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「はあああ…」

インターハイが終わり、次のステージに進むための練習が始まってからしばらくの時が経った。

「…なんだよ」

「お前、ほんと、なんというかさー…」

最後に顔を合わせた時の及川の様子がおかしかったのが気になる、と言われた日向は思いっきりジト目になっていた。そういう顔をさせた影山は、さすがに決まり悪そうに顔を背けている。

「あんだけ迷惑かけられて? あんだけ怖い思いして? それでやっぱり様子がおかしかったから気になるってどういうことだよ。お前そんなお人好しだったか?」

「別に、そんなんじゃない」

「だいたい、様子がおかしかったって、最初からおかしかっただろ」

あの執着具合をおかしいと言わず何をおかしいと言うのか。

「そういうのとはちげえんだよ。なんかいつもより静かだったし…寂しそうだった」

「じゃあいい加減正気に戻りかけてるんじゃね? いいじゃんか、そのまま放置しとけば勝手に大人しくなるだろ」

「そうかも、しんねえけど」

どうにも歯切れが悪い。日向はどうしたものかと頭を掻いた。

この相棒は実はけっこう情に厚い。

日向としては大人しくなったならそのまま触らないほうがいいと思っているのだが、影山はどうしても気にしてしまうらしい。

「まさかとは思うけど、仲直りしようとか今までのこと許そうとか思わないよな?」

「それはない」

影山が眉をしかめて即答したことに少しほっとする。

「及川さんと関わるのは疲れるから絶対いやだ。でも、」

少し迷うようにうつむいて、それから影山は青みがかった瞳でこちらを見た。

「ちゃんと、離れたい。追いかけられて逃げるんじゃなくて、大会で見付けても普通にすれちがえるような、そんな感じになりたい」

「…そっか」

そういえばこの件に関して影山本人から何か希望を言ったことはあまりなかったと気付く。

「しょーがねーなー。お前がそうしたいっていうなら、そうなれるように協力してやるよ」

あえて明るく言ってやると、影山はちょっと安心したように笑った。
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