影山はそわそわとしていた。

「初めまして。俺は縁下力」

「俺は木下久志。よろしくな」

「2人のことは先輩達から聞いてるよ。俺は成田一仁」

「「お願いします!」」

「なかなか礼儀正しいだろ?」

「なんで田中が自慢げなんだよ」

目の前には、今は部活禁止になっているはずの西谷以外の2年が揃っている。懐かしい顔が次々と集まっているこの状況が嬉しくて、口元が勝手に緩んだ。

「………」

隣を見ると、影山と同じくそわそわと落ち着かない日向がいる。視線に気づいたのか、口元をむずむずと動かしていた日向は、こちらを見てにっと笑った。





「嬉しそうだなー2人とも」

「…羨ましそうだな」

少し離れた位置から1年と2年の交流を見守っていた菅原は、ぼそっと呟いた。それを聞きつけた澤村が、呆れた顔をする。

「いやだってさ? あんっっっな嬉しそうな顔してもらえた覚えがないんだよね俺は」

「スガの場合、急に話しかけて驚かせたからだろ」

「…うっ、そうなんだけど」

残念そうな菅原はとりあえず放っておくことにした澤村は、ちょうど体育館に入ってきた清水に声をかける。

「マネ志望の1年が見学に来てるぞ」

「!」

瞳をぱちりと瞬かせ、素早く周りを見渡した清水は、日向と影山の後ろに隠れるようにして小さくなっている谷地を見付けた。澤村の声に反応して慌ててこちらに寄ってきた小柄な少女に向かって、清水は笑いかける。

「こんにちは。バレーに興味があるの?」

「あ、はいっ、えっと、ちょ、ちょっとボール触ったことがあるだけなんですけど…」

「大丈夫、段々に覚えていけばいいから」

「は、はい!」

落ち着いているように見えて、実は声が弾んでいるのが澤村には分かった。嬉しそうに話しかけてくる上級生に、少しは安心したのか、谷地も小さく笑顔を見せる。

「女子が…2人…笑いあっている…」

「はいはいそんなガン見されたら怖がられるから」

「イダッ」

これまではなかった光景にデレデレしている田中が、縁下に頭をはたかれていた。それを横目で見ながら、澤村は体育館の入り口に顔を向ける。

「残りの1年もそろそろ来るころか」

「ゆっくり来るとしてもそろそろだろうな」

菅原が返事をしたタイミングで、入り口の下駄箱から物音がした。





(来た!)

入り口から入ってきた2人を見て、日向は思わず駆け寄りそうになるのをこらえた。

「お、来たな」

「どうも」

「こ、こんにちは」

そちらに歩いていく澤村に、入ってきた2人が頭を下げる。でかいな、と菅原が感心した。

「入部届を出した月島と山口、だな?」

「はい」

「あ、はい! 山口です」

相変わらず落ち着きはらった、というか冷めた顔で頭を下げた月島と、緊張した顔でわたわたとおじぎをした山口を見て、日向は我慢できずにそちらに向かう。一歩遅れて影山が、そして2人が歩き出したのを見た谷地が、月島達に近寄った。

「…?」

明らかにそわそわしている日向と影山を見て、月島が胡乱げな顔になる。

「なあなあ」

「えっ」

「…何」

明らかに警戒されているが、そんなことは気にしない日向は、にっと笑った。

「俺らも1年だからよろしく! 俺、日向」

「俺は影山。よろしく」

「や、谷地ですっ。よろしくお願いしまっしあす!」

「え、あ、よろしく! 山口です!」

主に谷地の勢いに引きずられたらしい山口が慌てて頭を下げる。

「…月島。よろしく」

若干困惑した顔になった月島も名乗った。なんだこいつら、と目が語っているのを見て、日向は吹き出しそうになる。

(なんだかんだ分かりやすいんだよなあ)

捻くれてはいるものの、その捻くれ方がまだ幼い。というか、そもそも月島は根が素直で、根本からねじ曲がること自体ができない性格だ。

それを知っているこちらからすると、月島の冷めた様子もなんとはなしに微笑ましい。

「これで全員揃ったな。始めるぞ」

1年達のやり取りを笑って見ていた澤村が、ぱんと手を打ち鳴らした。





山口は、その日、珍しい光景を見た。

「月島達は中学でどこのポジションだったんだ? 俺はミドルブロッカーやってた」

「は? その身長で?」

「そーだぞー。すごいだろ」

「…別に」

自慢の幼なじみの調子が崩されている。基本的に初対面の相手には愛想がいいはずの月島が、すでに地の口調が出ていた。それだけではない。

「2人とも、やっぱミドルブロッカーか?」

「背が高いから? 身長だけでミドルブロッカーっていうのは短絡的だと思うけど?」

「んー? 違うのか?」

「…違わない」

クールな、というか冷めた口調で対応されているのにも関わらず、日向と名乗った小柄なチームメイトはひるんだ様子も、腹を立てた様子もない。そんなわけで、突き放そうとしてはかわされる、ということを繰り返している月島はいつになく困っていた。

「ツッキーのこと、あんまり困らせるなよ」

思わずそう言うと、日向の視線が山口に向く。

「山口はポジションどこ?」

「え、あの、俺もミドルブロッカーだけど」

「やっぱそうか! がんばろうな!」

「え、あ、そうだね」

注意したはずがうっかり相手のペースに巻き込まれ、山口は瞳をさまよわせた。

「あ、こいつはセッターだぞ」

「そ、そうなんだ」

黙って休憩していた影山がこちらを向き、山口はびくりとする。少々話しかけづらい印象がある影山とは、まだきちんと話していない。

「………」

だが、目が合うと、影山は軽く目尻を緩めた。途端に印象が柔らかくなり、山口は思わずほっと息をつく。

「えっと、影山も、日向と同じ中学なんだ?」

「おう。お前らも、同じとこから来たんだろ?」

「ツッキーと俺は幼なじみなんだ! だから小学校から一緒!」

「うるさい山口」

話を振られてついつい声を上げたせいで月島に睨まれ、ごめんツッキー、と肩をすくめる。緊張が少し解けた気がした。
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