「あのさ、ツッキー」

「………」

返事はないが、瞳が少し動いたということは聞いているらしい。そう判断して、山口は言葉を続けた。

「あの2人、なんか、すごかったね」

いろんな意味で、と山口は心の中で付け足す。

「…あんなのと一般人を一緒にするほうが間違ってるってことデショ」

「う、まあ、あの2人、“特別”って感じだったけど」

ボールの扱いを少し見ているだけでも分かる。2年も3年もいる中で、飛び抜けて“ボールと親しんでいる”ように見えたのが日向と影山だった。

その動きは、まるでボールと意思疎通でもできるのではないか、と言いたくなるようなもので。

山口は練習中に目の当たりにした2人の実力に、ずっと圧倒されていた。

「…興味ない」

「え?」

「あんな動きを真似できるわけないんだから、一般人はそれなりにやっておけばいいだけ」

「…確かに同じ動きをするのはどんなに練習したって無理かな」

2人のチームメイトの動きを思い起こすと、どうしても胸がそわそわする。自分も何かしたい、と思ってしまった。

だが、

「現実的に考えて、普通にがんばるしか、ないよね」

少ししゅんとしながら、山口は肩を竦める。

「………」

それを見た月島が、若干しまった、という顔をしたのには、気付かなかった。





「…なんでここにいるの」

「腹減ったから!」

「先に帰ったと思ったらこんなところに…」

たまたま通りかかった個人商店の前で何かを食べている日向と影山に行き当たった月島は、眉間にしわを寄せる。

そんな顔をされても気にした様子のない日向は、食べていたもの──どうやら肉まんらしい──の最後のかけらを口の中に放り込んだ。

「お前らは腹減らねーのか?」

「うーん、夕飯まで我慢できるぐらいかな」

「なんでもかんでも自分と一緒にしないでくれる? みんながみんな欠食児童なわけじゃないんですケド」

「あー確かにけっしょくじどう? だなってよく言われる」

「………。意味分かってる?」

呑気に答えた日向のせいで、月島の嫌味は不発で終わる。

「なんか腹空かせてるっていうことなのは分かるぞ」

「…もういいよそれで」

とうとう面倒になったらしい月島は、そこでやり取りを切った。一方の山口は、頬を膨らませてむぐむぐと肉まんを食べている影山に、思わず視線を向ける。

「の、喉に詰まらせないでね」

こくんと頷いた影山は、少しして無事に口の中のものを飲み込んだらしい。満足げに息をついた。

「んじゃそろそろ帰るか」

「おう」

「じゃあ僕は帰るから」

2人がゴミを片付けているのをちらりと見てから、月島が歩き出す。わざわざ声をかけていくところが、なんだかんだで律儀だ。

「あ、俺ももう行くよ。また明日」

「ん。また明日」

「じゃあなー」

山口も慌てて2人に声をかけて、月島を追いかける。後ろから飛んできた返事に振り返って小さく手を振ると、日向も影山もひらひらと手を振り返してくれた。
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