20
会場内に入ると、まだ北川第一の面々はいなかったものの、観客席はだいぶ埋まっていた。特に北川第一側の応援団はすでに準備を整えたらしい。選手が入ってくるのを待ち構えている様子を見た1年達が顔を引きつらせた。
「まだ来てないみたいだな?」
「みたいだなー。ほらほら、アップとるぞ」
観客席を見渡した相棒の言葉に返事をした日向は、応援団に怯えて影山の背後に隠れている森を引っ張り出す。
いつも通りの3年達の態度に僅かながらも落ち着いた顔になった森は、
「…来、た」
緊張に震える厚木の声と、一斉に湧き上がった声援に再び凍ってしまった。
日向と影山が振り返ると、北川第一の選手がぞろぞろと入場してきているところだった。半数以上が日向達にちらちらと視線を向けている。雪ヶ丘の6人はコートの側にいたので、さすがに気付いたらしい。そして、
「お前、しっかり覚えられてんのな」
「そうだな」
視線を向けた全員が、影山を見て表情を強張らせていた。応援団のほうにも、影山に気付いて目を見開いている者がいる。
「…?」
そこにいるだけで相手を動揺させている影山に、川島が不思議そうな顔をした。
「影山先輩、何かあったんですか?」
鈴木もきょとんとした顔で影山を見上げる。
「周りをよく見てなかったから失敗した」
さらりと答えた影山に、鈴木はばつの悪そうな顔になった。悪いことを訊いたと思ったらしい。
「変なこときいてごめんなさい」
「おお? 謝ることないだろうが」
しゅん、と頭を下げる鈴木の頭をぽんぽんと撫でて、影山は改めてかつてのチームメイト達に視線を向けた。数人と視線が合ったものの、すぐに顔を背けられ、苦笑する。
その時。
「翔ちゃーん! 影山ー!」
「来たぞー!」
応援に来ると言っていた泉と関向の声に、日向と影山は観客席を見た。が、
「…は?」
「え、なんで」
そこにいたのは泉と関向だけではなかった。泉達の周りにわらわらと集まっているクラスメイト達や去年のクラスメイト達に、応援が来ることを知らなかった1年達だけでなく、3年2人も驚愕の表情になる。
「応援に来たいって言ったやつ集めてきたよ!」
「来たよ!」
「来てやったぞー! 感謝しろ!」
「がんばってねー!」
ブンブンと手を振る泉達に最初は絶句していた日向が笑顔になった。
「ありがとー!」
手を振り返した日向は、まだぽかんとしている影山をつつく。
「おい、お礼」
「あ、っと」
はっとした顔になった影山は、あわあわと頭を下げた。
「あざす!」
「いいえー!」
「固いぞ影山!」
「う、うるせえ!」
思わず言い返した影山に、笑い声が上がる。その様子に一緒になって笑った日向は、後輩達を見た。
「お前らもお礼」
「「「「ありがとうございます!」」」」
こちらも慌てて頭を下げた1年達に、がんばってね、落ち着けよ、と声がかかる。
「すげえな泉達」
「よく集まったよなーこんなに」
嬉しそうに話す先輩2人を見て、厚木が小さく声を上げた。
「先輩達だから、こんなに集まったんだと思います」
「は?」
「え?」
驚いた顔で同時に振り返った日向達に、厚木はちょっと笑う。
「人気者ですね」
「…そう、かな」
「………」
照れた顔になる2人に、1年達は思わず和んだ。
「けっこうぎりぎりになったな」
「まだ間に合うだろ」
雪ヶ丘の集団が観客席に着いた頃。
急いで観客席に向かう黒いジャージの面々がいた。
「それにしてもいきなり優勝候補と当たるなんて…」
「でも、それで挫けるやつらでもないだろ」
後ろから聞こえた声に返事をした菅原は、声の主に視線を向ける。
「なんで旭が緊張してるんだ」
菅原だけでなく澤村や清水にまで呆れた顔をされ、東峰は視線を彷徨わせる。
「いやだって俺が同じ立場だったとしたらすごく緊張するな、と思って」
「だからってお前が緊張する理由ないだろうが」
「見守る立場のほうが緊張してどうするの」
「これだから旭は」
「う、それはそうなんだけど」
言い合っているうちに観客席の入り口に辿り着いた4人は会場内に入り、
「あれ」
「応援に来るの、2人って言ってなかったか?」
柵の近くに固まっている中学生らしい集団に目を丸くした。
集団に近付くと、気付いた数人が振り返った。道を開けてくれた彼らに軽く頭を下げながら柵のそばまで寄ると、何か話し合っている日向と影山が見える。
「あの」
不意に話し掛けられた菅原は、隣に顔を向けた。声を掛けてきた幼さが目立つ少年は、おずおずと言葉を続ける。
「あの、もしかして、烏野の人ですか?」
「え、そうだけど、もしかして日向達に聞いてたかな?」
「あ、はい」
「…そっか」
なんとなく気恥ずかしい気持ちになった高校生4人は顔を合わせて笑った。
その間に柵から身を乗り出した少年が声を張り上げる。
「翔ちゃん! 影山! 烏野の人達来たよ!」
「へあ!?」
「!?」
変な声を上げた日向と絶句している影山に向かって、菅原達は手を振った。
「応援に来たぞー!」
「「あざーっす!」」
勢いよくお辞儀をした2人は、後輩らしき4人を集めてもう一度頭を下げる。
真っ直ぐにお礼を言う6人に、誰からともなく拍手が沸いた。
「まだ来てないみたいだな?」
「みたいだなー。ほらほら、アップとるぞ」
観客席を見渡した相棒の言葉に返事をした日向は、応援団に怯えて影山の背後に隠れている森を引っ張り出す。
いつも通りの3年達の態度に僅かながらも落ち着いた顔になった森は、
「…来、た」
緊張に震える厚木の声と、一斉に湧き上がった声援に再び凍ってしまった。
日向と影山が振り返ると、北川第一の選手がぞろぞろと入場してきているところだった。半数以上が日向達にちらちらと視線を向けている。雪ヶ丘の6人はコートの側にいたので、さすがに気付いたらしい。そして、
「お前、しっかり覚えられてんのな」
「そうだな」
視線を向けた全員が、影山を見て表情を強張らせていた。応援団のほうにも、影山に気付いて目を見開いている者がいる。
「…?」
そこにいるだけで相手を動揺させている影山に、川島が不思議そうな顔をした。
「影山先輩、何かあったんですか?」
鈴木もきょとんとした顔で影山を見上げる。
「周りをよく見てなかったから失敗した」
さらりと答えた影山に、鈴木はばつの悪そうな顔になった。悪いことを訊いたと思ったらしい。
「変なこときいてごめんなさい」
「おお? 謝ることないだろうが」
しゅん、と頭を下げる鈴木の頭をぽんぽんと撫でて、影山は改めてかつてのチームメイト達に視線を向けた。数人と視線が合ったものの、すぐに顔を背けられ、苦笑する。
その時。
「翔ちゃーん! 影山ー!」
「来たぞー!」
応援に来ると言っていた泉と関向の声に、日向と影山は観客席を見た。が、
「…は?」
「え、なんで」
そこにいたのは泉と関向だけではなかった。泉達の周りにわらわらと集まっているクラスメイト達や去年のクラスメイト達に、応援が来ることを知らなかった1年達だけでなく、3年2人も驚愕の表情になる。
「応援に来たいって言ったやつ集めてきたよ!」
「来たよ!」
「来てやったぞー! 感謝しろ!」
「がんばってねー!」
ブンブンと手を振る泉達に最初は絶句していた日向が笑顔になった。
「ありがとー!」
手を振り返した日向は、まだぽかんとしている影山をつつく。
「おい、お礼」
「あ、っと」
はっとした顔になった影山は、あわあわと頭を下げた。
「あざす!」
「いいえー!」
「固いぞ影山!」
「う、うるせえ!」
思わず言い返した影山に、笑い声が上がる。その様子に一緒になって笑った日向は、後輩達を見た。
「お前らもお礼」
「「「「ありがとうございます!」」」」
こちらも慌てて頭を下げた1年達に、がんばってね、落ち着けよ、と声がかかる。
「すげえな泉達」
「よく集まったよなーこんなに」
嬉しそうに話す先輩2人を見て、厚木が小さく声を上げた。
「先輩達だから、こんなに集まったんだと思います」
「は?」
「え?」
驚いた顔で同時に振り返った日向達に、厚木はちょっと笑う。
「人気者ですね」
「…そう、かな」
「………」
照れた顔になる2人に、1年達は思わず和んだ。
「けっこうぎりぎりになったな」
「まだ間に合うだろ」
雪ヶ丘の集団が観客席に着いた頃。
急いで観客席に向かう黒いジャージの面々がいた。
「それにしてもいきなり優勝候補と当たるなんて…」
「でも、それで挫けるやつらでもないだろ」
後ろから聞こえた声に返事をした菅原は、声の主に視線を向ける。
「なんで旭が緊張してるんだ」
菅原だけでなく澤村や清水にまで呆れた顔をされ、東峰は視線を彷徨わせる。
「いやだって俺が同じ立場だったとしたらすごく緊張するな、と思って」
「だからってお前が緊張する理由ないだろうが」
「見守る立場のほうが緊張してどうするの」
「これだから旭は」
「う、それはそうなんだけど」
言い合っているうちに観客席の入り口に辿り着いた4人は会場内に入り、
「あれ」
「応援に来るの、2人って言ってなかったか?」
柵の近くに固まっている中学生らしい集団に目を丸くした。
集団に近付くと、気付いた数人が振り返った。道を開けてくれた彼らに軽く頭を下げながら柵のそばまで寄ると、何か話し合っている日向と影山が見える。
「あの」
不意に話し掛けられた菅原は、隣に顔を向けた。声を掛けてきた幼さが目立つ少年は、おずおずと言葉を続ける。
「あの、もしかして、烏野の人ですか?」
「え、そうだけど、もしかして日向達に聞いてたかな?」
「あ、はい」
「…そっか」
なんとなく気恥ずかしい気持ちになった高校生4人は顔を合わせて笑った。
その間に柵から身を乗り出した少年が声を張り上げる。
「翔ちゃん! 影山! 烏野の人達来たよ!」
「へあ!?」
「!?」
変な声を上げた日向と絶句している影山に向かって、菅原達は手を振った。
「応援に来たぞー!」
「「あざーっす!」」
勢いよくお辞儀をした2人は、後輩らしき4人を集めてもう一度頭を下げる。
真っ直ぐにお礼を言う6人に、誰からともなく拍手が沸いた。