桃太郎
エッセイの「鬼ヶ島の鬼」にいろいろ追加していたら、書きたい事がまだまだ出てきたので、もう一本書き下ろす事にした。
鬼ヶ島での鬼退治を終え、おじいさんとおばあさんに金銀財宝を持ち帰り、幸せに暮らしました…
おじいさんとおばあさんはこんな孝行息子を持って、さぞ幸せだったであろう。
実の子ではない自分の事を我が子同然に愛情を注ぎ、大切にたくましく育ててくれた老夫婦に、この上ない恩返しをした訳だ!
幸せな結末だ…
後世に語り継ぎたい孝行話である。
その金銀財宝が間違いなく桃太郎の物であるならの話だが…
そもそも「鬼ヶ島の鬼」にも書いたが、鬼ヶ島に蓄えられていた金銀財宝は、鬼が人々の都や里を襲い奪ってきた略奪品である。
すなわち、それぞれの金銀財宝には奪われる前の正統な所有者がいる訳であり、正統な所有者達は財産権を放棄した訳ではないので、彼らにとってその金銀財宝は「遺失物」と考えられるのである。
ようするに、あの金銀財宝は「鬼から貰った」と言うよりは、「鬼から取り返した」と表現する方が正しいのだ。
だとしたら、その金銀財宝は、それぞれ正統な所有者達に返還すべきではないだろうか?
強盗によって奪われた金を警察が取り返しても、その金が警察の収益になる訳ではない。
やっぱり、警察から被害者に返還されるのが道理なのである。
まぁ時代背景的に「オレが奪い返したんだからオレの物だ!」という理屈がまかり通るのかも知れないが、現代の子供達に読み聞かせるにはこれではスジが通らんような気がするなぁ…
モノは考えようだが、鬼達を泳がせておき、さんざん好き放題略奪させ、頃合いを見計らって鬼退治にに行けば溜まった略奪品をまたゲットできるのだ。
これでは桃太郎は盗人の上前をハネているだけのようにも見える。
かといって、桃太郎は役人ではないから、善い行いをしたハズなのに、何の得も無いというのもムナシイ…
ならば、一応正統な所有者に返還したうえで、改めて何割かの謝礼を要求するという形にすれば良いんじゃないか?
もちろん、鬼に財宝を奪われた被害者達は、桃太郎に奪還を依頼した訳ではないから、謝礼を払う義務などは無い。
半ば諦めていた人達も多い中、桃太郎がソレを持って来て「奪い返して来てやったんだから謝礼を払え」と言う訳である。
なんだか、みかじめ料とか頼んでもいない用心棒代を請求されているような気がするが、鬼を倒してしまうような桃太郎なのだから、「ヘタに逆らって暴れ出したら…」と思えば、皆一応納得して謝礼に応じるかも知れない。
ただ問題も多い。
財宝には、元々の持ち主の名前が書かれている訳ではない。
つまり、その財宝の所有者が誰なのかを証明するスベが無いのである。
ここぞとばかりに我も我もと、有りもしない所有権を主張してくる輩も出て来るかも知れないのだ。
金の仏像とか型の有る財宝ならともかく、大判小判のような通貨にいたっては、もはや判別は不可能…
おそらくは、鬼達によってかなりの額が使い込まれているであろうから全額返還は厳しい。
無計画に返還していたら、全額返って来た被害者と、一円も返って来ない被害者と不公平が生じてしまう。
奪還した金額より被害額の方が多くなってしまえば、かえって赤字になってしまう。
誰がいくら盗られたのかを聞き取り調査をしながら、誰にいくらを返還するかを調整した上で行わなければならい。
そうだ!鬼ヶ島へ戻って、鬼一人一人を取り調べて、どこでいくら奪って来たかを出来る限り明らかにし、聞き取り調査をした被害額と一致したモノから支払っていき、一致しないモノは「没収」という形にしたらどうだろう?
まぁとにかく、自分の物でもない物を勝手に贈与するのは感心できない。
まともに「自分の物」として贈与するには、なかなかめんどくさい手続きが必要となる。
善い行いをして、それなりにスジを通し、それなりに利益を確保するのは難しい事なんだなぁ…
【注釈】
↓[みかじめ料]
飲食店や風俗店などが、暴力団らに支払う用心棒代やショバ代などの総称。
毎月3日が支払期限で「三日締め(みっかじめ)」が語源。
なお法的には支払いに応じる義務は全く無いので、支払いを強要されたら迷わす警察に通報するのが良い。
支払ってしまうと、支払った側も暴対法違反となってしまう。
1/1ページ