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「国見」

賑やかな雪ヶ丘側を眺めていた国見は、寄ってきた金田一にちらりと視線を向けた。隣に並んだ金田一は、同じように雪ヶ丘のほうに目をやる。

「…あいつ、わざわざ応援に来るような友達がいるのな」

「………」

「しかも大勢」

「影山のためかは知らないけどね」

額にしわを寄せた国見がそう反論すると、金田一は首を振る。

「さっき、影山にも声をかけてた。仲よさそうだった」

「………」

再び黙り込んだ国見は、ふい、と顔を背けて他のチームメイトのほうに行ってしまった。

「…お前、実は意地っ張りだよな」

その背中に向かってぼそりと呟いた金田一は、応援の中心らしい少年が何か言っていることに気付いて改めてそちらを見る。

そして、観客席に新たに高校生らしき面々が増えていることに目を丸くし、ふとやたらと顔を出しに来る2つ上の先輩の顔を思い出した。

(『中総体で飛雄ちゃんに会えるかもね』とか言ってなかったっけ)

あの時の彼の表情からして、会えるかもね、と言いつつ実際は探す気満々なのではないか。

金田一はなんとなく嫌な予感がした。





「なあ」

「ん?」

「分かってたけど、すげえ変な気分」

「そりゃそーだろ。お前の立ち位置、”前回”とは逆になってるんだから」

日向と影山は、整列しながらぽそぽそと話していた。

”前回”ではネット越しに向かい合っていた2人だが、”今回”は違う。2人とも”コートのこっち側”で並んで立っている。

「変な感じだけど、楽しいな」

「…おう」

目の前にいる北川第一の主将──影山曰く階上という名前らしい──を見据えながら日向は笑みをこぼした。隣の気配が少し揺れた感じからすると、影山も笑っているらしい。

そして、──笛が、鳴る。

「「「「「「おねがいしあーす!」」」」」」

変人コンビの”初試合”が始まった。





先行は北川第一だった。相手がサーブの準備をするのを見ながら、日向は声を上げる。

「きれいに上げるとか考えなくていいから、とにかく落とさないことだけ考えろ!」

「「「「はい!」」」」

日向達の影響か、いざとなると肝が据わったらしい1年達が勢いよく返事をした。

「川島」

「はい」

そのやり取りを聞いていた影山は、前を向いたまま後ろの後輩に声をかける。

「…やれるか?」

「っ、はい」

一瞬息を呑んだ川島は、それでもしっかりと答えた。

「よし。無理はするなよ」

影山がそう返事をした次の瞬間。

「来る!」

日向の鋭い声が上がり、北川第一のサーブが飛んできた。

「!!」

ボールの行く先にちょうどいた鈴木はひるんだ顔をしたものの、

「ん!」

「ナイス!」

そのまま踏みとどまり、バシンと音を立てながらもボールをレシーブする。勢いよく上がりすぎたボールはネットを越えていってしまったが、

「上出来!」

日向の声に、鈴木は笑顔を見せた。

その間にボールは相手のセッターへと渡り、ネットの前に飛び出した金田一にトスが上がる。

「オラッ!」

「ひえっ」

中学生としてはかなり強力なスパイクに、顔を引き攣らせながらも食らいついた厚木だったが、うまくレシーブできなかったボールはコートの外へ飛んでいく。

一番近くにいた森が咄嗟に動こうとしたが、──その前に隣を一陣の風が通り過ぎた。

「っと」

軽々と床を蹴った日向はボールを片手で叩き、コート内に戻してしまう。さらりとフォローした日向に、日頃から彼の動きを見慣れている雪ヶ丘チーム以外の全員が唖然とした。

コート内に戻ってきたボールは、待ち構えていた影山によってさらに北川第一側に戻される。

恐らく影山だけを警戒していた北川第一は、ボールを落とさない雪ヶ丘にペースを乱されたらしい。セッターのトスが高くなりすぎ、トスを上げられた選手が慌ててボールを叩いた。

「っ、はい!」

「っよし!」

雪ヶ丘側に来たボールは、鈴木の手によって今度こそ雪ヶ丘側の真上にレシーブされる。

ボールの落下点へ移動した影山が構えると同時に、日向が動いた。

先程と同じように軽々と床を蹴る。まるで翼が生えたような動きで飛び上がった日向の手。その手の中心に、ボールが置かれた。





日向達の常識外れな速攻が炸裂したその時、北川第一の選手は誰も反応できていないようだった。

(まあ、当たり前か)

あれを初めて見て反応できる人間が果たして存在するのか。そう思いながら、菅原は口元が緩むのをこらえきれなかった。

「よっしゃああああああ!」

「さっすが!」

日向達の友人だと名乗っていた泉と関向も誇らしげだ。

「何度見ても速いよなあ!」

「日向すげー!」

他のクラスメイト達も感心した声を上げると、関向と泉がくるりと振り返った。

「あれって翔陽だけじゃなく、影山もすごいんだぞ」

「そうそう。あれは、影山のトスがないとできないんだって」

「トス?」

「さっきの影山みたいに、ボールを上に上げるやつ」

ですよね、というようにこちらを向いた視線に応え、菅原も口を開く。

「そう、綺麗な攻撃を決めるには、綺麗なトスがないと難しいんだ」

「と言っても、あんなとんでもない連携ができるのはあの2人だけだけどな」

隣から澤村が付け加える。

再び感心した声を上げる中学生達に笑みをこぼしながら、菅原達はコートに向き直った。

──こうして、第一セットは雪ヶ丘の1点先取から始まった。
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