よく知っている先輩──ただし“前回”初めて出会ったときの姿より幼い──が目の前にいる。

日向は思わず名前を呼びそうになり、口を押さえた。視界の隅で、影山が同じように口を押さえているのが見える。

2人の反応をどう捉えたのか、目の前の少年は慌てて手を振った。

「ご、ごめん、急にびっくりしたよな? あんまり凄いから、つい声掛けたけど」

すまなそうに言う少年に、日向達は慌てて首を振った。

「あ、えっと、大丈夫です!」

「ちょっとびっくりしただけっす」

「良かった。…俺もバレー部なんだけど、」

「烏野、ですよね?」

見覚えのある黒いジャージに影山が視線を向ける。

「知ってんのか!?」

「う、うす」

実際は知ってるどころか在籍してました、とは言えない2人だ。

「そっかー、今はそんな有名じゃないんだけど。俺、菅原孝支。烏野バレー部の1年」

知ってます、とはやはり言えない2人だった。





「…じゃあ、雪ヶ丘のバレー部は2人だけなんだな」

「おかげで愛好会扱いなんです」

「あー、部として認めて貰えないんだ?」

大変だなあ、と菅原は苦笑した。

いつの間にか気に入られたらしい日向と影山は、菅原と一緒にベンチに腰掛けていた。

尋ねられるままに練習内容を答えていると、ふと菅原が真面目な顔になる。

「本当に指導者がいない状態みたいだけど…2人は昔からバレーやってた?」

「バレーは小2からっす」

「えーっと、俺もそんな感じです」

本当のことを言えるわけもなく、咄嗟に誤魔化した日向だったが、それに気付かなかった菅原は、やっぱり、と頷いただけだった。

「独学じゃ限界があるもんなあ」

「あ、でも、影山は最近転校してきたんです」

「1学期までは北川第一でした」

2人が付け加えると、相手は目を丸くした。

「北一って、かなりの強豪だよな?」

「はい」

「離れるときに未練とかは…」

「なかったっす」

あまりにさらりと答えた影山に、菅原が戸惑い顔になる。それを見て、日向が横から補足した。

「あんまり仲良くなかったんです」

「俺が馴染もうとしなかったから、「向こうが馴染ませなかったんです」…おい」

話を遮られた影山は相棒を睨んだが、睨まれたほうはどこ吹く風で菅原に買って貰ったジュースを飲んでいる。

「馴染ませなかった…?」

表情が険しくなった菅原は、影山に視線を向けた。

「監督とかは何もしてくれなかった?」

「えーと…」

「あ、言いたくなかったらいいからな!」

影山が口籠もり菅原は慌てたが、口籠もった本人は、

(…どうだっけ)

記憶を掘り返しているだけだった。それに気が付いている日向が吹きそうになっているのは、この際無視することにする。

ひとまず覚えていることを口にした。

「たぶん、邪魔だと思われてました」

「はあああああ?」

影山としては、実際に邪魔になっていたし仕方ないと言う意味だったのだが、菅原からすれば教え子を邪魔者扱いする時点で教育者失格だ。

「北一って酷いところだったんだな…」

「え…?」

どうしてそうなった、と混乱する影山と、ますます険しい顔になる菅原。この場合、菅原の反応のほうが普通だと分かっている日向は、助けを求める相棒の視線を無視して口を開く。

「そこの人達とはもう関わりないから大丈夫です!」

「そっか! 良かったな!」

(んんんんん?)

何かがおかしいのに何がおかしいのかよく分からない。

にこにこと笑う日向と菅原の傍らで、影山だけは首をかしげていた。
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