響する。
ボクシングのストレートや空手の正拳突きの威力が最も増すのは腕が伸びきる瞬間である。
腕が伸びきる瞬間が最もスピードが速くなるためである。

ルフィのゴムゴムの銃は、腕が伸びきる瞬間に当たっているのか、伸びきる前に当たっているのかはよくわからない。
少なくともルフィの腕がどこまでも伸びて行くのなら、伸びきった後で当たっているって事はない。
だが、そもそもルフィがゴム人間だということを忘れてはならない。


ゴムとは弾性に極めて富んだ性質をもつ。
塑性があり、力を加えて引っ張れば、物によっては10倍以上に伸び、引っ張る力から解放されると勢いよく元の常態に戻ろうとする。

誰でも暇つぶしに輪ゴムをピンッと飛ばして遊んだ事があるだろう。
80年代一世を風靡した「ゆーとぴあ」のゴムパッチンコントはまさにゴムの威力を利用したリアクション芸である。

確かにゴムの威力はスゴイが、ルフィのそれはなにかが違う。
なぜならゴムゴムの銃はゴムを伸ばしていった先に当たっているからだ。

ゴムはあくまでもゴムであり、バネではないのだ。
縮む威力は有っても、伸びる威力は無いのだ。

ゴムパッチンやゴム飛ばしはゴムが伸びていった威力ではない。
むしろ逆で、ゴムが縮んで元に戻ろうとした時に発揮される威力である。

ゴムが引き伸ばされるにはゴムを引っ張る力が外部からはたらく必要がある。
しかし、伸ばされている間もゴムは常に元に戻ろうと、伸ばす方向とは逆方向に自ら力を掛けているのである。

もし引き伸ばされる方向に力がはたらくとしたら、バンジージャンプは普通に落下するよりはるかに強い力で地面に叩きつけられるハズである。

つまりゴムゴムの銃は、前進する力に対して常に自らのマイナスの力をはたらかせながら敵に向かって突進していく事になる。

ゴムゴムの銃は前進する度に元に戻ろうとしてマイナスの力でスピードが打ち消され、前に進んではいるものの、先端のスピードは進む度にゼロになりながら強引に進んで行く事になる。

バックしようとしている軽自動車を、もっと大きなダンプカーで無理やり前に引っ張っているのを想像してほしい。
前進しているのは、あくまでも外部からのダンプカーの引っ張る力であり、軽自動車には一切前進する力などはたらいていないのだ。
引っ張る力から解放された瞬間に軽自動車は勢いよくバックしていくのと同じである。

敵に当たった瞬間、引っ張る力から解放された拳のスピードはマイナスになってしまい、相手になんのダメージも与えられない。


ゴムの弾性の威力が凄まじいのは事実である。
しかし、その威力が発揮されるのはゴムが引っ張る力から解放された後…
すなわち、ゴムゴムの銃が標的に当たった後である。

引っ張る力から解放されたルフィの拳は猛烈な勢いで元の形状に戻ろうとする。
この時の勢いこそ「ゴムゴムの銃」と呼ぶにふさわしい。

ゴムゴムの銃が勢いよく放たれるのはここからである。

もちろんルフィ目がけて。


ルフィの技はどれも枕詞に「ゴムゴムの…」が付くが、この技はなんと名付けるのが相応しいだろう?
私としては「ゴムゴムのひとりゆーとぴあ」と名付けたい。

【注釈】
↓[ONE PIECE]
週刊少年ジャンプに連載され、アニメや映画にもなる人気マンガ。
時代背景は様々な時代のアイテムが複雑に混在していてよく解らないが、オリジナルの時代背景と理解していいだろう。

↓[ゴム]
天然ゴムはパラゴムノキから採集される樹脂を凝固させたもの。
中世大航海時代、コロンブスがヨーロッパに伝えたとされている。

↓[ゆーとぴあ]
ゴムパッチン芸で80年代に一世を風靡したホープとピース(いずれも芸名)の二人のコントコンビ。
お馴染みの設定は先生と生徒で、太く長いゴムをくわえさせて引っ張ってパッチンさせる。

↓[手裏剣]
本来手裏剣とは投げる武器ではなく、文字通り手の裏に隠し持っていてナイフのように使うもの。
忍者が持っているイメージの強い十字手裏剣が登場したのは幕末で、実戦的に使用される事はほぼ無かった。

↓[ロケットパンチ]
マジンガーZで登場して以来、超合金ロボットヒーロー玩具には当たり前のように標準装備されていた。
大抵は早々ロケットパンチだけを無くしてしまい、数年後、本体が無くなった頃にタンスの裏から発見されるのがパターンである。
なお、ロケットパンチはあくまでもパンチであり、それ自体が爆発物ではないので、あくまでも打撃技でしかなく、ミサイルほどの破壊力は無いハズであるが…

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