健全読切
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〈飲み会だから夕飯は要らないよ。帰りも遅くなるから先に寝ていてね。〉
藍染先生から、そうメッセージが来たのは夕飯を準備し終えたあと。
なんなら、藍染先生を待つのも空腹の限界で自分の分だけご飯を温めようとしたところだった。
先生所有の木造二階建て一軒家のダイニングて1人スマホを睨む私と、居酒屋で同僚たちに囲まれて、ワイワイ楽しく飲んで過ごす(であろう)藍染先生。
連絡が遅いのが気にかかったし、飲み会なんて今どき急に決まるかな? なんて思ったが先生に限ってやましいこととかない……と思う。多分。
この多分は、先生の日頃の行いが悪くて疑って出た多分ではない。
飲み会に行ったこと、連絡が遅かった。普段の藍染先生では考えられないイレギュラーが、まさかこのタイミングでやってきたから出た“多分”なのだ。
同棲3年。
昨日、婚約した。
同棲期間中も、先生は優しくて喧嘩はしたことない。喧嘩未満のボヤ騒ぎは私が一方的に起こしていたけれど。
幸せの最高潮にあるはず。世間一般的には。
私は空座町第一高等学校の3年生で、藍染先生はそこの現代文の先生。なんなら、3年間ずっと担任の先生だ。
先生と生徒。
あとは、先生は覚えているかは知らないけれど、私が小さい頃にも一度会ったことがある。
禁断の恋といえば聞こえはいいが、世間では認められない関係なのだ。
私の18歳の誕生日1か月前で、卒業式の前日である昨日に婚約した。
「はるくんの記念の日。君に改めて誓わせて欲しい」
そう言われて顔が熱くなったのが昨日、町役場から婚姻届を取りに行った帰りのことだった。
あぁ、そうだ。このダイニングテーブルで婚姻届を記入した。
先に夫の欄へ先生が、「藍染惣右介」と書いていく。綺麗な筆蹟で先生がスラスラと書いていくのを眺めていた。十中八九、私は見とれていた。
その後に妻の欄に「花江はる」と書くのはなんだか気が引けた。先生の綺麗な名前の隣に、いかにも幼い感じの丸文字が並ぶのは恥ずかしかった。
さっきまで見とれていた私に対して、仕返しとばかりに私のペン先のひとはね、ひとはらい、そしてクシャクシャにしかねない握力と筆圧で婚姻届に立ち向かう私の姿を、先生は網膜に焼き付け、海馬にしまっていた。
正直、この瞬間まで藍染先生は私に対して冗談で結婚しようとしているのだと思っていた。
市丸先生なら冗談でそういうこと言いそうだけど、藍染先生に限ってはないと信じたいと、祈っていたのでこの態度を見て私は藍染先生のことを疑って本当にすまないと思った。
あーあ、また藍染先生のこと疑っちゃった。
でも、今日は最後の卒業予行だったし、会場準備とかもあって先生たちは帰るのが遅そうだった。
明日は明日で先生たちの都合が良いとか悪いとかあるのだろう。仕方ない。
温め直そうと思った皿をそのままに、スマホを手に取る。
このモヤモヤした気持ちを発散するために連絡先一覧を眺める……が。
私が藍染先生を好きすぎて、やばいのは周知の事実。まあ周囲に牽制の意味も込めていたが。おかげで「花江は藍染の嫁(笑)」という、一昔前のオタクが言ってたようなフレーズを欲しいままにした。
周囲から、「花江は藍染の嫁(笑)」と冷やかされる度に、まあ、お前は実の嫁じゃないけどな(笑)という隔たり、牽制、あくまで本物の嫁じゃないから笑って受け入れられるという意味合いをヒシヒシと感じて少し辛かった。
まあ、来月から本物の「藍染惣右介の嫁」になるんですけど(笑)「藍染はる」って名乗れるの私だけ^^
おっと、脱線してしまった。
要するに、激しく藍染先生に愛を伝える私は、周囲からはそういう「キャラ」として受け入れられていて、藍染先生はひらりはらりと私の求愛と求婚を受け流していたので、私と本気で結婚するとは誰も思ってないだろう。
私の進路とかについて相談に乗ってくれる友人はいても、私の今のマリッジブルーを相談する友人は連絡先一覧には載っていないことがわかった。
……。藍染先生からのメッセージが来て1時間。
藍染先生は3年も私と同棲して、何も分かってないというか、なんで今回に限ってこんな曖昧で不安にさせる情報を寄越してくるのか。これで小論文の授業とかしてくるのめっちゃムカつく。
<今から飲み屋で同僚たちと飲み会になりました。1時間くらいスマホ見れません。帰りは遅くなるから、先に寝ていてね>
先生のメッセージをコピペして、(こういう文章なら、うん! 楽しんでおいでね!って言えるのに!)と怒りで修正し、送るか迷って全消ししたところで、メッセージアプリで藍染先生が急にオンラインになって、【文章を入力中です…】と鉛筆マークまでついた。
<ぃなかえ?>
鉛筆マークが長かったから、長文を期待していたら、意味不明な単語?が送られてきた。
眺めていたから当然、既読が着いたのだろう。それを見て、さらに鉛筆マークが先生がなにか伝えようとしているのを知らせてくれる。
<なてゆわたらはるもひやち>
だからなんて?
私の名前だけなんで綺麗に打てるだよ。予測変換に入れてくれてる? ありがとう大好き藍染先生。
困惑の時間を過ごしていたら、急に先生から電話がかかってきた。思わずスマホを落としそうになりつつ、電話に応答する。
「はるですけど、藍染先生さァ!」
「あ、花江さん? ボクです。ギン先生」
意味不明すぎるメッセージについて、情報が少なすぎて不安な1時間を過ごしたことについて、電話口で藍染先生を感情に任せてなじろうとしたら、市丸先生の声がした。あれ、間違えたかなと思いスマホを耳から離して画面を見たら「藍染惣右介」の文字。
「……。市丸先生、なんの御用ですか?」
「藍染、先生が。飲み会、中に。潰れて、しもたから、さァ、」
市丸先生がなんか息を切らしながら伝えてきた。
よくよく耳を澄ますと、電話の向こうの音は革靴の足音っぽいコツコツといった音と、時折ガサガサとスマホのマイクが直接擦れたり、布などが擦れる音。それから、市丸先生が大きく息を吸ったりしたあとは大抵、スマホを落とすみたいですごい音がする。
「あー、もう」と、市丸先生がイライラした感じでつぶやくのが聞こえると、スマホが落下した様子を伝え、それから少し遠くで「藍染さん、家はここでええの?」という市丸先生の声が聞こえた。
この音だけで推理すると、市丸先生が介助しながら帰宅してるっぽい……?てか家の前?
え、どうしよう。頭真っ白。
その後、電話が切れる音とインターホンがほぼ同時に鳴って現実に戻された。
藍染先生だけ家に入れたいけど、私一人じゃ運ぶのは無理!
どうにかリビングのソファまで市丸先生に運んでもらって、即おかえり頂こう。ダイニングは記入済み婚姻届とかあるし、藍染先生の立場がマジでやばくなる。
「ただいま」
「……おかえりなさい」
玄関のドアを開けると、糸目をさらに細めたような市丸先生と、それに背負われて赤い顔でなんかもにゃもにゃ言っている藍染先生がいた。
なんで市丸先生におかえりなさいっていわなあかんねん。
「藍染先生、重いから中まで運ぶわ。どこに置けばいい?」
市丸先生は藍染先生を背負い直すと玄関の中に強引な感じで侵入してきた。藍染先生を荷物扱いすな!
「じゃあ、リビングのソファで」
複雑そうに私が語尾を小さくして言っている隙に、市丸先生はせかせかとリビングへ向かう引き戸を開け、すぐのソファに藍染先生を乱暴に寝かせた。
聞かなくても分かってるんかーい!!
とりあえず私もリビングに入り、ソファの横にしゃがみ藍染先生を観察する。お酒臭かった。
「市丸せんせ、キャッ!」
一応、潰れて重くなった藍染先生をここまで運んできてくれたのは市丸先生なので、お礼を言おうと市丸先生のほうに振り返り、名前を呼びかけたら途中で後ろから腕を引っ張られ、不意打ちで体勢を大きく崩していく形となり小さく悲鳴をあげてしまった。
「じゃ、また明日。君たち、寝坊せんようにな」
市丸先生は私たちを一瞥もせずに、せかせかと家から出て言った。
バタン。と玄関ドアが閉まる音がするまで市丸先生の行方を追っていたので、市丸先生の気配が家の中から無くなった瞬間。
藍染先生がなんかもにゃもにゃ言ってるのが気になったので、藍染先生の方を向いて聞き取ろうとした。
今の体勢、少年誌におけるちょっとHなラブコメ漫画で見かける体勢になっていた。マジでこういう体勢ってあるんだ〜。理解したくなかったし、これ市丸先生に見られたかな〜。見てるからすぐ帰ったのよね〜。orz
「ギンのほうが、いいのか」
小さな声だったが、もにゃもにゃの中でもこれだけ聞き取れたので即否定しようと180°体勢を変えようとしたら。
「はる、私の全てを分からせてやろう」
酔ってるからか、少し舌たらずになってて可愛かったが、内容は可愛くないと思う。この状況、悪い方向にしか運ばないのなんか、勘づいていたのでどうにか私が手綱を握りたいが、藍染先生の方が何枚も上手だった。酔っぱらいのくせに。
「キャ!」
私の色気のない声で、藍染先生とのあつい夜は始まり、そして次の日の早朝までもつれ込み、私と藍染先生は眠たかったがオールすることで、次の日の卒業式にギリ間に合った。
欠伸を噛み殺しながら卒業式を過ごして、アルバムが配られ、解散!という雰囲気になったところで、それぞれの関わりのある人と別れをみんな惜しんで帰らないでいた。
「おい、花江、藍染先生が校門の外で呼んでるぞ」
黒崎くんが親指で校門の方をクイッと示してくれて、その先を見ると藍染先生が校門の外で立っていた。
私が来るまで別の人たち(藍染先生は演劇部の顧問なので、演劇部の人達がメイン)と最後の別れを惜しんで話をしたり、快く写真を撮っていた。
なぜ、先生が校門の外にいるのかよく分からなかったが、呼んでるとのことなので走って先生の所へ行く。
「藍染先生! お呼びですか?」
「花江くんは、確か大学進学でしたね」
しっぽブンブンの好意丸出しの私は、先生の白々しい演技と台詞に萎えてしまった。
3年間担任してて、今日まですごい付きまとってくる女生徒、何も知らないはずもなく……。
どうせ明日も顔合わせるのに、なんか卒業式っていう特別な日になんで。
珍しく学校で不機嫌丸出しになった私に、焦った藍染先生は、眼鏡を外していつもの先生になり、前髪を撫で付けてからネクタイを緩めた。
「これからは先生と生徒じゃなくなる。君が高校時代に担任だった先生と、元生徒だ。
君はもう空座町第一高校の敷地から出た。このまま帰って、隣町に書類出しに行く。そして花江から藍染に君はなるんだ。分かったね?」
まさかの誓わせてってここでぇ?!記念の日って誕生日じゃなくて卒業式?!えぇ?!
公開プロポーズに腰を抜かし、魂がなんか出てたかも。そして現実に戻ったら嬉しさに涙が出てきた。
校長とかは、世間体がよろしくないとか小言を言ってたけど、思ってたより周囲も飲み込みが早かった。なんかめっちゃ祝福してくれて、織姫ちゃんが胸につけていたコサージュを集めてくれて、石田くんがそれをはブーケのように見た目を整えてくれた。
「藍染はる、幸せになります! ね、藍染先生!」
「……惣右介」
「……みんなの前ではむり」
「もう先生ではないのだけれど、何時まで先生なのかな?」
藍染先生……ではなく惣右介にめちゃくちゃ急かされてなんとか下の名前を絞りだすと、惣右介は私の唇にそっと触れて魔法をかけた。
【了】
2026/03/12
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