「やっぱり…怖いな」

あははと苦笑いを浮かべる女の子、カトレア。周りに溶け込むように気配を隠す。だが、何故かジロジロと見られる視線が突き刺さり、ぶるりと身体を震わせた。

「買い物も済んだし、早く帰ろ」

手に持つ紙袋をぎゅっと握ると、足早にその場を去る。
すれ違う人々の視線を感じながらカトレアは大通りを抜け、街を後にした。
足早に向かった先は深い森。そうここはカトレアの住む屋敷がある場所だ。屋敷に着いたカトレアはドアを開けて中に入る。どさりと荷物をテーブルに置くと、ふぅと息を吐いた。

「そんなに異様なのかな？」

悲しげにつぶやく言葉に誰も返事などする訳もなく…
カトレアは自笑すると、不意に窓の方を見た。コンコンという音に「なんだ？」と首を傾げ近づく。窓を開けて顔を出すが、周りに人の気配は無い。
そもそも、こんな深い森の中に誰も足を踏み入れやしない。

「気のせい…？」

もう一度周りを見てみるが、誰かいる感じはしない。仕方がないと、カトレアは窓を閉める。
中世末期の魔女である自分に会いに来る人などいるはずがないし、知り合いすらいない。それに、人は異質なもの排除、迫害する傾向にある。カトレアもその対象である”魔女”だ。
人は魔女を怖がるが迫害しようとすれば、何されるか分からない。そんな対象に会いに来る勇敢な人などいるはずがない。

「何もしないのになぁ」

魔女として恐れられているが、カトレア自身なにかするつもりはなかった。はぁと深く溜息をつくと、買ってきたものを片付ける。買い物以外で外に出ないカトレアは、1回の買い物も多めだ。大量の買い物をしたことに少し後悔しつつも、買ってきてしまったのだからと諦める。全て片付けを終えたカトレアは、椅子に腰かけた。んー！と背を伸ばすとテーブルに突っ伏す。

「疲れた…でもやらないとだよね」

街での出来事に神経を使い果たし疲れてしまった。だが、やらないといけないことがある。いつもしていることだ。よしと気合を入れて立ち上がる。またんー！と背伸びをし歩き出す。いつものように鍋で薬を煮込んで作る。じっくりと煮込んで作る薬は効果抜群だ。自画自賛しながら「よし完成」と微笑む。

「今日はもう疲れたし寝るか」

神経のすり減りで疲れてしまったカトレアは、寝室にいきベッドに倒れ込む。今日はほんとに疲れた。自分はただ普通に過ごしているだけだというのに…
魔女というだけで迫害されるのは間違えている。だが、自分が住む世界はそういう世界だ。仕方がないのかもしれない。

「あぁ…ここじゃないどこか別の世界に行きたい…」

カトレアはそう呟くと、深い眠りについた。深夜2時過ぎ、すぅすぅと静かな寝息をたてるカトレアのそばに小さな光が現れる。その光はすぐに人の姿へと変わり、カトレアを見やると「あなたの望みのまま」と囁いた。
その囁きはカトレアには届いていない。未だに眠るカトレアを手をかざす。するとカトレアは淡い光に包まれていく。

「さぁ、行きましょうか」

手をかざしていない方の指をパチンと鳴らすと、カトレアを包み込む淡い光は消えた。それと同時にカトレアも姿を消す。それを見届けた人影はニヤリと笑うと姿を消した。


「っ…、痛っ…」
どれぐらい寝ていたのだろうか。確か薬を作ったあとベッドで泥のように眠りについたはずだ。だが、ベッドで寝ていたはずなのだが、明らかに体が痛む。
床で寝ていた時のような痛みが全身に駆け巡り、痛さで目を覚ましたカトレアは、ゆっくりと起き上がった。

「……えっ…？どこ…ここ…」

痛む体を擦りながら辺りを見てカトレアは驚く。先程まで自分の屋敷で寝ていたはずだ。だが、目を覚ますと、そこは見たことがない部屋。「え？え？」と混乱するカトレアに追い討ちをかけるかのように、見知らぬ声が聞こえてくる。

「ここはあなたの望んだ世界。そして、あなたがアイドルのトップになる世界です」
「っ？！」

突然聞こえてきた声にビクッと身体を震わせ、声が聞こえてきた方へと視線を向ける。そこにいたのは怪しげな笑みを浮かべた一人の男性が、こちらを見ていた。

「あ、なた、は…？」

なんとか絞り出した声は震えている。明らかに怪しげな男性に恐怖すら感じてしまう。少し怯えた様子でそう尋ねるカトレアに気にしていないのか、男性は「それはまた後で教えますよ」と応えると、部屋を出ていった。
取り残されたカトレアは混乱する頭で必死に考える。だが、状況がいまいち分からないカトレアは、「情報が少ないかな」と苦笑いを浮かべる。

「私の望んだ世界…アイドルのトップになる世界…これだけじゃ分からないや…」

あははとから笑いするとカトレアはゆっくりと立ち上がった。窓から見える世界は明らかに知らないものばかりだ。
それが自分の望んだ世界となにか関係するのだろう。

「ここがあの世界じゃないなら、私はもうあの世界に帰りたくない。あそこは息苦しいから…」

悲しげに微笑むカトレアが見る窓の外では、ぽつりぽつりと雨が降ってきていた…

to be continued…