16
ゆっくりとアームが下がって行き、真下にあったぬいぐるみを引っかけた。だが、力の弱いアームはぬいぐるみの重みのせいであっさりと外れてしまう。
「あー…」
残念そうに息をつく影山を見て、国見は思わず顔が緩みかけ、慌てて取りつくろった。何しろ、彼が先ほどから狙っているのはクレーンゲームの景品である、可愛らしい猫のぬいぐるみだ。いかにも女性人気の高そうなそれを一生懸命取ろうとする彼の姿は、通りすがりの人々からも微笑ましそうに見られている。
(そろそろ助けるか)
試行錯誤してぬいぐるみを狙っている姿を眺めるのが楽しくて、ついつい助け舟を出さずにいたのだが、さすがに可哀想になってきた。
「ねえ」
自分の財布の中身を確認しながら悩んでいる影山の肩をちょいちょいと叩き、きょとんとした顔で振り返った相手に自分の財布を見せる。
「取ってあげようか」
「…? いや、悪いだろ」
不思議そうに断る影山だったが、国見としては、ここで是非自分の株を上げておきたい。何しろ、先ほどまでは積極的にあれをやろう、これをやろう、と影山を連れ回していた金田一がトイレに行ってしまった今がチャンスなのだから。
「いいから、見てなって」
「…わ、分かった」
ことさらこの手のゲームをやり込んでいるわけではないが、器用さにはそれなりに自信がある。さっさと投入口に小銭を入れてしまうと、影山はすまなげな顔をしたものの、おとなしく引き下がった。よほどこのぬいぐるみが欲しかったらしい。
そわそわとしながら影山が見守る中、国見はアームを動かし始めた。
「金田一!」
その場を離れていた金田一は、戻ってきた途端に影山の弾んだ声に出迎えられた。何かと思えば、いつの間にかその腕にはやたらと可愛らしいぬいぐるみが抱えられている。
「国見が取ってくれた!」
「よ、よかったな」
嬉しそうにひょこひょこと歩いてきた影山にぬいぐるみを見せられ、金田一はこくこくと頷いた。それでいいのか男子高校生、と突っ込みたくなるような喜びようだ。
「国見すげえんだな! 簡単に取れて驚いた」
「あいつ、器用だからな…」
奥にいた国見に視線を移すと、無表情ながらも満足そうにピースサインを向けられる。
「………」
途端、むくむくと対抗心が湧き上がった。ほかのゲームを見に行こうとした影山を呼び止め、クレーンゲームが集まったコーナーを指差す。
「ほかになんか欲しいもんないのか?」
「?」
「俺もなんか取ってやる」
不思議そうな顔をする影山に重ねてそう言うと、青みがかった瞳が丸くなった。
「は? いや、悪いし」
「国見がそれ取ったんだから俺も何か取ったほうが公平だろ」
主に好感度とかその辺が。
「お、おう…?」
「で、欲しいものは?」
「あ、えー、っと」
目的を隠して言ったせいで謎の理論になってしまったが勢いで押し切る。まだ首をかしげつつも、影山は景品を見て回り始めた。
「金田一…」
「…いいだろ」
呆れ返った声の国見から視線を逸らす。子供のような対抗心だという自覚があるせいで目が合わせられない。
「いいけど。お前、ああいうの得意だっけ」
「………。まあまあ?」
小さなマスコット程度なら多少回数を重ねれば取れる技術はあるはずだが、国見が取った物と同じぐらいの大きさの景品だとそれも危うい。あまり大きな物ではありませんように、とこっそり祈っていると、影山が戻ってきた。
「本当にいいのか?」
「おう」
頷いた金田一を、影山は遠慮がちに手招きをする。そばに近寄った2人の前で、彼は1つの景品を指差した。
「あれ」
指の先には、恐らく猫のぬいぐるみと同じシリーズと思われる犬のぬいぐるみが─をつまり、同じぐらいの大きさの景品がある。
「………」
「…やっぱ違うのにする」
「っいやいや、いい! それ欲しいんだろ! 取るから!」
表情を見て察したらしい影山が別の方向に行きかけたのを、金田一は慌てて引き止めた。
「大丈夫か?」
心配そうな顔をされたが、引き下がれなくなった金田一は頷いて財布を取り出す。
「任せとけ」
しばらく買い食いは我慢しようと思った。
【雪ん子OB】
ひなひな:あー
ひなひな:大丈夫かな…
こじこじ:それ5回目
いずいず:心配しすぎだって
こじこじ:やっぱ過保護な兄ちゃんみたいだな
ひなひな:えー
いずいず:まあ確かに放っておけないところあるけどさ
いずいず:あれ
いずいず:既読3人になった
かげかげ:【猫と犬のぬいぐるみの画像】
かげかげ:取ってもらった(⌒-⌒; )
いずいず:なんでその顔文字
いずいず:良かったじゃん
こじこじ:いやいや
こじこじ:こんなでかいぬいぐるみ取ったってことはけっこう金かかったんじゃね?
いずいず:あ
かげかげ:金田一の財布がすかすかになった(・ω・` ;)
ひなひな:ちなみにいくらぐらいかかった?
かげかげ:犬のほうは3000円ぐらい
ひなひな:おっふ
ひなひな:さすがに同情する
かげかげ:俺も金出そうとしたけど拒否された(´・ω・`)
ひなひな:自力で取りたかったんだろ
かげかげ:そういうもんか?
いずいず:というかなんでそんなことに
かげかげ:国見がネコのほう取ってくれて
かげかげ:金田一にそれ見せたら
かげかげ:ほかに欲しいもんないかって聞かれて
ひなひな:…うわー
いずいず:こわっ
こじこじ:対抗心煽って貢がせるとか魔性か!
かげかげ:???
こじこじ:あ、こいつ読めてない
ひなひな:俺も対抗心以外わかんない!
こじこじ:自慢げに言うなよ
いずいず:たいこうしんあおってみつがせるとかましょうか、ね
ひなひな:なるほど
かげかげ:別にあおってねえよ(# ゚Д゚)
かげかげ:見せただけだ
ひなひな:無自覚怖い
いずいず:ほんとに
かげかげ:…ネコうれしかったから見せただけだぞ
ひなひな:それを見て対抗心燃やしたんだろ
いずいず:煽ってるよ
かげかげ:(ー"ー )
こじこじ:ところでラインしてていいのか?
かげかげ:2人ともドリンクバー取りにいってる
かげかげ:あ
かげかげ:戻ってきた
かげかげ:またあとで
ひなひな:おー
いずいず:楽しんで
いずいず:既読付かなくなった
ひなひな:なんかさ
こじこじ:おう
ひなひな:別の意味でも心配になってきた
こじこじ:…おう
「あー…」
残念そうに息をつく影山を見て、国見は思わず顔が緩みかけ、慌てて取りつくろった。何しろ、彼が先ほどから狙っているのはクレーンゲームの景品である、可愛らしい猫のぬいぐるみだ。いかにも女性人気の高そうなそれを一生懸命取ろうとする彼の姿は、通りすがりの人々からも微笑ましそうに見られている。
(そろそろ助けるか)
試行錯誤してぬいぐるみを狙っている姿を眺めるのが楽しくて、ついつい助け舟を出さずにいたのだが、さすがに可哀想になってきた。
「ねえ」
自分の財布の中身を確認しながら悩んでいる影山の肩をちょいちょいと叩き、きょとんとした顔で振り返った相手に自分の財布を見せる。
「取ってあげようか」
「…? いや、悪いだろ」
不思議そうに断る影山だったが、国見としては、ここで是非自分の株を上げておきたい。何しろ、先ほどまでは積極的にあれをやろう、これをやろう、と影山を連れ回していた金田一がトイレに行ってしまった今がチャンスなのだから。
「いいから、見てなって」
「…わ、分かった」
ことさらこの手のゲームをやり込んでいるわけではないが、器用さにはそれなりに自信がある。さっさと投入口に小銭を入れてしまうと、影山はすまなげな顔をしたものの、おとなしく引き下がった。よほどこのぬいぐるみが欲しかったらしい。
そわそわとしながら影山が見守る中、国見はアームを動かし始めた。
「金田一!」
その場を離れていた金田一は、戻ってきた途端に影山の弾んだ声に出迎えられた。何かと思えば、いつの間にかその腕にはやたらと可愛らしいぬいぐるみが抱えられている。
「国見が取ってくれた!」
「よ、よかったな」
嬉しそうにひょこひょこと歩いてきた影山にぬいぐるみを見せられ、金田一はこくこくと頷いた。それでいいのか男子高校生、と突っ込みたくなるような喜びようだ。
「国見すげえんだな! 簡単に取れて驚いた」
「あいつ、器用だからな…」
奥にいた国見に視線を移すと、無表情ながらも満足そうにピースサインを向けられる。
「………」
途端、むくむくと対抗心が湧き上がった。ほかのゲームを見に行こうとした影山を呼び止め、クレーンゲームが集まったコーナーを指差す。
「ほかになんか欲しいもんないのか?」
「?」
「俺もなんか取ってやる」
不思議そうな顔をする影山に重ねてそう言うと、青みがかった瞳が丸くなった。
「は? いや、悪いし」
「国見がそれ取ったんだから俺も何か取ったほうが公平だろ」
主に好感度とかその辺が。
「お、おう…?」
「で、欲しいものは?」
「あ、えー、っと」
目的を隠して言ったせいで謎の理論になってしまったが勢いで押し切る。まだ首をかしげつつも、影山は景品を見て回り始めた。
「金田一…」
「…いいだろ」
呆れ返った声の国見から視線を逸らす。子供のような対抗心だという自覚があるせいで目が合わせられない。
「いいけど。お前、ああいうの得意だっけ」
「………。まあまあ?」
小さなマスコット程度なら多少回数を重ねれば取れる技術はあるはずだが、国見が取った物と同じぐらいの大きさの景品だとそれも危うい。あまり大きな物ではありませんように、とこっそり祈っていると、影山が戻ってきた。
「本当にいいのか?」
「おう」
頷いた金田一を、影山は遠慮がちに手招きをする。そばに近寄った2人の前で、彼は1つの景品を指差した。
「あれ」
指の先には、恐らく猫のぬいぐるみと同じシリーズと思われる犬のぬいぐるみが─をつまり、同じぐらいの大きさの景品がある。
「………」
「…やっぱ違うのにする」
「っいやいや、いい! それ欲しいんだろ! 取るから!」
表情を見て察したらしい影山が別の方向に行きかけたのを、金田一は慌てて引き止めた。
「大丈夫か?」
心配そうな顔をされたが、引き下がれなくなった金田一は頷いて財布を取り出す。
「任せとけ」
しばらく買い食いは我慢しようと思った。
【雪ん子OB】
ひなひな:あー
ひなひな:大丈夫かな…
こじこじ:それ5回目
いずいず:心配しすぎだって
こじこじ:やっぱ過保護な兄ちゃんみたいだな
ひなひな:えー
いずいず:まあ確かに放っておけないところあるけどさ
いずいず:あれ
いずいず:既読3人になった
かげかげ:【猫と犬のぬいぐるみの画像】
かげかげ:取ってもらった(⌒-⌒; )
いずいず:なんでその顔文字
いずいず:良かったじゃん
こじこじ:いやいや
こじこじ:こんなでかいぬいぐるみ取ったってことはけっこう金かかったんじゃね?
いずいず:あ
かげかげ:金田一の財布がすかすかになった(・ω・` ;)
ひなひな:ちなみにいくらぐらいかかった?
かげかげ:犬のほうは3000円ぐらい
ひなひな:おっふ
ひなひな:さすがに同情する
かげかげ:俺も金出そうとしたけど拒否された(´・ω・`)
ひなひな:自力で取りたかったんだろ
かげかげ:そういうもんか?
いずいず:というかなんでそんなことに
かげかげ:国見がネコのほう取ってくれて
かげかげ:金田一にそれ見せたら
かげかげ:ほかに欲しいもんないかって聞かれて
ひなひな:…うわー
いずいず:こわっ
こじこじ:対抗心煽って貢がせるとか魔性か!
かげかげ:???
こじこじ:あ、こいつ読めてない
ひなひな:俺も対抗心以外わかんない!
こじこじ:自慢げに言うなよ
いずいず:たいこうしんあおってみつがせるとかましょうか、ね
ひなひな:なるほど
かげかげ:別にあおってねえよ(# ゚Д゚)
かげかげ:見せただけだ
ひなひな:無自覚怖い
いずいず:ほんとに
かげかげ:…ネコうれしかったから見せただけだぞ
ひなひな:それを見て対抗心燃やしたんだろ
いずいず:煽ってるよ
かげかげ:(ー"ー )
こじこじ:ところでラインしてていいのか?
かげかげ:2人ともドリンクバー取りにいってる
かげかげ:あ
かげかげ:戻ってきた
かげかげ:またあとで
ひなひな:おー
いずいず:楽しんで
いずいず:既読付かなくなった
ひなひな:なんかさ
こじこじ:おう
ひなひな:別の意味でも心配になってきた
こじこじ:…おう