放課後になると、日向と影山は連れ立って体育館に向かった。影山のほうは、部活見学だけでも来ないかと数人のクラスメイトに誘われたが、

「悪い、どうしてもバレーがいいんだ」

困ったような顔でこてんと首をかしげて見せ、全て断っていた。その仕草に、罪悪感に駆られたらしいクラスメイト達は、一斉に勧誘をやめる。

「たまに自分の影響を分かっててやってんじゃないかって思いたくなる」

「?」

「あーうんなんでもないよー」

そんな話をしながら2人が体育館に着くと、そこはすでにいくつかの部で埋まっていた。

「本当に場所ねぇんだな」

「そーなんだよー。とりあえず、ボール借りてくるな」

ぱたぱたと走って行った日向は、ボールだけが目当てだったわけではないらしく、近くにいた女子バレー部員に話し掛けている。影山がなんとはなしにそれを眺めていると、不意に2人がこちらを振り返った。

「…?」

日向が何やら手招きをしている。影山が首をひねりながら近付くと、日向と話していた女子生徒ににこにこと笑い掛けられた。

「初めまして、影山くん。女子バレー部長の如月です。クラスは違うけど、同じ2年だからよろしく」

「初めまして」

「今、日向と相談したんだけど、私達がランニングしてる間はこの場所を貸すことになったから」

「!」

日向が話し掛けていたのはその交渉のためだったらしい。

「あざっす!」

「いえいえ」

あっけらかんと笑った少女は、じゃ、と手を振ると、部員達の方に駆けていった。

「女バレが使ってる間は、外でやってようぜ」

「おー」

練習を始めた人々から離れ、2人は体育館の外に出た。





バシン!

鋭い音が響き、体育館にいた生徒達は思わず音の出所に目をやった。

先程までは女子バレーが使っていたコートは、今は2人の男子生徒に使われている。

「あいつらすげー」

「日向が練習してんのは見たことあったけど…あんなうまかったか?」

「翔ちゃん達がんばってるなぁ」

体育館ではバスケ部も活動しており、その一員である泉は、身軽に動く日向達に目を見張る。夏休み中は公園などに行っていたらしく、泉が2人の練習を見るのは今日が初めてだった。

と、影山がジャンプサーブのために助走の体制に入る。

影山の手によって打ち出されたボールは、凄まじい勢いで床に叩き付け──、

「っよっと!」

「ちっ」

られなかった。

若干不安定ではあったが、影山の殺人サーブをレシーブした日向は、にかっと笑って見せる。

「…すご」

誰かがぽつりと呟いた。

強烈なサーブと、それをレシーブする能力。たった2人の男子バレー愛好会が、その実力の一端を見せ付けた瞬間だった。





「貸してくれてありがとうな」

「あざっした」

「いえいえ」

女子が留守にしている短い時間に、ひたすら練習を重ねていた日向達は、戻ってきた如月に礼を言って体育館を離れた。

「どうする? またさっきの所で練習するか?」

影山に問われて、日向は首を捻る。

「んー、移動しようぜ」

ここだと木が邪魔だし、と言った日向と共に、影山は自転車置き場に向かった。体育館が使えない以上、無理に学校に留まる必要もない。

少し離れたところにある広い公園に行くことに決め、2人は学校を後にした。





放課後遊ぶにはちょうどいいのか、公園には小学生が多かった。そちらにボールが飛んでいかないよう、日向達は遊具から離れた芝生に向かう。

「ここならいいかな。…っよし、トスくれー!」

「お前、その口癖相変わらずだな」

「何を今さらっ」

話しながらも飛び出した日向に、影山はいつも通りドンピシャなトスを上げた。上がったボールを、体重を感じさせない軽やかな動きで日向が打つ。

こちらを眺めていた小学生達から、感嘆の声が上がった。それに交じった聞き覚えのある声に、2人は思わず振り返る。

「2人とも凄いなー! 中学生?」

そう言いながらこちらに歩いてきた少年は、泣きぼくろが印象的な目元をふわりを綻ばせた。
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