24
「1番また来るぞ!」
北川第一のほうで声が上がるのを聞きながら、日向は床を蹴った。北川第一側も慣れてきたのか日向に追いついたブロックが視界を阻んだが、ためらうことなくボールをぶつける。
「!」
指先にボールを当てられ弾いてしまった相手が焦って振り向く。ボールはそのまま跳ね上がり、離れた場所に落ちた。
「やった!」
鈴木がぱっと笑顔になる。
「よっし」
悔しそうな相手を見ながら日向はにっと笑った。
現在、雪ヶ丘は16点、北川第一は18点になっている。逆転こそしていないがずっと引き離されることなく点を取りにくる雪ヶ丘は、相手にはプレッシャーだろう。事実、北川第一の選手達はまだ完全には冷静さを失ってはいないものの、だいぶ苛立った顔をしている。
「落ち着け!」
相手の主将が声を掛けている。さすがに強豪とあって、その声掛けで各自が少し落ち着いた顔になった。
「さすがというかなんというか」
からからと日向は笑っているが、未だに雪ヶ丘は逆転できないままだ。こちらの主将こそさすがだ、と隣にいた川島は思う。影山曰く『昔は緊張に弱かった』らしいが、1年達にはそんな日向は想像できない。
さらに、
「っ、クソッ」
「あ」
「ラッキー!」
ストレスにさらされ続けて集中力が欠け始めていたのだろう。それから少しして相手のサーブミスが出た。
(あと、1点)
日向はスコアボードに視線を向ける。現在は雪ヶ丘が19点、北川第一が20点。
雪ヶ丘に追い風が吹き始めた、と誰もが思った。
「っよし」
「拾った!」
(翔ちゃん達、ほんとに可愛がられてるんだな)
柵から身を乗り出している高校生を見て、泉はこっそり感心していた。
烏野の練習に混ぜてもらったという日は日向も影山もラインで菅原達について語り続けていたので、可愛がられていることは泉も関向も知っていた。だが、ここまで応援されているのを見ると、やはり嬉しくなる。
「あとちょっと…」
徐々に北川第一を追い詰め始めた雪ヶ丘の面々を見た泉はふと顔をしかめた。
(疲れてる…?)
わずかにだが、1年達の動きが鈍り始めている。日向も影山も気付いているのか、何か話しかけている。
「これ、まずいな」
ぼそりと澤村が呟いた。
「入部してそんなに経ってないもんな…」
「まだ体力がついてないはず…、あ」
菅原の言葉に応えた清水が目を見張って柵を掴む。彼女の視線の先では、尻もちをついたらしい厚木が立ち上がるところだった。
「がんばれ…!」
「…っ」
現在スコアボードは雪ヶ丘が20点、北川第一は23点。じわじわと点差が開いている。だが──簡単に諦めるような選手は雪ヶ丘にはいない。
「よし!」
鈴木がよろけながらも叩き込まれたボールをレシーブしたのを見て、関向が拳を握りしめた。ネット際まで飛んだボールは影山の手によって押し込まれる。
「影山すげえ!」
「2点差!」
クラスメート達の歓声の中、関向はふと北川第一側の観客席のほうを見て目を丸くした。
「あ、」
小さな呟きだったものの隣にいた泉には聞こえたらしい。
「なんか言った?」
「あの人」
「え?」
振り向いた泉に、関向は視線で会場の反対側を指す。
「あそこの私服の高校生4人」
「え、あー、見つけたけどあの人達がどうかした?」
その一角は私服の人間が少なく、その4人はすぐに見つけられたらしい泉は不思議そうな顔になった。
「例のあの人」
「…あーいたっけそんな人」
以前に追いかけられた影山の先輩だという人物を関向はよく覚えていたが、その場にいなかった泉はぼんやりとしか覚えていない。
「あの4人の中にいるの? その…誰だっけ」
「及川さんって名前だったはず。あの茶髪の人な」
「北川第一の試合だから見に来たのかな…って、あ!」
「お! もうちょっと!」
その時日向が打ち込んだボールが北川第一のコートに落ちたのに気を取られた2人は、そのまま話していたことを忘れてしまった。
(あと1点で追いつく)
スコアボードをちらりと見て、日向は顔を引き締めた。現在は雪ヶ丘は23点、北川第一は24点。このままもう1点重ねることができれば同点だが、相手にもう1点取られれば雪ヶ丘は負ける。
「こ、のっ」
「よし!」
その時、森が叩き込まれたボールをぎりぎりで拾った。低いながらも浮き上がったボールを日向は高く上げる。
「ラスト!」
「先輩!」
ネット際では再び影山が待ち構えていたが、相手もすばやく3枚ブロックを付けてきた。ブロックの面々は全員影山よりも背が高く、正面から見た圧迫感はかなりのものなはずだ。ただし、それは影山には通用しない。
顔色を変えず床を蹴った影山に合わせてブロックの3人も飛び上がったが、
「あ!?」
ブロックを打ち抜こうとしてるように見えた影山の手は、ふわりとボールを叩いた。それを見たほかの選手が駆け寄るがもう遅い。
浮き上がったボールはブロックの上を越え、床に落ちた。
──雪ヶ丘24点、北川第一24点。
「デュースだ!」
日向は拳を握り締める。
会場から歓声が上がった。
北川第一のほうで声が上がるのを聞きながら、日向は床を蹴った。北川第一側も慣れてきたのか日向に追いついたブロックが視界を阻んだが、ためらうことなくボールをぶつける。
「!」
指先にボールを当てられ弾いてしまった相手が焦って振り向く。ボールはそのまま跳ね上がり、離れた場所に落ちた。
「やった!」
鈴木がぱっと笑顔になる。
「よっし」
悔しそうな相手を見ながら日向はにっと笑った。
現在、雪ヶ丘は16点、北川第一は18点になっている。逆転こそしていないがずっと引き離されることなく点を取りにくる雪ヶ丘は、相手にはプレッシャーだろう。事実、北川第一の選手達はまだ完全には冷静さを失ってはいないものの、だいぶ苛立った顔をしている。
「落ち着け!」
相手の主将が声を掛けている。さすがに強豪とあって、その声掛けで各自が少し落ち着いた顔になった。
「さすがというかなんというか」
からからと日向は笑っているが、未だに雪ヶ丘は逆転できないままだ。こちらの主将こそさすがだ、と隣にいた川島は思う。影山曰く『昔は緊張に弱かった』らしいが、1年達にはそんな日向は想像できない。
さらに、
「っ、クソッ」
「あ」
「ラッキー!」
ストレスにさらされ続けて集中力が欠け始めていたのだろう。それから少しして相手のサーブミスが出た。
(あと、1点)
日向はスコアボードに視線を向ける。現在は雪ヶ丘が19点、北川第一が20点。
雪ヶ丘に追い風が吹き始めた、と誰もが思った。
「っよし」
「拾った!」
(翔ちゃん達、ほんとに可愛がられてるんだな)
柵から身を乗り出している高校生を見て、泉はこっそり感心していた。
烏野の練習に混ぜてもらったという日は日向も影山もラインで菅原達について語り続けていたので、可愛がられていることは泉も関向も知っていた。だが、ここまで応援されているのを見ると、やはり嬉しくなる。
「あとちょっと…」
徐々に北川第一を追い詰め始めた雪ヶ丘の面々を見た泉はふと顔をしかめた。
(疲れてる…?)
わずかにだが、1年達の動きが鈍り始めている。日向も影山も気付いているのか、何か話しかけている。
「これ、まずいな」
ぼそりと澤村が呟いた。
「入部してそんなに経ってないもんな…」
「まだ体力がついてないはず…、あ」
菅原の言葉に応えた清水が目を見張って柵を掴む。彼女の視線の先では、尻もちをついたらしい厚木が立ち上がるところだった。
「がんばれ…!」
「…っ」
現在スコアボードは雪ヶ丘が20点、北川第一は23点。じわじわと点差が開いている。だが──簡単に諦めるような選手は雪ヶ丘にはいない。
「よし!」
鈴木がよろけながらも叩き込まれたボールをレシーブしたのを見て、関向が拳を握りしめた。ネット際まで飛んだボールは影山の手によって押し込まれる。
「影山すげえ!」
「2点差!」
クラスメート達の歓声の中、関向はふと北川第一側の観客席のほうを見て目を丸くした。
「あ、」
小さな呟きだったものの隣にいた泉には聞こえたらしい。
「なんか言った?」
「あの人」
「え?」
振り向いた泉に、関向は視線で会場の反対側を指す。
「あそこの私服の高校生4人」
「え、あー、見つけたけどあの人達がどうかした?」
その一角は私服の人間が少なく、その4人はすぐに見つけられたらしい泉は不思議そうな顔になった。
「例のあの人」
「…あーいたっけそんな人」
以前に追いかけられた影山の先輩だという人物を関向はよく覚えていたが、その場にいなかった泉はぼんやりとしか覚えていない。
「あの4人の中にいるの? その…誰だっけ」
「及川さんって名前だったはず。あの茶髪の人な」
「北川第一の試合だから見に来たのかな…って、あ!」
「お! もうちょっと!」
その時日向が打ち込んだボールが北川第一のコートに落ちたのに気を取られた2人は、そのまま話していたことを忘れてしまった。
(あと1点で追いつく)
スコアボードをちらりと見て、日向は顔を引き締めた。現在は雪ヶ丘は23点、北川第一は24点。このままもう1点重ねることができれば同点だが、相手にもう1点取られれば雪ヶ丘は負ける。
「こ、のっ」
「よし!」
その時、森が叩き込まれたボールをぎりぎりで拾った。低いながらも浮き上がったボールを日向は高く上げる。
「ラスト!」
「先輩!」
ネット際では再び影山が待ち構えていたが、相手もすばやく3枚ブロックを付けてきた。ブロックの面々は全員影山よりも背が高く、正面から見た圧迫感はかなりのものなはずだ。ただし、それは影山には通用しない。
顔色を変えず床を蹴った影山に合わせてブロックの3人も飛び上がったが、
「あ!?」
ブロックを打ち抜こうとしてるように見えた影山の手は、ふわりとボールを叩いた。それを見たほかの選手が駆け寄るがもう遅い。
浮き上がったボールはブロックの上を越え、床に落ちた。
──雪ヶ丘24点、北川第一24点。
「デュースだ!」
日向は拳を握り締める。
会場から歓声が上がった。