想いと距離
「────これで、よし……と」
一方。
八番隊舎では引っ越しを済ませた若桜が、真新しい死覇装についた埃をポンポンと払い。
少し部屋が埃っぽいかと考えつつ、窓を開ける。
「ここもいつ振りだろうか………。ユーハバッハらに破壊された名残はまだあるが、変わらないな」
しかしここで感慨に浸っている暇などなく。死神としてやることは山積みだと改めて部屋を見回していると、戸を叩く音と共に数人の死神が入って来た。
「あの、棗さん……少しお時間宜しいですか?」
その中の先頭にいた男が話し掛けてくれば若桜は快く頷き。
「何かすることがあれば何でも言ってくれ。私に遠慮はなしだ」
ふわりと微笑むと、相手が惚けた表情になったと同時に、まるで噴火したかのごとく赤面した。
「あ、あ、ありがとうございますっ!!────と言いますか、実はあなたにお願いがあって来たんですっ!」
「私に?お願い………とは?」
そして早速とばかりに本題に入り、若桜が小首を傾げると彼が何かを差し出してくる。
「これは………副官章。どうしてこれを………」
そう、彼が持っていたのは副隊長が身に付けるものであり、俗に言う腕章である。
しかしそれを何故若桜に差し出すのか理解しかね。理由を訊ねてみると、話はこうだ。
「実は、我々八番隊は副隊長も空席となっているんです。そもそも前隊長だった八胴丸さんがサボれるくらいに優秀な人がいいだとか、顔が良い人がいいだとか………その、色々と条件をつけて。それに当てはまる人がなかなかいなくて、難儀してたんです」
それでも京楽春水があれやこれやと手を尽くし、ようやく彼女が気に入りそうな人物に目星をつけた矢先。先に我慢の限界がきたリサが隊長を辞めてしまったために、結局ご破算となったようで。
「そんな中、棗さんが八番隊の隊長としてここに戻って来ると聞いて、凄く嬉しくて!ようやく安心していたんですが………。総隊長から、あなたは席官から始められると聞いて────」
それならば是非とも副隊長になって欲しい、と。
「あのっ!あなたが他の隊長の方たちと示しがつかないという理由で、隊長になるのを断ったのは知っています!ですが、そんなあなただからこそせめて、席官ではなく副隊長を務めてもらいたいんです!!」
「お願いします、棗さん!俺たちがあなたを支えますから!」
「どうか副隊長として、私たちを導いてください!!」
次々と頭を下げ、もう一度お願いしますと声を揃えた瞬間。
「────その話、受けてみたらどうだ?」
『っ!?!?』
ふいに別の声が聞こえて彼らが驚く。
「日番谷、隊長………」
しかもその声の主を見た若桜が驚き。振り返った隊士たちも言葉を失えば、冬獅郎が中へ入って来た。
「少し気になって様子を見に来たが、正解だったな。俺も八番隊に隊長も副隊長もいないのはさすがに不味いと思ってたんだ」
「っ、やっぱり日番谷隊長も思ってらしたんですね!!」
そうして『八』と書かれた腕章を取った彼が、若桜の前に立てば有無を言わさずその腕につけ。
「本音を言えば、ここで羽織を着ているお前を見るのを楽しみにしてたんだが………。今はこれで我慢してやる」
「───っ!」
次いで目と目が合い、若桜が微かに息を飲むとすぐに腕章を見る。
「だが………副隊長でさえ、今の私には相応しくない」
それでも首を横に振り、外そうとするも冬獅郎の手が上から重なって震え。
「そう思ってるなら、これから示せばいい。こいつらもお前に副隊長になって欲しくて、こうして頭を下げてんだ。それに応えるのも、お前のやるべきことじゃないのか?」
「っ!」
彼から告げられた言葉がゆっくりと胸に浸透していくと、若桜の紫の瞳が強い光を放つ。
「………そうだな。あなたの言う通りだ、日番谷隊長」
そうして唇に笑みが浮かぶと、冬獅郎も笑みで返し。
「それでこそ棗若桜だ。その調子で早く隊長になってもらわねえとな」
「え────」
しかしそこで若桜が長い睫毛を瞬かせ、彼を見つめると視線が絡まる。
「言っただろ?隊長羽織を着てるお前を見るのを楽しみにしてたって」
次いで冬獅郎の表情が柔らかくなるのを感じれば、また鼓動が乱れ始めた。
「う……それは、その……まだ、これからだから……」
そんな鼓動の乱れさえ今は抑えることもできず、言葉も上手く紡げなくなったが冬獅郎がスッと離れ。
「良かったな、お前ら。これで八番隊も安泰だ」
「は、はいっ!!ありがとうございます、日番谷隊長!!!」
何故か一枚噛んだ風になると、一瞬呆気にとられた若桜が次の瞬間には苦笑。
「あの、棗副隊長もありがとうございました!!これから宜しくお願いします!!」
「こちらこそ………。至らないことも多いが、どうぞ宜しくお願いする」
横でじっと見つめられるのを意識しつつ、丁寧に頭を下げればいよいよ本格的に始動か。
(まずは皆と信頼関係を築かなければ。できるだけ多くの時間を皆と過ごして、誰ひとり失うことのない強い部隊にしていこう)
それならばまずは溜まっているであろう仕事を処理するべく、早速執務室に行こうと若桜が顔を上げるもふいに冬獅郎から腕を掴まれた。
「ところで、すまねえが少し彼女を連れ出しても構わねえか?」
「────」
それも不意打ちすぎて反応すらできず。思わず彼を見つめると、部下たちはどうぞどうぞと頷いている。
それにも驚いた若桜が、何か言おうとするも冬獅郎が歩きだし。
「遅くはならねえようにするから、少し付き合ってくれ」
チラリと翡翠の瞳を向けてくるその横顔に、若桜は微苦笑しつつ頷いた。
──────。
八番隊舎から外に出ると、冬獅郎から誰も居ないひっそりとした場所に連れて行かれた若桜。
けれどそこはこじんまりとした箱庭か、美しく咲き誇る花たちが迎え。そこに長椅子も置かれているのを見ると、ここは死神たちのちょっとした憩いの場なのだとすぐに分かった。
そして長椅子の前まで来ると冬獅郎が立ち止まり、ゆっくりと振り向けば銀色の髪がサラリと揺れる。
いまや目の前には少年の姿ではない、成熟した大人の姿となった彼がいて。
十数年振りに現世に姿を現した時でさえ一瞬目を疑い、本当に日番谷冬獅郎なのかと驚いたばかりだった。
そこからまだ二度目であり、優に180を越えているであろう身長は見上げるほどで。大人びた顔つきはやはり何処からどう見ても端整で目が離せない。
更に体つきも少年から大人へと変貌を遂げ、死覇装や羽織も新調されて冬獅郎の成長に見合ったものとなっていた。
そんな急成長を遂げた彼を前に、しかし若桜は親のような心境か。
「本当に、また一段とかっこよくなったな」
見上げるほどに背が高くなった彼に笑みがこぼれ、じっと見つめると本人は目許を染めて視線を反らしてしまう。
「───だから不意打ちはやめろって。どう反応していいか分かんねえだろ」
「ふふ、そうなのか?もう言われ慣れてるのかと思ったけど」
すると冬獅郎が速攻で慣れてねえと答え。
「つーか、お前くらいだ。そんな事を言うのは」
だから勘弁してくれと頭を掻くと、殊更驚いた若桜。
「雛森さんは言わないのか?」
そこで彼の幼馴染である人物の名を出せば、再び速攻で言うわけねーよと返される。
「アイツと俺は姉弟同然に育った仲だ。どちらかっつーと、今のお前みたいに姉貴ぶった感じで『大きくなったね』とか言いやがったからな」
そんな情景がすぐに浮かび、若桜がクスクスと笑えば冬獅郎がそんな事よりと言って真顔に戻り。
「こっちに戻って来たばかりだから、まだ慣れねえことばかりだろ。何か困ったことや分からないことがあった時は、遠慮なく俺に言ってくれ」
これもまた彼の性格でもあり、他人を思いやることができる優しいひとなのだと改めて実感する。
「有り難う。あなたは本当に優しいな。でも大丈夫だ。ただでさえ人手不足で忙しい上に、隊長となれば事務処理もしなくてはならないから。日番谷隊長は自分のことに専念して欲しい」
だから心配は無用だと伝え、その優しさを他の人に分けてくれと言って微笑むと冬獅郎の表情が一変。
「………買い被りにもほどがあると思うが。俺はそこまで安売りするような男じゃねえよ」
「───っ!」
同時に距離を一気に縮めてくると、息を飲むほどに綺麗な翡翠の瞳に射抜かれた。
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一方。
八番隊舎では引っ越しを済ませた若桜が、真新しい死覇装についた埃をポンポンと払い。
少し部屋が埃っぽいかと考えつつ、窓を開ける。
「ここもいつ振りだろうか………。ユーハバッハらに破壊された名残はまだあるが、変わらないな」
しかしここで感慨に浸っている暇などなく。死神としてやることは山積みだと改めて部屋を見回していると、戸を叩く音と共に数人の死神が入って来た。
「あの、棗さん……少しお時間宜しいですか?」
その中の先頭にいた男が話し掛けてくれば若桜は快く頷き。
「何かすることがあれば何でも言ってくれ。私に遠慮はなしだ」
ふわりと微笑むと、相手が惚けた表情になったと同時に、まるで噴火したかのごとく赤面した。
「あ、あ、ありがとうございますっ!!────と言いますか、実はあなたにお願いがあって来たんですっ!」
「私に?お願い………とは?」
そして早速とばかりに本題に入り、若桜が小首を傾げると彼が何かを差し出してくる。
「これは………副官章。どうしてこれを………」
そう、彼が持っていたのは副隊長が身に付けるものであり、俗に言う腕章である。
しかしそれを何故若桜に差し出すのか理解しかね。理由を訊ねてみると、話はこうだ。
「実は、我々八番隊は副隊長も空席となっているんです。そもそも前隊長だった八胴丸さんがサボれるくらいに優秀な人がいいだとか、顔が良い人がいいだとか………その、色々と条件をつけて。それに当てはまる人がなかなかいなくて、難儀してたんです」
それでも京楽春水があれやこれやと手を尽くし、ようやく彼女が気に入りそうな人物に目星をつけた矢先。先に我慢の限界がきたリサが隊長を辞めてしまったために、結局ご破算となったようで。
「そんな中、棗さんが八番隊の隊長としてここに戻って来ると聞いて、凄く嬉しくて!ようやく安心していたんですが………。総隊長から、あなたは席官から始められると聞いて────」
それならば是非とも副隊長になって欲しい、と。
「あのっ!あなたが他の隊長の方たちと示しがつかないという理由で、隊長になるのを断ったのは知っています!ですが、そんなあなただからこそせめて、席官ではなく副隊長を務めてもらいたいんです!!」
「お願いします、棗さん!俺たちがあなたを支えますから!」
「どうか副隊長として、私たちを導いてください!!」
次々と頭を下げ、もう一度お願いしますと声を揃えた瞬間。
「────その話、受けてみたらどうだ?」
『っ!?!?』
ふいに別の声が聞こえて彼らが驚く。
「日番谷、隊長………」
しかもその声の主を見た若桜が驚き。振り返った隊士たちも言葉を失えば、冬獅郎が中へ入って来た。
「少し気になって様子を見に来たが、正解だったな。俺も八番隊に隊長も副隊長もいないのはさすがに不味いと思ってたんだ」
「っ、やっぱり日番谷隊長も思ってらしたんですね!!」
そうして『八』と書かれた腕章を取った彼が、若桜の前に立てば有無を言わさずその腕につけ。
「本音を言えば、ここで羽織を着ているお前を見るのを楽しみにしてたんだが………。今はこれで我慢してやる」
「───っ!」
次いで目と目が合い、若桜が微かに息を飲むとすぐに腕章を見る。
「だが………副隊長でさえ、今の私には相応しくない」
それでも首を横に振り、外そうとするも冬獅郎の手が上から重なって震え。
「そう思ってるなら、これから示せばいい。こいつらもお前に副隊長になって欲しくて、こうして頭を下げてんだ。それに応えるのも、お前のやるべきことじゃないのか?」
「っ!」
彼から告げられた言葉がゆっくりと胸に浸透していくと、若桜の紫の瞳が強い光を放つ。
「………そうだな。あなたの言う通りだ、日番谷隊長」
そうして唇に笑みが浮かぶと、冬獅郎も笑みで返し。
「それでこそ棗若桜だ。その調子で早く隊長になってもらわねえとな」
「え────」
しかしそこで若桜が長い睫毛を瞬かせ、彼を見つめると視線が絡まる。
「言っただろ?隊長羽織を着てるお前を見るのを楽しみにしてたって」
次いで冬獅郎の表情が柔らかくなるのを感じれば、また鼓動が乱れ始めた。
「う……それは、その……まだ、これからだから……」
そんな鼓動の乱れさえ今は抑えることもできず、言葉も上手く紡げなくなったが冬獅郎がスッと離れ。
「良かったな、お前ら。これで八番隊も安泰だ」
「は、はいっ!!ありがとうございます、日番谷隊長!!!」
何故か一枚噛んだ風になると、一瞬呆気にとられた若桜が次の瞬間には苦笑。
「あの、棗副隊長もありがとうございました!!これから宜しくお願いします!!」
「こちらこそ………。至らないことも多いが、どうぞ宜しくお願いする」
横でじっと見つめられるのを意識しつつ、丁寧に頭を下げればいよいよ本格的に始動か。
(まずは皆と信頼関係を築かなければ。できるだけ多くの時間を皆と過ごして、誰ひとり失うことのない強い部隊にしていこう)
それならばまずは溜まっているであろう仕事を処理するべく、早速執務室に行こうと若桜が顔を上げるもふいに冬獅郎から腕を掴まれた。
「ところで、すまねえが少し彼女を連れ出しても構わねえか?」
「────」
それも不意打ちすぎて反応すらできず。思わず彼を見つめると、部下たちはどうぞどうぞと頷いている。
それにも驚いた若桜が、何か言おうとするも冬獅郎が歩きだし。
「遅くはならねえようにするから、少し付き合ってくれ」
チラリと翡翠の瞳を向けてくるその横顔に、若桜は微苦笑しつつ頷いた。
──────。
八番隊舎から外に出ると、冬獅郎から誰も居ないひっそりとした場所に連れて行かれた若桜。
けれどそこはこじんまりとした箱庭か、美しく咲き誇る花たちが迎え。そこに長椅子も置かれているのを見ると、ここは死神たちのちょっとした憩いの場なのだとすぐに分かった。
そして長椅子の前まで来ると冬獅郎が立ち止まり、ゆっくりと振り向けば銀色の髪がサラリと揺れる。
いまや目の前には少年の姿ではない、成熟した大人の姿となった彼がいて。
十数年振りに現世に姿を現した時でさえ一瞬目を疑い、本当に日番谷冬獅郎なのかと驚いたばかりだった。
そこからまだ二度目であり、優に180を越えているであろう身長は見上げるほどで。大人びた顔つきはやはり何処からどう見ても端整で目が離せない。
更に体つきも少年から大人へと変貌を遂げ、死覇装や羽織も新調されて冬獅郎の成長に見合ったものとなっていた。
そんな急成長を遂げた彼を前に、しかし若桜は親のような心境か。
「本当に、また一段とかっこよくなったな」
見上げるほどに背が高くなった彼に笑みがこぼれ、じっと見つめると本人は目許を染めて視線を反らしてしまう。
「───だから不意打ちはやめろって。どう反応していいか分かんねえだろ」
「ふふ、そうなのか?もう言われ慣れてるのかと思ったけど」
すると冬獅郎が速攻で慣れてねえと答え。
「つーか、お前くらいだ。そんな事を言うのは」
だから勘弁してくれと頭を掻くと、殊更驚いた若桜。
「雛森さんは言わないのか?」
そこで彼の幼馴染である人物の名を出せば、再び速攻で言うわけねーよと返される。
「アイツと俺は姉弟同然に育った仲だ。どちらかっつーと、今のお前みたいに姉貴ぶった感じで『大きくなったね』とか言いやがったからな」
そんな情景がすぐに浮かび、若桜がクスクスと笑えば冬獅郎がそんな事よりと言って真顔に戻り。
「こっちに戻って来たばかりだから、まだ慣れねえことばかりだろ。何か困ったことや分からないことがあった時は、遠慮なく俺に言ってくれ」
これもまた彼の性格でもあり、他人を思いやることができる優しいひとなのだと改めて実感する。
「有り難う。あなたは本当に優しいな。でも大丈夫だ。ただでさえ人手不足で忙しい上に、隊長となれば事務処理もしなくてはならないから。日番谷隊長は自分のことに専念して欲しい」
だから心配は無用だと伝え、その優しさを他の人に分けてくれと言って微笑むと冬獅郎の表情が一変。
「………買い被りにもほどがあると思うが。俺はそこまで安売りするような男じゃねえよ」
「───っ!」
同時に距離を一気に縮めてくると、息を飲むほどに綺麗な翡翠の瞳に射抜かれた。
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