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話題になった影山のほうは、その頃、日向と近所の公園に来ていた。来た理由は、もちろんバレーのためである。
「戻ってきてからまともにボール触ってねぇ」
「俺も俺も」
それどころではなかったのだから当たり前だが、バレー馬鹿達にとっては一大事である。
そんなわけで、逆行してから3日目の午後、2人はボールを持って出掛けた。
公園についた影山は、入念な準備運動をしてから、鞄からボールを取り出す。
この体でのサーブはどのくらいの威力なのか。レシーブの出来は、トスの出来は。
確認したいことは山のようにある。だが、何よりも先に確かめたかったことは、彼らの最大の武器である変人速攻だった。
「──持ってこい!」
影山の出したボールを、“前回”の中学時代とは比べ物にならないくらいしっかりとレシーブした日向は、勢いよく飛び出す。
その体躯からは予想ができないほど力強く地を蹴った彼に合わせて影山はトスを上げ──、
ゴッ!
「ぶぎゃっ」
「あ」
失敗した。
うっかりボールをヘディングする羽目になった日向は、涙目で額を押さえている。
「悪い、低すぎた」
慌てて日向の額をよしよしと撫でると、撫でられたほうは元気よく笑った。
「だいじょーぶ! もう1回!」
「おう」
釣られた影山もにこりと笑う。余談だが、笑顔が苦手ではなくなって久しい影山のほわんとした柔らかい笑顔と、もともとよく笑う日向の太陽のような明るい笑顔の組み合わせは抜群の破壊力があるため、高校時代からたびたび被害者を出している。この時も、たまたまこの光景を目撃した女子高生達が、可愛いだの持ち帰りたいだのと悶えていた。
周りの反応に気付いていない2人は、今度こそ速攻を決めるべく動き出していた。影山が放ったボールを綺麗に返した日向は、再び地面を蹴る。
明るい光を浴びながら、まるで翼が生えたように宙に舞い上がる日向の姿は、公園にいた人々が思わず視線を向けるほどの迫力と──息を呑むほどの美しさがあった。
全身をしなやかに反らして手を振り下ろそうとする相棒の現在の最高打点、先程見付けたそこでボールが“止まる”ように、影山はトスを上げる。
そして日向の手は、今度こそ、ボールの芯を捉えた。
ドッ!
記憶よりも弱いものの、十分に鋭い音を立て、ボールが地面に叩き付けられる。
(ああ、やっぱり)
ころりと転がるボールを見ながら、影山はふいに思った。
(ここは、──現実だ)
頭では分かっていても、ずっと夢の中で過ごしている気がしていた。今、ようやく、自分がいるのは現実なのだと影山は実感した。
日向も同じように感じたのか、自分の手を見つめている。
「日向」
「!」
くるりと振り返った日向は、嬉しそうに笑うと両手を伸ばしてくる。ハイタッチの合図だと気付いた影山も、両手を掲げた。
「戻ってきてからまともにボール触ってねぇ」
「俺も俺も」
それどころではなかったのだから当たり前だが、バレー馬鹿達にとっては一大事である。
そんなわけで、逆行してから3日目の午後、2人はボールを持って出掛けた。
公園についた影山は、入念な準備運動をしてから、鞄からボールを取り出す。
この体でのサーブはどのくらいの威力なのか。レシーブの出来は、トスの出来は。
確認したいことは山のようにある。だが、何よりも先に確かめたかったことは、彼らの最大の武器である変人速攻だった。
「──持ってこい!」
影山の出したボールを、“前回”の中学時代とは比べ物にならないくらいしっかりとレシーブした日向は、勢いよく飛び出す。
その体躯からは予想ができないほど力強く地を蹴った彼に合わせて影山はトスを上げ──、
ゴッ!
「ぶぎゃっ」
「あ」
失敗した。
うっかりボールをヘディングする羽目になった日向は、涙目で額を押さえている。
「悪い、低すぎた」
慌てて日向の額をよしよしと撫でると、撫でられたほうは元気よく笑った。
「だいじょーぶ! もう1回!」
「おう」
釣られた影山もにこりと笑う。余談だが、笑顔が苦手ではなくなって久しい影山のほわんとした柔らかい笑顔と、もともとよく笑う日向の太陽のような明るい笑顔の組み合わせは抜群の破壊力があるため、高校時代からたびたび被害者を出している。この時も、たまたまこの光景を目撃した女子高生達が、可愛いだの持ち帰りたいだのと悶えていた。
周りの反応に気付いていない2人は、今度こそ速攻を決めるべく動き出していた。影山が放ったボールを綺麗に返した日向は、再び地面を蹴る。
明るい光を浴びながら、まるで翼が生えたように宙に舞い上がる日向の姿は、公園にいた人々が思わず視線を向けるほどの迫力と──息を呑むほどの美しさがあった。
全身をしなやかに反らして手を振り下ろそうとする相棒の現在の最高打点、先程見付けたそこでボールが“止まる”ように、影山はトスを上げる。
そして日向の手は、今度こそ、ボールの芯を捉えた。
ドッ!
記憶よりも弱いものの、十分に鋭い音を立て、ボールが地面に叩き付けられる。
(ああ、やっぱり)
ころりと転がるボールを見ながら、影山はふいに思った。
(ここは、──現実だ)
頭では分かっていても、ずっと夢の中で過ごしている気がしていた。今、ようやく、自分がいるのは現実なのだと影山は実感した。
日向も同じように感じたのか、自分の手を見つめている。
「日向」
「!」
くるりと振り返った日向は、嬉しそうに笑うと両手を伸ばしてくる。ハイタッチの合図だと気付いた影山も、両手を掲げた。