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「翔ちゃあああああああん!」

「影山ああああああああ!」

涙混じりの声で名前を呼ばれ、日向と影山は振り向いた。

どうやら、会場の外に出ていた日向達を探しに来たらしく、泉と関向がドタドタと走ってきた。ぐちゃぐちゃな顔で迫ってくる友人達を見て思わず苦笑する。

「すっげー顔」

「鼻水垂れてるぞ」

「うっさい」

言い返して鼻をすする関向の隣で、こちらも顔がぐちゃぐちゃになっている泉が、2人の背中をバシバシと叩いた。

「みん、な、すごかった、な」

「おう!」

「うちはちゃんと強いからな」

「そう、だよ、なあ」

「強かっ、た、もんな」

そう言って胸を張ると泣きながらも同意してくれる泉と関向に、日向達は顔を綻ばせる。

まだまだ力不足ではあったものの、このチームは戦うことができると実感できた。それがとても嬉しい。

(…でも)

急に鼻の奥がツンとして、日向は小さく息を吐いた。

このチームは戦うすべを持っている。1年達は急激に成長し、立派な戦力となっている。これから、もっと強くなるのは間違いない。けれど、

(もう、一緒に戦えない)

3年達は、ここで引退だ。これから雪ヶ丘バレーボール部は1年達が回していく。それは負けた以上当たり前のことではあるが、

「もっと、一緒のチームでいたかったな」

同じことを考えていたらしい影山がぽつりと呟いた。呟いた途端、影山は後ろにいた厚木に引っ付かれる。

「俺もっ、もっと一緒に、バ、レー、した、かったで、すっ」

「…おう」

引っ付いたまま泣きじゃくる後輩に言葉少なに応えながら、影山は口をへの字に曲げた。一見不機嫌そうな顔をしているが、どうやら泣きそうになっているらしい。しきりにまばたきを繰り返している。

「うううう」

影山の顔を見た途端、少し涙が治まりかけていた鈴木が再び顔をくしゃくしゃにした。

「俺も寂しいなー」

軽い口調で言いながら、日向もこっそり鼻をすする。その時、

「日向あああああああああああ! 影山あああああああああああ!」

今度は菅原の声がした。泉達と同じように全力で迫ってきた菅原は周りの人々からぎょっとした顔で見られていたが、本人は気付いていないらしい。その後ろの烏野の面々は、他人のふりをしたそうな顔をしているが。

「がんばったなああああああああ!」

「うっわ!?」

「おま、何してるんだ!」

突進してきた菅原は、そのまま一番近くにいた影山に抱き着いた。あまりの勢いによろめいている影山と引っ付いたままだった厚木を、追いついた澤村が慌てて支える。ついでに引き剥がされた菅原は少しむっとした顔をしてみせてから、不意に真剣な顔になり、雪ヶ丘の面々に向き直った。

「影山、日向」

「「はい」」

反射的に返事をした2人に笑顔を見せてから、言葉を続ける。

「それから、川島くんと厚木くん」

「!? …はい!」

「は、はいっ」

「森くん、鈴木くん」

「えと、はい」

「はいっ」

自分の名前を知られているとは思っていなかった1年達がきょとんとした顔で返事をする。その顔を見て、4人の高校生は笑みをこぼし、──次々に口を開いた。

「しっかり戦えたな!」

「最初から最後まで、よく戦った…というと偉そうかもしれないが」

「でも本当に、いい試合だったよ」

「…がんばったね」

「…は、い」

優しい声を聞いていると、視界が滲み始め、日向は瞳を瞬かせる。途端に、頬を水滴が伝った。

「…がんばり、ました」

「うん」

誰に言うというわけでもなく声を漏らすと、ぽすんと大きな手が頭に乗る。それが東峰の手だと気付き、日向はくしゃくしゃと顔を歪めた。

「もっと、戦い、たかった」

「そうだね」

ゆっくりと頭を撫でられる。ひく、としゃくりあげる声が聞こえ、視界の隅で影山が目を擦っているのが見えた。

──年長者だという自覚があったから、日向は影山と共に1年達や友人達を宥める役に回っていた。けれど、悔しくなかったわけではなく、このチームでもう戦えないことが寂しくなかったわけでもなく。

本当は、泣きたかったのだと、気付いた。





ひとしきり泣いた後、少しすっきりした顔になった日向達はミーティングを終え、荷物を片付けていた。

「よし、じゃあ一応ここで解散」

「引き継ぎの話はどうする」

「それはまた明日だな」

引き継ぎという言葉を聞いた途端にしゅんとなった1年達に苦笑しつつ、影山はかばんを持つ。だが、

「影山」

「げ」

そこに声がかかった。

声の主──金田一を見た途端、日向が嫌そうな顔をする。金田一のほうは振り向いた影山と目が合った途端、落ち着かなげに瞳を逸らしかけたものの、

「あの、さ、ちょっと、いいか」

「おお?」

逸らすのを我慢したらしく、真っ直ぐに目を合わせた。

その隣にいる国見は、どうやら連れてこられたらしい。こちらは逃げられないように腕を掴まれた状態で視線を逸らしている。

どうにも挙動不審な元チームメイト達に、どう反応しようかと困っていると、背中をとんと軽く叩かれた。振り向くとまだ帰っていなかった菅原がにこりと笑う。

「もう解散なんだろ? 行ってくれば?」

「…あの、」

「ん?」

珍しく困った顔で言い淀む影山に、菅原は不思議そうに首をかしげた。

「その、なんか嫌われてる気がして、だからあんまり関わんないほうがいいのかなって思ってたんすけど」

少し離れた場所にいる2人には聞こえない程度の小さな声でそう告げた影山に、菅原は不思議そうな顔をする。

「そうは見えないけどな」

「…そうすか?」

自分が鈍いという自覚はうっすらある影山は、菅原がそう言うならそうかもしれない、と思い始めた。うんうんと頷いた菅原は、不安げにこちらを見ている2人の中学生に視線を送って、もう一つ頷く。

「2人とも話したそうだべ? 影山が嫌じゃないなら話してくればいいと思うぞ」

「なら、話してきます」

信頼している相手の後押しをもらって少し安心した影山は、元チームメイト達のほうに向き直った。
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