「飛雄ちゃんは?」

北川第一の体育館。男子バレーボール部が活動しているそこに顔を出した及川の、第一声がそれだった。

挨拶をするより先に、そこに考えが行ってしまう辺り、なんだかんだで分かりやすい態度である。

「聞いてないんですか?」

「え?」

「何をだ?」

部員達が驚いた顔になるのを、及川と、お目付け役で付いてきた岩泉は訝しげに眺めた。

「及川さん達には言ってそうだと思ったのにな」

「連絡先知らなかったんじゃね? 携帯持ってなかったし」

「ちょっとちょっと。あいつ何かあったの?」

何故かざわめき始めた後輩達に、及川は慌てて訊ねる。

「転校しました」

「…は?」

質問に答えたのは、興味無さげに2人の先輩を眺めていた国見だった。

「…てん、こ、う?」

「…マジで?」

「家の事情で引っ越すとかで。県内らしいですけど」

混乱した表情の及川達に向かって無表情で告げた国見は、よく見ると不機嫌そうなオーラを纏っている。

いや、不機嫌と言うよりも、どこか傷付いたような表情だった。まるで、裏切られたとでも言うような顔だと、たまたま側で見ていた1年生は思う。

入部してから数ヶ月も経たないうちに、2年の影山が孤立してしまっているのには気付いた。それが必ずしも彼のせいだけではないことも、孤立しているのと同時に数人から複雑な感情を向けられていたことも。

影山が周囲に向けられている感情が何だったのかを理解するには、彼はまだ幼かった。だが、国見の言葉を聞いて絶句している2人を見れば、あのOB達も同じ感情を持っていることは分かる。

どうしてこうなったのだろう、と彼は小さく溜め息を漏らした。
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