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それは、日向達に後輩ができてから数日後のこと。

その日も、顧問が方々に頼み込んでようやく確保できた場所──体育館の片隅で練習をしていた男子バレー部の6人は、校内放送に下校を呼び掛けられて片付けをしていた。

「あ、そーだ」

と、ボールを片付けていた日向が、突然部員のほうに顔を向ける。

「今度みんなでどっか行こうぜ」

「…? 唐突だな」

ネットを畳んでた影山が振り向いて首をかしげた。

「いやー後輩できたし。せっかくだからみんなで出かけたい」

「わがままか」

「別にわがままじゃなくね!?」

「大会まで時間ねえぞ」

「確かに時間ないけど! どっちにしろ体育館空いてない日あるだろ」

「だったらランニングとか…」

「休養大事!」

「…うぬん」

「あの、」

しょっちゅう言い合いを始める2人に慣れてきた森が口を挟む。

「俺は行きたいです」

「あ、俺も…」

その隣で厚木がそろりと手を挙げる。釣られたのか、鈴木と川島も手を挙げた。

「ほーら、行きたいって」

「………」

「いっでででででで痛い痛い痛いいいいいいい!」

日向のドヤ顔にイラっとした影山は、その頭を鷲掴みにした。





数日後。

「乗り気じゃないみたいな態度取っておいて楽しそうだなお前」

「うっせーよボゲ」

集合場所でそわそわしながら待っていた影山を見て、日向は思わずにやけた。

気恥ずかしかったのか視線を逸らして悪態をついた影山は、それでも否定はしない。よっぽど楽しみにしているらしい。

「こういう集まり珍しくなかったのにな」

「中学の後輩とは行ったことない」

「…そっか」

“前回”の高校・大学時代、部活のメンバーで出かけることは珍しくなかったが、中学時代にはそういうことがなかったらしい。その辺りのことは、影山は基本的に自分から話さないので、日向もあまり突っ込んで訊くことはしない。

そうこうしているうちに待ち合わせ時間の数分前になり、1年生達が集まり始めた。3年2人が先に来ていることに1年全員が慌てるので、その度に早く来すぎたのは自分達だから問題ない、と宥める。

「すみません遅れました!」

「俺らが早く来すぎただけだからいいよ」

最後に来た鈴木とも、それまでの3人と同じようなやり取りをして、日向は集まった部員に向き直った。

「そんじゃ、行くかー」





「なあなあ」

「んあ?」

隣に座っていた日向に肩を叩かれ、カレーと温泉玉子を混ぜていた影山は顔を上げた。やり取りが聞こえたらしく、日向の正面に座っていた川島も一緒に顔を上げる。

とりあえずは腹ごしらえということで入ったファミレスで、窓際に座っていた日向は、何かに気付いたらしく外を指差していた。

「あれってさ、」

「青城の人か」

“前回”では見慣れたが“今回”では初めて見る2人──花巻と松川がこちらに向かって歩いてきている。日向達がいるファミレスに入ろうとしているらしい。

「知り合いですか? 高校生ですよね?」

事情が分からない川島はきょとんとしている。

「影山の“元”先輩が行った高校のバレー部のジャージってだけ」

少なくとも、“今回”の日向達と花巻達の関係は本当にそれだけなので、日向はあっさりとそう言った。

「“元”…?」

妙に強調されていた単語に川島がますますきょとんとする。

「そう、“元”先輩。今は関係ないから“元”」

「えっと、はい」

日向から圧力を感じ取った川島はそこで追求をやめたが、そんなことを気にしない影山は会話に口を挟んだ。

「つうか、関わんないようにしてるからな」

「え」

川島が思わず声を上げたことに気付いた他の1年生達が視線を向けたタイミングで、影山が言葉を続ける。

「その元先輩、関わるとすげーめんどいから。嫌ってるやつにわざわざ絡んできてちょっかいかける」

「うっかり見つかると追いかけてくるし」

日向が付け加えた。

「ええー…」

「怖…」

1年生達がまだ見ぬ“元”先輩に怯えていることに気付いて、影山は急いで言葉を付け足す。

「俺以外にそんなことしてるの見たことねえし、関わんなけりゃ大丈夫だけどな」

「「「「………」」」」

「…?」

今度はドン引きしている後輩達に、影山は不思議そうに首をかしげた。

「…変わった人、ですね」

「おう」

厚木が無難な感想を絞り出し、不思議そうなままの影山が頷く。

と、

「あれ」

「お」

「え?」

いつの間にか店内にいたらしく、ドリンクバーのグラスを持った花巻と松川が、正面から目を合わせる位置にいた影山を見て何故かこちらに寄ってきた。

「???」

状況が飲み込めない影山の隣で、厄介なことになりそうな予感がした日向が頬を引き攣らせた。
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