番外2―1
【日向・東峰ライン】
ひなひな:旭さん!
旭:日向
旭:どうかしたのかな
ひなひな:烏野合格してました!
ひなひな:影山もしてました!
旭:おめでとう!
ひなひな:あざっす!
ひなひな:バレー部入って一緒にバレーするの楽しみです!
旭:…そうだね
ひなひな:4月からよろしくお願いします!
旭:ええと、よろしく
【影山・東峰ライン】
かげかげ:烏野受かりました!
かげかげ:絶対バレー部入るんで
かげかげ:4月からよろしくお願いします!
旭:おめでとう、日向から聞いたよ
かげかげ:あざっす!
かげかげ:4月楽しみっす( ´ω`)ノ
旭:うん
かげかげ:旭さんとバレーするのも楽しみっす☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
旭:ええと
旭:俺も、楽しみだよ
(どうすれば、いいんだろう)
東峰の携帯には、4月から烏野に、そしてバレーボール部に入るはずの2人の下級生のラインが表示されている。日向も影山も、ずいぶんと懐いてくれていて、どちらのラインにも“一緒にバレーをするのが楽しみ”という内容が書かれていた。
だが、
(俺は、バレー部に、いないのに)
一緒にバレーをしたい、と言われている自分は──バレー部から逃げた。
「…はあ」
罪悪感を刺激されるライン画面を閉じて、東峰は机に突っ伏した。あの伊達工業との試合の記憶は、何をしていても常に頭の片隅に居座っている。
「言わないと。一緒にはバレーできないって」
自分に言い聞かせるように呟き、もう一度ラインの画面を開く。が、
「…っ」
烏野の練習に混じっていた時の2人の笑顔が頭に浮かぶ。慕われていると自覚しているのに、嫌われるかもしれないようなことを白状するというのは、
「言わない、と」
──とても、辛かった。
【影山・東峰ライン】
かげかげ:旭さん
旭:何かあった?
かげかげ:たぶんなんすけど
かげかげ:マネになってくれるかもしれない人がいるんです( ´ ω ` )
旭:マネ?
旭:あ、もしかして、影山の友達とか?
かげかげ:はい
かげかげ:日向とも仲良くて
かげかげ:ちょっと怖がりだけどいい人っす( ´ ω ` )
旭:あはは、怖がりか
旭:俺と一緒だなあ
かげかげ:そんなことないっす!
かげかげ:旭さんコートではすげえかっけえです(`_´)
旭:ありがとう
旭:でも
旭:俺は臆病だよ、すごく
かげかげ:そうっすか(・ω・`*)?
かげかげ:でも
かげかげ:俺に取ってはすごい先輩です
旭:あ理が等
旭:ごめん誤字
旭:ありがとう
【日向・東峰ライン】
ひなひな:旭さーん!
ひなひな:今日一緒に遊んだ子が
ひなひな:マネやってくれるかもしれなくて!
旭:影山に聞いたよ
旭:いい子だって
ひなひな:はい!
ひなひな:あ、まだ見学してみるって言ってるだけなんです
ひなひな:でも、楽しそうだねって言ってて
旭:マネ志望の子が来てくれるだけでも清水は喜ぶと思うよ
旭:いつもマネの仕事1人でやってくれてるから
ひなひな:ちょっと怖がりなんですけど
ひなひな:旭さん達なら大丈夫だと思います( ´ ▽ ` )
旭:そうだね
旭:大地やスガとも仲良くなれるといいね
ひなひな:はい!
ひなひな:旭さんとも仲良くなってほしいです
ひなひな:旭さん優しいから、その子もあんまり怖がらないと思うんです
旭:あはは
旭:そうだといいなあ
ひなひな:はい!
「あー…」
顔が熱い。ここまで真っ直ぐに慕われることなどなかなかない。それも、技術面だけ見れば自分よりもすごい選手と言ってもいいような相手に。
どこでそこまで懐かれたのか分からないが、こんなに敬愛されて嬉しくないわけがない。だが、
「また、言えなかった」
すぐに、東峰は顔を曇らせ溜め息をつく。
部活に行っていないと言わなくては、と最初に思ってから、もう数日が過ぎていた。早く言わなくては、と思ってはいる。言わないまま時間が経てば、どんどん言いづらくなっていくのは間違いない。それに、言うのが遅くなればなるほど、2人を傷付けてしまうのではないかと思ってしまう。
だから、本当は今すぐにでも言うべきだ。それなのに、
(もう少ししたら、言おう)
今の状態を崩したくないと、どうしても思ってしまう。春休みが終わらなければいいのに、とつい考えてしまい、東峰は頭を振ってその気持ちを追い払おうとした。
(どうしたら)
ぐるぐると頭を悩ませながら携帯を見ている間に、ふと目に入った名前を見て、東峰は唇を引き結んだ。
「…だめだ」
(もう戻る気はないんだから、言わないと)
そう自分に言い聞かせながら、東峰はラインを──バレー部の部員達の名前が表示された画面を閉じた。
【日向・影山ライン】
かげかげ:なあ
ひなひな:んー?
かげかげ:旭さんのこと
かげかげ:どうする
ひなひな:…今のところ俺らにできることなんて
ひなひな:ラインで一緒にバレーしたいって言うぐらいじゃん
かげかげ:でも
かげかげ:旭さんが苦しんでるって知ってんのに
かげかげ:なんも知らねえふりしてバレーしたいって言ってるの
かげかげ:おかしくねえか?
ひなひな:
ひなひな:おかしいと、思う
ひなひな:本当なら
ひなひな:でも俺達がそのことを知ってる理由は誰にも言えねーじゃん
かげかげ:…(´・ω・`)
ひなひな:それに
ひなひな:スガさんにも旭さんにもそのことは言われてない
ひなひな:言いたくないってことなんじゃないかって俺は思ってる
かげかげ:…確かに
かげかげ:なあ
かげかげ:俺は
かげかげ:知ってるってことをたんにごまかしてんじゃなくて
かげかげ:本当に旭さんとバレーしてえ
ひなひな:俺もしたい!
かげかげ:早く一緒にバレーできるといいな
ひなひな:な!
「早く、帰ってきてくれると、いいな」
布団に突っ伏し、日向はぽつりと呟いた。
“前回”では、東峰はインターハイの前に復帰してくれた。今回も、きっと復帰してくれるはずだ。
(俺達のしてることは、余計なことかもしれない)
本当は、こんなことをしなくても、復帰してくれるぐらい、東峰は芯が強いのだと思う。もしかしたら、こうやってバレーがしたいと言い続けることは、逆にプレッシャーになってしまうかも知れないと考えたことも何度もある。
けれど、それでも、東峰と早くバレーがしたかった。彼に早く帰ってきてほしかった。
ブランクが短くなり、インハイまでの練習が増えるかも知れない、チームをもっと強くできるかも知れないと思っているのもちろんある。だが、
「一緒にバレーしてーなあ」
東峰がいる烏野が好きだからというのが、一番大きな理由だった。
「なあ、母さん」
「どうしたの、飛雄」
ラインの画面を閉じた後、影山は夕食を作っている母の元に行った。
かちゃかちゃと音を立てて料理をしている母に向かって、ぽつりと言う。
「もし、母さんが」
「うん」
「すげえ好きなことをやめそうになって、それで何も知らない奴に一緒にやりたいって言われたら、どう思う?」
「…そうねえ。何も知らないなら、その人を責めたくはないかな」
「でも、その何も知らねえはずの奴は、本当は事情を知ってて、それを隠してるんだ」
「なんで隠してるの?」
「本当は、知ってたらおかしいから」
「そう…。でも、その“事情を知らないはずの奴”が事情を知ってることを私は知らないわけでしょ? だったら、責めないと思うけど」
「でも、本当は事情を知ってるのに言わないで一緒にやりたいって言うの、おかしい気がする」
「そうかも知れないけど、それは、言えないことなんでしょう」
「…言えない」
「なら、“事情を知らないはずの奴”が本当は知ってるってことを言わないままでもできることをするしかないんじゃないの?」
「うん」
頷いた息子に向かって、彼女は微笑んだ。
「飛雄。あなたはどうしたいの?」
「え」
「私じゃなくて、あなたはどうしたいの?」
「俺は」
「あなたは、その人のことが大切?」
目を瞬かせた影山は手を握りしめる。
「その人がいないと、だめだ」
「だったら、その人とバレーがしたいっていうのは、あなたの本当の気持ちなんだから、ちゃんと、それを伝えることが一番大切なんじゃない?」
「…俺、バレーって言ってねえけど」
「言われなくたってバレーのことだって分かるよ、あなたのこと見ていれば」
「ん」
心が軽くなった影山は笑った。
──少しだけ、目頭がツンとしたのは、母には秘密にした。
ひなひな:旭さん!
旭:日向
旭:どうかしたのかな
ひなひな:烏野合格してました!
ひなひな:影山もしてました!
旭:おめでとう!
ひなひな:あざっす!
ひなひな:バレー部入って一緒にバレーするの楽しみです!
旭:…そうだね
ひなひな:4月からよろしくお願いします!
旭:ええと、よろしく
【影山・東峰ライン】
かげかげ:烏野受かりました!
かげかげ:絶対バレー部入るんで
かげかげ:4月からよろしくお願いします!
旭:おめでとう、日向から聞いたよ
かげかげ:あざっす!
かげかげ:4月楽しみっす( ´ω`)ノ
旭:うん
かげかげ:旭さんとバレーするのも楽しみっす☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
旭:ええと
旭:俺も、楽しみだよ
(どうすれば、いいんだろう)
東峰の携帯には、4月から烏野に、そしてバレーボール部に入るはずの2人の下級生のラインが表示されている。日向も影山も、ずいぶんと懐いてくれていて、どちらのラインにも“一緒にバレーをするのが楽しみ”という内容が書かれていた。
だが、
(俺は、バレー部に、いないのに)
一緒にバレーをしたい、と言われている自分は──バレー部から逃げた。
「…はあ」
罪悪感を刺激されるライン画面を閉じて、東峰は机に突っ伏した。あの伊達工業との試合の記憶は、何をしていても常に頭の片隅に居座っている。
「言わないと。一緒にはバレーできないって」
自分に言い聞かせるように呟き、もう一度ラインの画面を開く。が、
「…っ」
烏野の練習に混じっていた時の2人の笑顔が頭に浮かぶ。慕われていると自覚しているのに、嫌われるかもしれないようなことを白状するというのは、
「言わない、と」
──とても、辛かった。
【影山・東峰ライン】
かげかげ:旭さん
旭:何かあった?
かげかげ:たぶんなんすけど
かげかげ:マネになってくれるかもしれない人がいるんです( ´ ω ` )
旭:マネ?
旭:あ、もしかして、影山の友達とか?
かげかげ:はい
かげかげ:日向とも仲良くて
かげかげ:ちょっと怖がりだけどいい人っす( ´ ω ` )
旭:あはは、怖がりか
旭:俺と一緒だなあ
かげかげ:そんなことないっす!
かげかげ:旭さんコートではすげえかっけえです(`_´)
旭:ありがとう
旭:でも
旭:俺は臆病だよ、すごく
かげかげ:そうっすか(・ω・`*)?
かげかげ:でも
かげかげ:俺に取ってはすごい先輩です
旭:あ理が等
旭:ごめん誤字
旭:ありがとう
【日向・東峰ライン】
ひなひな:旭さーん!
ひなひな:今日一緒に遊んだ子が
ひなひな:マネやってくれるかもしれなくて!
旭:影山に聞いたよ
旭:いい子だって
ひなひな:はい!
ひなひな:あ、まだ見学してみるって言ってるだけなんです
ひなひな:でも、楽しそうだねって言ってて
旭:マネ志望の子が来てくれるだけでも清水は喜ぶと思うよ
旭:いつもマネの仕事1人でやってくれてるから
ひなひな:ちょっと怖がりなんですけど
ひなひな:旭さん達なら大丈夫だと思います( ´ ▽ ` )
旭:そうだね
旭:大地やスガとも仲良くなれるといいね
ひなひな:はい!
ひなひな:旭さんとも仲良くなってほしいです
ひなひな:旭さん優しいから、その子もあんまり怖がらないと思うんです
旭:あはは
旭:そうだといいなあ
ひなひな:はい!
「あー…」
顔が熱い。ここまで真っ直ぐに慕われることなどなかなかない。それも、技術面だけ見れば自分よりもすごい選手と言ってもいいような相手に。
どこでそこまで懐かれたのか分からないが、こんなに敬愛されて嬉しくないわけがない。だが、
「また、言えなかった」
すぐに、東峰は顔を曇らせ溜め息をつく。
部活に行っていないと言わなくては、と最初に思ってから、もう数日が過ぎていた。早く言わなくては、と思ってはいる。言わないまま時間が経てば、どんどん言いづらくなっていくのは間違いない。それに、言うのが遅くなればなるほど、2人を傷付けてしまうのではないかと思ってしまう。
だから、本当は今すぐにでも言うべきだ。それなのに、
(もう少ししたら、言おう)
今の状態を崩したくないと、どうしても思ってしまう。春休みが終わらなければいいのに、とつい考えてしまい、東峰は頭を振ってその気持ちを追い払おうとした。
(どうしたら)
ぐるぐると頭を悩ませながら携帯を見ている間に、ふと目に入った名前を見て、東峰は唇を引き結んだ。
「…だめだ」
(もう戻る気はないんだから、言わないと)
そう自分に言い聞かせながら、東峰はラインを──バレー部の部員達の名前が表示された画面を閉じた。
【日向・影山ライン】
かげかげ:なあ
ひなひな:んー?
かげかげ:旭さんのこと
かげかげ:どうする
ひなひな:…今のところ俺らにできることなんて
ひなひな:ラインで一緒にバレーしたいって言うぐらいじゃん
かげかげ:でも
かげかげ:旭さんが苦しんでるって知ってんのに
かげかげ:なんも知らねえふりしてバレーしたいって言ってるの
かげかげ:おかしくねえか?
ひなひな:
ひなひな:おかしいと、思う
ひなひな:本当なら
ひなひな:でも俺達がそのことを知ってる理由は誰にも言えねーじゃん
かげかげ:…(´・ω・`)
ひなひな:それに
ひなひな:スガさんにも旭さんにもそのことは言われてない
ひなひな:言いたくないってことなんじゃないかって俺は思ってる
かげかげ:…確かに
かげかげ:なあ
かげかげ:俺は
かげかげ:知ってるってことをたんにごまかしてんじゃなくて
かげかげ:本当に旭さんとバレーしてえ
ひなひな:俺もしたい!
かげかげ:早く一緒にバレーできるといいな
ひなひな:な!
「早く、帰ってきてくれると、いいな」
布団に突っ伏し、日向はぽつりと呟いた。
“前回”では、東峰はインターハイの前に復帰してくれた。今回も、きっと復帰してくれるはずだ。
(俺達のしてることは、余計なことかもしれない)
本当は、こんなことをしなくても、復帰してくれるぐらい、東峰は芯が強いのだと思う。もしかしたら、こうやってバレーがしたいと言い続けることは、逆にプレッシャーになってしまうかも知れないと考えたことも何度もある。
けれど、それでも、東峰と早くバレーがしたかった。彼に早く帰ってきてほしかった。
ブランクが短くなり、インハイまでの練習が増えるかも知れない、チームをもっと強くできるかも知れないと思っているのもちろんある。だが、
「一緒にバレーしてーなあ」
東峰がいる烏野が好きだからというのが、一番大きな理由だった。
「なあ、母さん」
「どうしたの、飛雄」
ラインの画面を閉じた後、影山は夕食を作っている母の元に行った。
かちゃかちゃと音を立てて料理をしている母に向かって、ぽつりと言う。
「もし、母さんが」
「うん」
「すげえ好きなことをやめそうになって、それで何も知らない奴に一緒にやりたいって言われたら、どう思う?」
「…そうねえ。何も知らないなら、その人を責めたくはないかな」
「でも、その何も知らねえはずの奴は、本当は事情を知ってて、それを隠してるんだ」
「なんで隠してるの?」
「本当は、知ってたらおかしいから」
「そう…。でも、その“事情を知らないはずの奴”が事情を知ってることを私は知らないわけでしょ? だったら、責めないと思うけど」
「でも、本当は事情を知ってるのに言わないで一緒にやりたいって言うの、おかしい気がする」
「そうかも知れないけど、それは、言えないことなんでしょう」
「…言えない」
「なら、“事情を知らないはずの奴”が本当は知ってるってことを言わないままでもできることをするしかないんじゃないの?」
「うん」
頷いた息子に向かって、彼女は微笑んだ。
「飛雄。あなたはどうしたいの?」
「え」
「私じゃなくて、あなたはどうしたいの?」
「俺は」
「あなたは、その人のことが大切?」
目を瞬かせた影山は手を握りしめる。
「その人がいないと、だめだ」
「だったら、その人とバレーがしたいっていうのは、あなたの本当の気持ちなんだから、ちゃんと、それを伝えることが一番大切なんじゃない?」
「…俺、バレーって言ってねえけど」
「言われなくたってバレーのことだって分かるよ、あなたのこと見ていれば」
「ん」
心が軽くなった影山は笑った。
──少しだけ、目頭がツンとしたのは、母には秘密にした。