彼女は唖然としていた。傍らでは、幼い娘もぽかんと口を開けている。

それもそのはずで、買い物から帰ってきたら、中学生の息子が料理をしていた。しかも、寸胴鍋とフライパンを同時に火に掛けるという、簡単なようで初心者にはなかなか難しい作業をしている。

「しょ、翔陽?」

「んー?」

計量カップでフライパンに水を注ぎつつ、日向は返事をした。

「それ、お昼?」

「うん」

「あんた、料理なんてできたっけ…?」

「え? あ、う、うん、まあ」

(やっべ、料理始めたの上京してからだったー!)

ひっそりと冷や汗をかきつつコンソメを混ぜている日向だったが、母のほうはそれ以上突っ込むつもりはないらしい。さっさと買った物を片付けている。その代わりに夏が寄ってきた。

「なに作ってんのー?」

「パスタ」

「ふうん」

そのままとっくりと眺めている夏。居心地の悪さを感じながら砂糖を混ぜていると、母のほうもまた寄ってきた。

「まず砂糖を混ぜるとか、あんた本当にどこからそんな知識持ってきたの?」

「えーと、塩の前に砂糖って、わりと常識? だと思う、よ?」

「まあねぇ」

夏と共にとっくりと眺められ、フライパンに向いていて良かった、と思いつつ日向は片栗粉を入れた。

(今顔見られたら絶対おかしいのバレるううううう)

すでにバレバレだとは思いたくない日向である。

内心は転げ回りつつもなんとか茹でたパスタをソースに絡め、昼食が完成した。

「できたよ」

「おー!」

「おー!」

「ヤメテクダサイ」

結局最後まで見守っていた母と妹に拍手され、日向は思わず赤くなった。





「ってことがあったんだけどさ」

「…熱計られるよりましだろ」

「!?」

ご近所の気安さでひょっこりとやって来た影山が、妙に疲れた顔をしていたのは、そういう理由があったらしい。

「暑いから冷やし中華にしたら、目玉焼きすら作れなかったくせにって叫ばれた」

「え、中2で目玉焼き作れなかったのかよ」

「うっせ」

容赦なく突っ込んだ日向に、影山は思い切りむくれた。

「崩さないようにできなかっただけだ」

「あー、まあ、案外難しいよなー」

「…フォローするつもりがあんなら、にやけるのやめろ」


逆行してもなんだかんだで通常運転です。


「せっかくだから料理のレパートリーも増やす」

「おー」
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