27
立ち上がりはしたものの気乗りはしていない様子の孤爪を連れ、オレンジと青の2人組のほうに寄っていく。
途端、2人はぱっと瞳を輝かせてこちらにぱたぱたと走ってきた。待ってましたと言わんばかりの勢いに、孤爪がびくりとする。すすす、と後ろに回り込んでしまった幼馴染みに苦笑いしながら、近くまで迫ってきた他校の後輩達に声をかけた。
「うちのセッターになんか用かな?」
「あ、っと」
「はい!」
黒髪のセッターは少しためらったが、オレンジ髪のミドルブロッカーは間髪入れずに返事をした。意外にも、孤爪だけでなく、黒尾にも2人のきらめく視線は向けられる。
(おお?)
「質問か何かあるなら聞くぞ」
たんなる付き添いのつもりだったが、なんとなく、自分も話したほうがよさそうな気がして、黒尾は2人に向かって笑って見せた。けして、きらきらした目を向けられて調子に乗ったわけではない。
「ちょっと、クロ」
何を勝手に言っているのかと、ユニフォームの背中を引っ張られるが気にしない。
「俺は黒尾。3年だ。そっちのプリン頭は2年の孤爪な」
「えっと、俺、日向です! 1年です! あ、こいつも1年です」
「影山です」
深々と頭を下げられれば、さすがに孤爪も隠れているわけにはいかなくなったらしい。じりじりと黒尾の後ろから出てきて、日向と影山の顔を見比べる。
「…さっきからこっち見てたけど、なんで?」
1年2人はきょとんとした顔になった。
「なんでって」
「え、そんな見てたっすか?」
黒尾は思わず吹き出す。悪意はないだろうと思っていたが、そもそもあまり意識して見ていたわけではなかったらしい。
「意識してやってたわけじゃないのにあれ…?」
孤爪も気が抜けたのか、へなりと眉が下がる。
「だいぶ視線突き刺さってけどなあ。そうかー意識してなかったかー」
けたけたと笑っていると、さすがに2人が何かまずいことをした、という顔になった。
「あ、そっか、ごめんなさい!」
「そんなめちゃくちゃ見てるつもりなくて!」
あわあわと手を振る2人に向かって、孤爪は肩をすくめる。
「いいよ、もう。今後はあんまりじろじろ見ないでほしいけど。クロは笑ってたけど俺は気になるから」
「「はい!」」
(…お、笑ったな)
真面目に返事をした日向達を見て、孤爪が一瞬顔を緩めたのを、黒尾は見逃さなかった。この調子なら、もう大丈夫だろう。
どうやら、何かと消極的な幼馴染みにも、新しい交流が生まれるようだった。
長めの髪を揺らして音駒のセッターが何事か話す。すると日向が明るい顔で何度も頷き、影山が控えめに顔を緩めた。それに対して音駒の主将が何か冗談を言ったのかセッターに睨まれ、1年2人は楽しそうに笑う。1年達の笑顔につられたようにセッターが穏やかに口の端を上げた。
4人の間には、とても穏やかな空気が漂っているのが、遠目に見ているだけで分かる。
「あー」
隣からでれでれとした声が聞こえ、澤村は額にしわを刻んだ。
「…だいたい察してるがあえて訊くぞ。何考えてた?」
「かわいい。後輩の友達ができて嬉しい。かわいい。あそこに混ざりたい。でも交流は邪魔したくない。とりあえずかわいい」
「スガ…」
「毎度のことながらアレだな、お前」
相変わらず後輩が絡むといろいろひどい。東峰が大きく溜め息をつく。
「スガはもうそれでいいよ…」
「なんだその諦め顔」
もはや恒例行事のようになりかけているやり取りのあと、ふと菅原がキッと眉を釣り上げた。
「あ、ずるい」
「は?」
何を言っているのかと思えば、音駒の主将が影山の頭をわしわしと撫でているのが目に入る。何かと先輩に可愛がられがちな影山は平然としているが、音駒のセッターは呆れたような顔で自分のところの主将を見上げていた。
「邪魔するなよ」
「しないから! ちょーっと俺も撫で回しに行きたいなーって思うだけ!」
「行くなよ」
「チッ」
「え、本当に行くつもりだったの」
心底残念そうに舌打ちする菅原を見て、東峰が引いている。
せっかく顔は優しげなイケメンなのにそういう表情になると台無しだな、と澤村は思った。口には出さなかったが。
と、こちらがじろじろ見ていたことに気づいたのか、音駒の主将と視線が合う。
にっと愉快そうに笑った彼は、何を思ったか、日向と影山の頭を引き寄せるようにして撫で回した。2人ともきょとんとした顔でされるがまま、頭をぐらぐらと揺らしている。
「………」
「スガ! 抑えろ!」
「離せやっぱり俺も行く!」
「いやなんでそんな殺気立ってるの!?」
直後、見事に反応した菅原が駆け出そうとし、寸前で澤村と東峰が取り押さえることになった。
【烏野1年】
山口:全員ちゃんと家帰った?
ひとか:うん、もう寝る準備してるよ
ひなひな:帰ってるぞー
かげかげ:メシ食ってきた(・ω・)
ひなひな:月島は?
山口:ツッキー?
山口:既読つかない
山口:あ
山口:付いた
月島:うるさいなんでそんな元気なの早く寝ろ
山口:ごめんツッキー
山口:でもとりあえずちゃんと帰っててよかった
山口:別れるときもう寝そうだったし
月島:さすがに帰ってるから
月島:寝る
ひなひな:おやすみ!
山口:さっそく既読つかなくなった
かげかげ:やっぱ疲れてたんだな(・ω・`*)
ひとか:合宿の間たくさん動いたもんね…
山口:そういえば
山口:黒尾さんとセッターの人と仲良くなったの?
ひなひな:なった
かげかげ:セッターは孤爪さん
かげかげ:ライン交換した( ´ ω ` )
山口:2人ともいつの間にか先輩ホイホイしてるよね…
かげかげ:そんなしてるか(・ω・)?
ひとか:あはは…
かげかげ:でも日向は1年のやつにも話しかけられてたぞ
ひなひな:犬岡な!
ひなひな:あいつにもライン教えてもらった
ひなひな:山口と月島と谷地さんは音駒の人と話さなかったのか?
ひとか:私!?
ひとか:わ、私はちょっと…気後れが…
山口:俺とツッキーも黒尾さんにちょっと話しかけられて
山口:1年仲良いね、みたいなこと言われてツッキーが別にとかなんとか言って
ひなひな:なんでだよ!仲いいだろ!
山口:うんそうだね仲良いね
山口:ツッキーのはただの照れ隠しだよ
山口:で、それで笑われてツッキーがむっとしてたら向こうの2番さんに黒尾さんが回収されてた
山口:それぐらいかな
ひなひな:そっかー
ひなひな:あれ既読増えた
月島:ねえいつまでぐだぐだ話してるの早く寝なよ
かげかげ:おこられた
山口:ごめん!もう寝るよ!
山口:明日だって練習あるもんな
ひなひな:そうだなー
ひなひな:俺も寝る!おやすみ!
ひとか:おやすみなさい
かげかげ:おやすみノシ
途端、2人はぱっと瞳を輝かせてこちらにぱたぱたと走ってきた。待ってましたと言わんばかりの勢いに、孤爪がびくりとする。すすす、と後ろに回り込んでしまった幼馴染みに苦笑いしながら、近くまで迫ってきた他校の後輩達に声をかけた。
「うちのセッターになんか用かな?」
「あ、っと」
「はい!」
黒髪のセッターは少しためらったが、オレンジ髪のミドルブロッカーは間髪入れずに返事をした。意外にも、孤爪だけでなく、黒尾にも2人のきらめく視線は向けられる。
(おお?)
「質問か何かあるなら聞くぞ」
たんなる付き添いのつもりだったが、なんとなく、自分も話したほうがよさそうな気がして、黒尾は2人に向かって笑って見せた。けして、きらきらした目を向けられて調子に乗ったわけではない。
「ちょっと、クロ」
何を勝手に言っているのかと、ユニフォームの背中を引っ張られるが気にしない。
「俺は黒尾。3年だ。そっちのプリン頭は2年の孤爪な」
「えっと、俺、日向です! 1年です! あ、こいつも1年です」
「影山です」
深々と頭を下げられれば、さすがに孤爪も隠れているわけにはいかなくなったらしい。じりじりと黒尾の後ろから出てきて、日向と影山の顔を見比べる。
「…さっきからこっち見てたけど、なんで?」
1年2人はきょとんとした顔になった。
「なんでって」
「え、そんな見てたっすか?」
黒尾は思わず吹き出す。悪意はないだろうと思っていたが、そもそもあまり意識して見ていたわけではなかったらしい。
「意識してやってたわけじゃないのにあれ…?」
孤爪も気が抜けたのか、へなりと眉が下がる。
「だいぶ視線突き刺さってけどなあ。そうかー意識してなかったかー」
けたけたと笑っていると、さすがに2人が何かまずいことをした、という顔になった。
「あ、そっか、ごめんなさい!」
「そんなめちゃくちゃ見てるつもりなくて!」
あわあわと手を振る2人に向かって、孤爪は肩をすくめる。
「いいよ、もう。今後はあんまりじろじろ見ないでほしいけど。クロは笑ってたけど俺は気になるから」
「「はい!」」
(…お、笑ったな)
真面目に返事をした日向達を見て、孤爪が一瞬顔を緩めたのを、黒尾は見逃さなかった。この調子なら、もう大丈夫だろう。
どうやら、何かと消極的な幼馴染みにも、新しい交流が生まれるようだった。
長めの髪を揺らして音駒のセッターが何事か話す。すると日向が明るい顔で何度も頷き、影山が控えめに顔を緩めた。それに対して音駒の主将が何か冗談を言ったのかセッターに睨まれ、1年2人は楽しそうに笑う。1年達の笑顔につられたようにセッターが穏やかに口の端を上げた。
4人の間には、とても穏やかな空気が漂っているのが、遠目に見ているだけで分かる。
「あー」
隣からでれでれとした声が聞こえ、澤村は額にしわを刻んだ。
「…だいたい察してるがあえて訊くぞ。何考えてた?」
「かわいい。後輩の友達ができて嬉しい。かわいい。あそこに混ざりたい。でも交流は邪魔したくない。とりあえずかわいい」
「スガ…」
「毎度のことながらアレだな、お前」
相変わらず後輩が絡むといろいろひどい。東峰が大きく溜め息をつく。
「スガはもうそれでいいよ…」
「なんだその諦め顔」
もはや恒例行事のようになりかけているやり取りのあと、ふと菅原がキッと眉を釣り上げた。
「あ、ずるい」
「は?」
何を言っているのかと思えば、音駒の主将が影山の頭をわしわしと撫でているのが目に入る。何かと先輩に可愛がられがちな影山は平然としているが、音駒のセッターは呆れたような顔で自分のところの主将を見上げていた。
「邪魔するなよ」
「しないから! ちょーっと俺も撫で回しに行きたいなーって思うだけ!」
「行くなよ」
「チッ」
「え、本当に行くつもりだったの」
心底残念そうに舌打ちする菅原を見て、東峰が引いている。
せっかく顔は優しげなイケメンなのにそういう表情になると台無しだな、と澤村は思った。口には出さなかったが。
と、こちらがじろじろ見ていたことに気づいたのか、音駒の主将と視線が合う。
にっと愉快そうに笑った彼は、何を思ったか、日向と影山の頭を引き寄せるようにして撫で回した。2人ともきょとんとした顔でされるがまま、頭をぐらぐらと揺らしている。
「………」
「スガ! 抑えろ!」
「離せやっぱり俺も行く!」
「いやなんでそんな殺気立ってるの!?」
直後、見事に反応した菅原が駆け出そうとし、寸前で澤村と東峰が取り押さえることになった。
【烏野1年】
山口:全員ちゃんと家帰った?
ひとか:うん、もう寝る準備してるよ
ひなひな:帰ってるぞー
かげかげ:メシ食ってきた(・ω・)
ひなひな:月島は?
山口:ツッキー?
山口:既読つかない
山口:あ
山口:付いた
月島:うるさいなんでそんな元気なの早く寝ろ
山口:ごめんツッキー
山口:でもとりあえずちゃんと帰っててよかった
山口:別れるときもう寝そうだったし
月島:さすがに帰ってるから
月島:寝る
ひなひな:おやすみ!
山口:さっそく既読つかなくなった
かげかげ:やっぱ疲れてたんだな(・ω・`*)
ひとか:合宿の間たくさん動いたもんね…
山口:そういえば
山口:黒尾さんとセッターの人と仲良くなったの?
ひなひな:なった
かげかげ:セッターは孤爪さん
かげかげ:ライン交換した( ´ ω ` )
山口:2人ともいつの間にか先輩ホイホイしてるよね…
かげかげ:そんなしてるか(・ω・)?
ひとか:あはは…
かげかげ:でも日向は1年のやつにも話しかけられてたぞ
ひなひな:犬岡な!
ひなひな:あいつにもライン教えてもらった
ひなひな:山口と月島と谷地さんは音駒の人と話さなかったのか?
ひとか:私!?
ひとか:わ、私はちょっと…気後れが…
山口:俺とツッキーも黒尾さんにちょっと話しかけられて
山口:1年仲良いね、みたいなこと言われてツッキーが別にとかなんとか言って
ひなひな:なんでだよ!仲いいだろ!
山口:うんそうだね仲良いね
山口:ツッキーのはただの照れ隠しだよ
山口:で、それで笑われてツッキーがむっとしてたら向こうの2番さんに黒尾さんが回収されてた
山口:それぐらいかな
ひなひな:そっかー
ひなひな:あれ既読増えた
月島:ねえいつまでぐだぐだ話してるの早く寝なよ
かげかげ:おこられた
山口:ごめん!もう寝るよ!
山口:明日だって練習あるもんな
ひなひな:そうだなー
ひなひな:俺も寝る!おやすみ!
ひとか:おやすみなさい
かげかげ:おやすみノシ