受験が終わってから数日後。雪ヶ丘中学はその日、卒業式だった。

「せんぱあああああああああい」

式が終わり、友人達と写真を撮っていた日向と影山は、涙でぐしゃぐしゃになった顔の後輩達に突撃された。うわあああああん、と小さな子供のように泣く厚木が一番目立っていたが、鈴木も森も泣きじゃくっており、川島は静かにぼろぼろと涙を流し続けている。

「あっはは、目え真っ赤」

うりうり、と森の頭を撫でると、そのまましがみつかれた。

「ひな、た、せんぱい、そつぎょ、するの、いやです…!」

「うんうん、俺も寂しい」

ひくひくとしゃくりあげながら訴える森の隣では、鈴木がぐずぐずと鼻を鳴らしている。そちらの頭も撫でながら、日向は影山に視線を向けた。

「うえええええええ」

「………」

「ひ、っく、」

影山のほうは、中総体の後と同じく厚木に貼り付かれていた。川島のほうは貼り付いてこそいなかったが、迷子の子供のように途方にくれた顔で涙をこぼしている。

「すっごいことになってんなあ」

そばにいたクラスメイトに笑われ、日向もへらりと笑った。

「お前もさっき泣かれてたじゃん」

「ここまですごいことにはなってない」

けらけらと笑っているクラスメイトをしっしっと追い払うと、今度は別の方向から声が掛かる。

「おーい、翔ちゃーん! 影山ー!」

「一緒にご飯食べに行こうって母さん達が言ってる!」

視線を向けると、泉と関向がそれぞれの母親と共に歩いてきた。いつの間にかそちらで仲良くなっていた日向と影山の母達も一緒にいる。

「にいちゃーん、とびおー、おなか空いたー」

夏がぶんぶんと手を振ってくるのに振り返し、2人は1年達に視線を向けた。

「ほら、お前らもう戻らねえと」

「一回教室戻んねーとだめなんだろ?」

まだ卒業生と話している…というかすがりついている在校生はぽつぽつといるものの、大半は教室に戻り始めている。

「ううう」

「会えなくなるわけじゃないし、また遊びに来るから」

「は、い…っ」

ようやく離れた4人は、なぜか日向と影山に向き合う形で横一列に並んだ。

そして──現部長である川島が、勢いよく頭を下げる。

「1年間ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」

残りの3人も威勢良く頭を下げる。

「「…!」」

川島は目が真っ赤なまま、森も鈴木も涙がときおりこぼれ落ちており、厚木にいたってはいまだにしゃくりあげている。

それでも、珍しく目を丸くして固まっている先輩2人を見て、4人はいたずらが成功したように笑った。





「成長したね」

校舎に戻っていった1年達を見送った後、泉が感心したように言う。

「「………」」

「にいちゃん? とびお?」

返事もせずに黙っている日向と影山を見て、夏がきょとんとし、関向はニヤニヤする。

「もういなくなったから泣いても大丈夫だぞ」

「「…うるっさい!」」

こうして2人は、逆行してからの1年半を過ごした雪ヶ丘中学校を巣立った。
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