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互いに自己紹介した日向達は、学校指定の体操服に着替えて体育館にいた。

人数が増え、部に昇格し、顧問も確保できることになった。が、今日も今日とて彼らが使える場所はない。

ちなみに、正式に部として発足するのは来週だ。それまでに場所を確保できるよう頼んでみる、と老年の顧問は言っていたが、普通の公立中学に体育館は1つだけ。体育館裏辺りが活動場所になりかねない。

「とりあえず、場所借りらんないか訊いてくる!」

ぱたぱたと女子バレー部のほうに走って行った日向に、1年生達は目を丸くする。

「…え、あ、あの、」

「ん?」

おずおずと話し掛けられた影山が振り向くと、声を上げた川島も、残りの3人も、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「あの、場所、借りられるんですか…?」

「あー、女バレがランニング行ってる間とかだけな」

「そうなんですね」

あっさりとした声で返答したのがよかったのか、川島の顔から少し緊張が薄れる。森と鈴木も、少し安心した顔になっていた。唯一、厚木だけが緊張の解けない顔をしているのが気になった影山だったが、

「おーい!」

如月と話していた日向に呼ばれたので、1年4人を引き連れてそちらに向かった。

「いつも練習場所貸してくれる女バレの部長」

「こんにちはー。如月です」

「あ、えと、よろしくお願いします」

「「「よろしくお願いします」」」

真っ先に頭を下げたのは川島。そのあとに残りの3人が慌てて挨拶した。





挨拶した後はひとまず体育館の外に出る。

「4人はどれくらいバレーの経験ある?」

日向の質問に1年生達はおずおずと口を開いた。

「6年からやってました」

「4年のときにちょっとだけ…」

「お、俺もそのぐらいです」

鈴木と川島、森が順にそう答える。一人黙っている厚木に日向と影山が視線を向けると、視線を向けられたほうはおろおろとしてから口を開いた。

「あ、えっと、体育でやったことしかない、です…」

自分だけが未経験者であることで不安になったらしく体を縮こまらせる厚木に、日向はにかっと笑って見せた。

「だーいじょうぶ大丈夫。一から教えるから!」

(バレー教室思い出すなー)

日向も影山も、“前回”ではバレー教室の特別講師をさせられたことがある。何も問題はないというようにあっさりと答えた日向に続いて、影山が一言告げた。

「やる気があるならいい」

「なんかエラソーだぞ影山クーン」

「うっせ」

背中をつついてきた日向の頭をはたいた影山は、厚木を手招く。

「…?」

おずおずと寄ってきた後輩の頭をよしよしと撫でると、厚木は目を丸くして固まった。

「…え、え?」

「?」

突然のスキンシップで混乱する厚木に、何かおかしなことをしたかと影山は首を傾げる。

──“前回”でことあるごとに菅原に頭を撫でられていた影山は、真似をして後輩の頭を撫でているうちにそれがすっかり習慣になっていた。後輩に怖がられることの多かった影山にとっては、大事なコミュニケーションの手段になっていたりもする。

そんなわけでいつも通りのことをしたつもりが、日向はにやにやしているわ厚木は赤くなって凍り付いているわ残りの3人はそろって口を開けているわで、よく分からない雰囲気になってしまった。

と、凍っていた厚木が、がばりと顔を上げる。

「…せ」

「せ?」

「先輩!おれ真剣にやります!よろしくお願いします!」

「お、おお」

突然宣言した後輩の勢いに押され、影山はかくかくと頷いた。

「お、俺も!」

釣られたらしい森が、伸び上がるようにして声を上げた。

「がんばります!」

「がんばろうな!」

こちらは日向がわしわしと頭を撫でた。ついでに川島と鈴木の頭にも手を伸ばす。

「がんばろうなー!」

「はいっ!」

「が、がんばりますっ」

はにかむ3人から影山に視線を向けると、目が合った相棒はにへらっと笑った。後輩に懐かれて嬉しかったらしい。

「仲良くなった?」

ふいに声を掛けられ6人が振り向くと、面白そうな顔をしている如月が歩み寄ってきた。

「ランニング行くから体育館空くよー」

「分かった、サンキュー」

日向が言葉を返し、6人は体育館のほうに歩き出した。
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