8月某日。

影山はスーツケースを持って駅前を歩いていた。これから、宮城の実家に帰省するのである。

と、

「あ! 影山ー」

よく知った声に呼び掛けられ、彼は振り向いた。

影山と同じようにスーツケースを持った日向がばたばたと駆け寄って来る。

「今日のに乗るって話は聞いてたけど、もしかして10時45分のやつ?」

「おう。お前もか?」

「うん、そう」

偶然だなーと笑う日向からふと視線を外した影山は、

「え」

目の前の光景に絶句した。





「っ日向!」

突然、相棒に腕を引かれた日向の目に映ったのは、2人のほうに突っ込んでくるトラックだった。

「ひ!?」

腕を引かれるままに駆け出そうとしたが、間に合わない。

周り中で上がる悲鳴、振り向いた影山の恐怖に染まった顔、そして、

ドン!

全身に凄まじい痛みが走ったのを最後に、日向の意識は途切れた。





「うぎゃ! …って、あれ」

がばりと起き上がた日向は、いつの間にか布団で寝ていたことに混乱した。それも病院のベッドなどではない。

(ここ、俺の部屋…? てか、影山は?)

今いるのが実家の自室だと気付き、さらにさっきまで一緒にいた人物が消えていることにも気付き、ますます混乱する。

「え、え、さっきまで東京にいて、影山に会って、トラックが突っ込んできて、…体が痛くない」

あの激痛がまったく残っていない。

(なんなんだよ、これ…)

自分の体をぺたぺたと触って怪我の有無を確認していた日向は、更なる異変に気付く。

手足が細い。筋肉が付いていない。

「!?!?」

部屋を飛び出し、洗面所で鏡を除き込むと、そこには──どう見ても10代前半としか思えない少年の顔が映っていた。

「うぇええええぇぇ!?」

「おにーちゃんうるさい」

「な、夏!?」

「なに?」

文句を付けてきた妹は、前に会ったときにはすっかり大人びていたはずが、幼児に戻っている。

洗面所をよく見れば、数年前に買い換えたはずの洗濯機が古いままだ。

「えええぇぇぇ」

(これってマンガとかで読んだことある逆行とかゆーやつでしょーか…)

──日向翔陽26歳、どうやら10代に戻ったようです。





同時刻、影山家。

「うわ!?」

この家の息子もまた、悲鳴を上げて飛び起きた。

そして、

「は? ここどこだ? …って」

(俺の…部屋…?)

日向と同じく、実家の自室で寝ていた影山は、訳が分からない状況に唖然とした。

(怪我はしてねぇし、うちに戻ってるし、日向はいなくなってるし、それに)

何故か自分の部屋の物がほぼなくなっている。もともと物は少なかったし、東京に持っていった物もあったのだが、今の影山の部屋は、それ以上にがらんとしていた。

「なんでだ?」

ぽつりと呟いた、その時。

「飛雄! さっさと起きて準備始めなさい!」

階下から母の怒鳴り声がした。反射的に起き上がって携帯──これも何故か大分前に使っていた物に変わっていた──を見ると、そこには、

「はあ!?」

12年前の日付が表示されていた。

(…てことは、ここは過去なのか…?)

──影山飛雄25歳、どうやら13歳に戻ったようです。ついでに、

「飛雄!引っ越し屋さん、来ちゃうわよ!」

──どうやらどこかに引っ越しするようです。
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