想いと距離
「でも、あなたはそんな松本さんの分まで仕事をこなしてしまうだろう?優しい所は変わらないな」
「…………っ」
途端に冬獅郎の目許がほんのりと染まり。そっぽを向いてしまえば少年だった時と変わらず可愛らしい。
けれどそれが彼なりの優しさであり、死神の中でもやはり他者を気遣える者などそう居ないから。
「こっちはいい迷惑だ。書類仕事ばかりしてると、たまにノイローゼになっちまうんじゃないかと本気で考えるからな」
「確かに………。それはそれで問題だ」
そこで若桜が真面目な表情を浮かべ、何か良い方法はないものかと真剣に考えてしまえば今度は冬獅郎が笑う番か。
「そうやって大真面目に考えるお前も、大概だと思うけどな?」
「っ!ふふっ、そうだな」
そう言って二人して笑い。冬獅郎が湯気の立つ湯飲みを持ち上げて茶を飲むと、その動きを見つめた若桜。
(子供の姿だった時から、周りの人よりもずっと大人びた子だと思っていたけど………。こうして成長した姿で目の前に居ると、何処を見ればいいのか分からなくなってしまう)
それもそのはず。湯飲みを持つ手も大人のそれで、特に男性となれば大きくて手首も太くなっている。
更に死覇装の上からでも分かるほど筋肉もつき、身長となれば若桜が見上げるほど高くなったのが一番か。
そして極めつけはその整った顔立ちであり、少年の頃とは違う大人びた面は目が離せないほどで。切れ長の瞳とスッと通った鼻筋に、形の良い唇もどこをとっても完璧だ。
そして白銀の髪も綺麗に切り揃えられ、これまた男らしさを引き立てていれば急激に心臓の音が煩くなり。
そんな男から先程手を握られていたのだと思い出すと、今度は頬が熱くなって慌てた。
「………?どうしたんだ急に?」
そんな突然挙動不審になった若桜を見て首を傾げた冬獅郎が問い掛けてくると、乱れた鼓動を悟られないように何でもないと視線を反らす。
「そ、それよりここに来て良かったのか?ただでさえ忙しいのに………無理をさせてしまっては十番隊の皆に申し訳ない」
すると冬獅郎は気にするなと一蹴し、自分が来たかったから来たのだと告げる。
「俺自身がここに来ることを禁じていたからな。それをようやく解禁 したんだ。誰も文句なんて言わねえよ」
「え………」
それはまたどういう意味か。思わずきょとんとしてしまえば、彼がその理由を教えてくれる。
「………あの頃のままじゃ、俺はお前の隣に立つことさえできねえ。だからそうなれるよう出来ることはしてきたつもりだ。それに、ガキの姿だといつまでたっても釣り合わねえだろ」
「────釣り合う?」
しかし再び謎な言葉を聞き、疑問符が浮かぶとフッと苦笑した冬獅郎。
「相変わらず鈍いよな?若桜は」
「そ、そう……だろうか」
「そうだ。かと言って、そんな所も気に入ってるんだが────」
ふいに手を伸ばし、今度は彼の方から頬に触れてくれば驚きどころではなくて。
「お前から見てどうなんだ?」
「───っ!!!」
少し骨ばった指先で頬を撫でられると、質問されたことさえ意識から吹き飛んでしまう。
それでいてじっと見つめられては、鼓動が爆発しそうになるから。
「な、何が────」
「俺の、今の姿だ」
唇が震えるままに問おうとすると、冬獅郎が至極解りやすいように言った。
瞬間─────。
「お話し中のところ邪魔するっス!!!」
スパン!!と障子が開き、浦原喜助が突然入ってくる。
それさえ驚きで、若桜が完全に停止してしまえば冬獅郎は鋭い視線を向け。
「お茶請けを持ってきたんで、食べませんか!!」
茶菓子をドンと置いた喜助が、続けてギロリと睨みをきかせると口を開く。
「そう言えば日番谷サン、子供 はそろそろ帰る時間じゃないっスかねぇ。でないと保護者が心配するっスよ?」
「…………」
途端に双方が無言で睨みあい、緊迫した空気が流れると先に折れたのは冬獅郎。
「俺に『保護者』なんていねえが。これ以上居たらアンタに殺されそうだな」
「それは勿論。特別におもてなしをさせていただきますよ?」
そこに満面の笑顔でもって喜助が答えると、言ってろと呟いた冬獅郎が立ち上がった。
「今日のところはこれで帰る。邪魔して悪かった」
「───待ってくれ、日番谷隊長。外まで送ろう」
それが合図になったのか、金縛りから解けたかのように若桜も立ち上がる。
「いいのか?」
その動きに冬獅郎が少し驚き、軽く瞬くと若桜が笑顔で頷いた。
そうして険悪な雰囲気の喜助を横に二人して外に出ると、近くの空き地まで向かい。冬獅郎が地獄蝶を出すと若桜が名を呼ぶ。
「なんだ?」
「さっきの質問の答えを言ってなかった」
「───あ、ああ………」
しかし今更ながら恥ずかしくなってきた冬獅郎が、直視できずに思わず視線を泳がせてしまえば彼女がスッと近付き。美しくも紫の瞳が真っ直ぐに見つめたその時。
「以前の姿も凛として格好良かったが、今のその姿はとても精悍で、惚れ惚れするほど男前になったな」
「っ!!」
まさか本当に答えてくれるとは予想さえしていなかったため、冬獅郎に激しい衝撃が疾しる。
それでいてどう反応すればいいかも思い付かず、動きが止まってしまうもすぐに我に返った。
「────そ、そう言ってくれると………存外、嬉しいものだが………逆にこっちの心の準備が、だな………」
「あ………す、すまない………その………」
「────また……逢いに来る。その時は若桜の好きそうな菓子も持って来るから、食べてくれ」
兎にも角にも、自分から聞いておきながら何とも情けなくはあるが。今日だけではない事も伝えておきたくて言葉にすれば、若桜の表情が明るくなり。
「ああ、楽しみにしてる。でも時間があればでいいから。あなたの為に美味しい茶葉を用意して待ってる」
彼女も少なからず歓迎してくれているのだと伝わってくれば、冬獅郎もようやく笑みを見せたのだった。
* * *
冬獅郎が十数年振りに現世へ姿を現してから五日後。
再び浦原商店に客が訪れたが、今回は雰囲気が全く違う。
それもそのはず、客間に通され座っていたのはなんと護廷十三隊一番隊隊長である京楽春水その人で。
「一番隊隊長殿が自らこんな所に来るなんて、いったいどういう風の吹き回しです?」
彼を前にさすがの喜助も面食らっているのか、抑揚のない声で問い掛けると相手が笑った。
「いやぁ、そんなに警戒しないでくれるかな?ボクが用があるのは若桜ちゃんだから」
「…………私に?」
すると喜助の横に座っていた若桜が反応し、目の前の男を見る。
「そうそう。若桜ちゃんに折り入って相談があって来たんだよねえ」
「それはどういったものだろうか」
そこで若桜が単刀直入に訊ね、春水の雰囲気が少しだけ変わると背筋を伸ばす。
「それは護廷十三隊のことなんだけど………若桜ちゃん、キミは隊長をする気があるかい?」
『────っ!?』
そんな唐突な質問に若桜だけでなく喜助も驚愕で目を見開き。沈黙が落ちると春水は続ける。
「ユーハバッハとの戦いが終わり、尸魂界はおろか瀞霊廷まで大打撃を受けたことは覚えてるよね?」
「ああ………」
「お陰で死神の大半が奴らに殺された上、いまだその余波は続いている。それでボクたち護廷十三隊も失った分を取り戻そうと日夜動いてるんだけど………これがなかなか進んでなくてねぇ」
それは若桜も熟知しており、松本乱菊から現状を聞くにあたり慢性的な人手不足が続いていると言うことだった。
「…………それと隊長の話しと、何の関係が?確か空席はないと聞いているが………」
けれどわざわざ京楽春水自らが現世にまで足を運ぶ理由すら分からず。目の前の男を見れば、二ヶ月前からひとつの部隊で空席が出ていると言った。
「実は、ボクが以前隊長をしていた八番隊なんだけど。かつてボクの部下だった八胴丸リサを隊長に任命したまでは良かったけど、彼女が突然『自分は向いてない』って言って辞退しちゃったんだよね」
『っ!?』
それもまた驚きを通り越し、若桜も喜助も言葉を失うと春水は続ける。
「ボクも何とか説得を試みたし、五番隊隊長の平子真子にも協力してもらったんだけど、彼女の気が変わることはなかった」
その八胴丸リサ─────彼女はかつて八番隊副隊長として春水の下にいたが、藍染の策略により虚化した死神であり。当時十二番隊隊長であった喜助が助けだして現世へ逃がした後、ユーハバッハらとの戦いが終わった後に春水自らが八番隊隊長に任命したのだった。
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「…………っ」
途端に冬獅郎の目許がほんのりと染まり。そっぽを向いてしまえば少年だった時と変わらず可愛らしい。
けれどそれが彼なりの優しさであり、死神の中でもやはり他者を気遣える者などそう居ないから。
「こっちはいい迷惑だ。書類仕事ばかりしてると、たまにノイローゼになっちまうんじゃないかと本気で考えるからな」
「確かに………。それはそれで問題だ」
そこで若桜が真面目な表情を浮かべ、何か良い方法はないものかと真剣に考えてしまえば今度は冬獅郎が笑う番か。
「そうやって大真面目に考えるお前も、大概だと思うけどな?」
「っ!ふふっ、そうだな」
そう言って二人して笑い。冬獅郎が湯気の立つ湯飲みを持ち上げて茶を飲むと、その動きを見つめた若桜。
(子供の姿だった時から、周りの人よりもずっと大人びた子だと思っていたけど………。こうして成長した姿で目の前に居ると、何処を見ればいいのか分からなくなってしまう)
それもそのはず。湯飲みを持つ手も大人のそれで、特に男性となれば大きくて手首も太くなっている。
更に死覇装の上からでも分かるほど筋肉もつき、身長となれば若桜が見上げるほど高くなったのが一番か。
そして極めつけはその整った顔立ちであり、少年の頃とは違う大人びた面は目が離せないほどで。切れ長の瞳とスッと通った鼻筋に、形の良い唇もどこをとっても完璧だ。
そして白銀の髪も綺麗に切り揃えられ、これまた男らしさを引き立てていれば急激に心臓の音が煩くなり。
そんな男から先程手を握られていたのだと思い出すと、今度は頬が熱くなって慌てた。
「………?どうしたんだ急に?」
そんな突然挙動不審になった若桜を見て首を傾げた冬獅郎が問い掛けてくると、乱れた鼓動を悟られないように何でもないと視線を反らす。
「そ、それよりここに来て良かったのか?ただでさえ忙しいのに………無理をさせてしまっては十番隊の皆に申し訳ない」
すると冬獅郎は気にするなと一蹴し、自分が来たかったから来たのだと告げる。
「俺自身がここに来ることを禁じていたからな。それをようやく
「え………」
それはまたどういう意味か。思わずきょとんとしてしまえば、彼がその理由を教えてくれる。
「………あの頃のままじゃ、俺はお前の隣に立つことさえできねえ。だからそうなれるよう出来ることはしてきたつもりだ。それに、ガキの姿だといつまでたっても釣り合わねえだろ」
「────釣り合う?」
しかし再び謎な言葉を聞き、疑問符が浮かぶとフッと苦笑した冬獅郎。
「相変わらず鈍いよな?若桜は」
「そ、そう……だろうか」
「そうだ。かと言って、そんな所も気に入ってるんだが────」
ふいに手を伸ばし、今度は彼の方から頬に触れてくれば驚きどころではなくて。
「お前から見てどうなんだ?」
「───っ!!!」
少し骨ばった指先で頬を撫でられると、質問されたことさえ意識から吹き飛んでしまう。
それでいてじっと見つめられては、鼓動が爆発しそうになるから。
「な、何が────」
「俺の、今の姿だ」
唇が震えるままに問おうとすると、冬獅郎が至極解りやすいように言った。
瞬間─────。
「お話し中のところ邪魔するっス!!!」
スパン!!と障子が開き、浦原喜助が突然入ってくる。
それさえ驚きで、若桜が完全に停止してしまえば冬獅郎は鋭い視線を向け。
「お茶請けを持ってきたんで、食べませんか!!」
茶菓子をドンと置いた喜助が、続けてギロリと睨みをきかせると口を開く。
「そう言えば日番谷サン、
「…………」
途端に双方が無言で睨みあい、緊迫した空気が流れると先に折れたのは冬獅郎。
「俺に『保護者』なんていねえが。これ以上居たらアンタに殺されそうだな」
「それは勿論。特別におもてなしをさせていただきますよ?」
そこに満面の笑顔でもって喜助が答えると、言ってろと呟いた冬獅郎が立ち上がった。
「今日のところはこれで帰る。邪魔して悪かった」
「───待ってくれ、日番谷隊長。外まで送ろう」
それが合図になったのか、金縛りから解けたかのように若桜も立ち上がる。
「いいのか?」
その動きに冬獅郎が少し驚き、軽く瞬くと若桜が笑顔で頷いた。
そうして険悪な雰囲気の喜助を横に二人して外に出ると、近くの空き地まで向かい。冬獅郎が地獄蝶を出すと若桜が名を呼ぶ。
「なんだ?」
「さっきの質問の答えを言ってなかった」
「───あ、ああ………」
しかし今更ながら恥ずかしくなってきた冬獅郎が、直視できずに思わず視線を泳がせてしまえば彼女がスッと近付き。美しくも紫の瞳が真っ直ぐに見つめたその時。
「以前の姿も凛として格好良かったが、今のその姿はとても精悍で、惚れ惚れするほど男前になったな」
「っ!!」
まさか本当に答えてくれるとは予想さえしていなかったため、冬獅郎に激しい衝撃が疾しる。
それでいてどう反応すればいいかも思い付かず、動きが止まってしまうもすぐに我に返った。
「────そ、そう言ってくれると………存外、嬉しいものだが………逆にこっちの心の準備が、だな………」
「あ………す、すまない………その………」
「────また……逢いに来る。その時は若桜の好きそうな菓子も持って来るから、食べてくれ」
兎にも角にも、自分から聞いておきながら何とも情けなくはあるが。今日だけではない事も伝えておきたくて言葉にすれば、若桜の表情が明るくなり。
「ああ、楽しみにしてる。でも時間があればでいいから。あなたの為に美味しい茶葉を用意して待ってる」
彼女も少なからず歓迎してくれているのだと伝わってくれば、冬獅郎もようやく笑みを見せたのだった。
* * *
冬獅郎が十数年振りに現世へ姿を現してから五日後。
再び浦原商店に客が訪れたが、今回は雰囲気が全く違う。
それもそのはず、客間に通され座っていたのはなんと護廷十三隊一番隊隊長である京楽春水その人で。
「一番隊隊長殿が自らこんな所に来るなんて、いったいどういう風の吹き回しです?」
彼を前にさすがの喜助も面食らっているのか、抑揚のない声で問い掛けると相手が笑った。
「いやぁ、そんなに警戒しないでくれるかな?ボクが用があるのは若桜ちゃんだから」
「…………私に?」
すると喜助の横に座っていた若桜が反応し、目の前の男を見る。
「そうそう。若桜ちゃんに折り入って相談があって来たんだよねえ」
「それはどういったものだろうか」
そこで若桜が単刀直入に訊ね、春水の雰囲気が少しだけ変わると背筋を伸ばす。
「それは護廷十三隊のことなんだけど………若桜ちゃん、キミは隊長をする気があるかい?」
『────っ!?』
そんな唐突な質問に若桜だけでなく喜助も驚愕で目を見開き。沈黙が落ちると春水は続ける。
「ユーハバッハとの戦いが終わり、尸魂界はおろか瀞霊廷まで大打撃を受けたことは覚えてるよね?」
「ああ………」
「お陰で死神の大半が奴らに殺された上、いまだその余波は続いている。それでボクたち護廷十三隊も失った分を取り戻そうと日夜動いてるんだけど………これがなかなか進んでなくてねぇ」
それは若桜も熟知しており、松本乱菊から現状を聞くにあたり慢性的な人手不足が続いていると言うことだった。
「…………それと隊長の話しと、何の関係が?確か空席はないと聞いているが………」
けれどわざわざ京楽春水自らが現世にまで足を運ぶ理由すら分からず。目の前の男を見れば、二ヶ月前からひとつの部隊で空席が出ていると言った。
「実は、ボクが以前隊長をしていた八番隊なんだけど。かつてボクの部下だった八胴丸リサを隊長に任命したまでは良かったけど、彼女が突然『自分は向いてない』って言って辞退しちゃったんだよね」
『っ!?』
それもまた驚きを通り越し、若桜も喜助も言葉を失うと春水は続ける。
「ボクも何とか説得を試みたし、五番隊隊長の平子真子にも協力してもらったんだけど、彼女の気が変わることはなかった」
その八胴丸リサ─────彼女はかつて八番隊副隊長として春水の下にいたが、藍染の策略により虚化した死神であり。当時十二番隊隊長であった喜助が助けだして現世へ逃がした後、ユーハバッハらとの戦いが終わった後に春水自らが八番隊隊長に任命したのだった。
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