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「おーいお疲れ様ーって、あれ、どうしたの?」

部員達を引き連れてランニングから戻ってきた如月は、ぽかんとしている男子バレー部の1年生達を見て首をかしげた。

「え…っと」

「あの、びっくりして…」

「え、何がって、あー」

1年生達の反応に余計にきょとんとした如月は、視線の先にボールを持って苦笑している日向と何とも言えない顔をしている影山を見付け、すぐに納得した顔になる。

「この2人の実力って本当にとんでもないからね。いきなり同じレベルになるとか無理だから」

「そ、そうですよね…」

「やっぱり先輩達がすごいんだ…」

鈴木と厚木が少し安心したように頷き、森と川島もほっとした顔になった。

「日向も影山も一体何を見せたの?」

如月達のやり取りを眺めていた女子バレー部の副部長が呆れた顔で尋ねると、2人が気まずそうに答えた。

「サーブとレシーブ見せた」

「あとは速攻も。…あはは」

「あははじゃないから! それは誰だってびびるよ!」

「えーだってどうせ見せるし! 早いとこ見せたほうがいいだろ!?」

「怖がらせてどーすんのって言ってるの!」

「え」

「え?」

「影山?」

「こ、怖がらせたか?」

「こっちはこっちでいきなりどうしたし!」

「いや別に影山自身が怖いって意味じゃないからね!?」

「まあ、二人の性格は信用できるから。いきなり無茶させられたりはしないよ。…ねえ、あたし達も練習再開しないと!」

ぎゃあぎゃあ言い合う3人を眺めながら1年生達にそう言った如月が、副部長に呼び掛ける。

「ああうん、分かった! じゃ、怯えさせないようにがんばって」

「怯えさせてねーって」

女子2人がいなくなると、日向と影山は目の前の言い合いにおろおろしていた4人に向き直った。

「あーっと、急にうまくなれとか言わないから大丈夫だぞー。緩くもしないけど」

安心させるように笑って見せた日向に続き、影山が静かな声と言う。

「…この6人で強いチームにする。ちゃんと教えるからな」

その言葉に込められた意味を理解していたのは日向だけだったが、1年生4人も真剣な顔をして頷いた。





「…疲れた」

「腕痛い…」

中学校が決めている下校完了時刻まで体育館裏でボールの扱いの基本から教え込まれていた新入部員達は、小学校では使わない硬いバレーボールに痛め付けられた腕をさすりながら帰り道を歩いていた。

「先輩達、元気だったよな…」

終わったあとけろっとした顔で自転車で帰って行った2人の3年生達を思い出し、森が遠い目になる。いくら1年生に合わせた練習だったとしても、明らかに体力がおかしい。

「そういえば、厚木ってなんかスポーツやってたの?」

ふと川島が言った言葉に、森と鈴木が厚木のほうを振り返った。ぼうっと歩いていた厚木は、慌てて顔を上げる。

「…え、何もやってなかったけど。習い事はそろばんだった」

「そうなんだ? けっこうボール拾ってたけど」

自分でボールを上げ続ける練習で、あちらこちらに飛ばしまくっていたものの、案外落とす回数が少なかった厚木を思い出し、川島は首をかしげた。と、なんとも言えない顔になっている残りの2人に気付き、目を瞬かせる。

「川島さ…、なんで周りのこと見えてんの…?」

「俺、自分以外見えてなかったんだけど…」

「あ、確かに俺も」

鈴木と森に続いて厚木までそう言い出し、川島はあわあわと縮こまった。

「え、え、俺も余裕なかったけど。厚木が飛んでったボールをレシーブしてたり、鈴木がアンダーで上手に真上にボール上げてたり、森が飛んできたボールを反射的に叩いてたりしたのがちらっと見えて、すごいなって思っただけで」

「それ、“だけ”って言わない…」

「すごいのは川島のほうだよ…」

磨けば強力な武器になりそうな特技が見付かった瞬間だった。





「なあ、“前回”では全然分かってなかったけどさ」

「ん?」

「あいつら、磨けば光るよな」

「おう」

「なにがー?」

「すげーやつがいるって話」

「ふーん?」

今日も今日とて相棒共々山越えをして帰ってきた影山は、梨があるから持って行って、と日向の母に声をかけられ、日向家にお邪魔していた。2人の間に座って興味深々な様子の夏の頭を撫でる日向に向かって、影山は話を続ける。

「森はボールへの反応が速い。鈴木はコントロールがうまい。川島は人の動きをよく見てる。あと、厚木もボールに反応するのが速かったな」

「だよな! あー、すげーわくわくしてきた!」

2人は顔を見合わせ、にっと笑った。
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