想いと距離
* * *
松本乱菊の策略により、十番隊舎にある休憩室に閉じ込められるというハプニングがあったにも関わらず、若桜と冬獅郎は休日に流魂街へ行く約束を交わし。
そこから二日の間、若桜はいつも以上に業務を繰越さないよう専念する。
しかも喜助がそんな動きに敏感に気付き、何かあるのではとそれとなく若桜に質問すれば、これまた彼女が素直な性格故に冬獅郎との約束があると話す。
途端に喜助の絶叫が八番隊舎に響き、どうしたのかと鉄仙が駆け付けると副隊長がまるでこの世の終わりのようか顔か。
「ボクは絶っっっっっっ対、認めませんよ!!!」
「そう言われても………日番谷隊長のおばあ様にも会うと約束してるから」
「それなら日帰りでいいじゃないですか!?そこで女性を泊めようとしているなんてっ、下心があるに決まってるっス!!!」
そんな幼馴染を宥めることもまた若桜にはお手のものか、日番谷冬獅郎はそんな男ではないと告げ。
「彼を卑下するような言い方をすることは、この私が許さない。喜助さんも分かっているだろう?」
「ぐっ………そこは認めますが。なんか若桜サン、日番谷隊長のことになると凄みが増してるような………?」
「とにかく、明日は余程の事がない限り連絡はしないこと。なるべくおばあ様には心穏やかにいて欲しいと思っているから」
「……………」
それは死神となったからこそ、冬獅郎の祖母も常に彼の無事を祈っているはずで。孫と過ごすことのできる唯一の日でもあるからこそ、彼との時間を存分に堪能して欲しいと願っているから。
「────分かりました。今回はアナタのその想いに免じて、急務がない限りは邪魔しませんよ」
「有り難う、喜助さん」
そんな嬉しそうに微笑む若桜を見つめ、それでも相手が日番谷冬獅郎となれば喜助は気が気でない。
「ですがっ!男は皆狼だってこと、ちゃあ~んと覚えててくださいね?若桜サン」
だからまだ『恋』というものを知らない彼女に警告しようとするが、やはり意味が分かっていないようで。
「それはどういう意味だ?まさか狛村さんのように────」
「いやいや違うっスよ!?今のは例えです!例え!」
そんなやり取りを目の前で繰り広げている二人を眺めていた鉄仙は一人、何事かと心配して駆け付けたにも関わらずの展開に苦笑する以外なく。
(私からすると、棗隊長の心はもう既に芽吹き始めているように見えますが………)
そう感じてならないのは、若桜が瀞霊廷に戻ってきた時よりも表情が更に色付いて見えるためか。
それは浦原喜助が副隊長として名乗りを上げる少し前。
きっと護廷十三隊のなかの『誰か』が、彼女の心の琴線に触れたのだろう。
そこから少しずつ、ゆっくりと彼女の中で育ち。言葉や表情に少しずつ現れ始めた。
そう思えば、若桜の心を動かした人物が誰なのか────。
(ここから先は野暮でしょうから。浦原副隊長が確信した時はどうなるんでしょうね)
「いいっスか?若桜サン。くれぐれも!布団をくっつけたりしないように!!」
「────喜助さん、いい加減仕事をしてもいいだろうか?」
それでいてまだやり取りは続いていたのか、喜助が口を酸っぱくして言う横で若桜は苦笑しつつ筆を取り。
午後もやる事が多いのだと、手伝わないなら研究室にでもいてくれと跳ね返したのだった。
──────。
時刻は夕方。
今日上がってきた書類や報告書などをギリギリまで片付け、鉄仙から労いの言葉を貰って笑顔を返した若桜。
それでも慌てることなく、硯箱などを引き出しに丁寧に仕舞い。研究室にイジケて籠ったままの喜助に一声掛けると、楽しんで来てくださいと声だけが返ってくる。
しかし幼馴染であるが故の気心が知れた仲であるため、放っておいても大丈夫だろうとその場から離れ。鉄仙にもお疲れ様と声を掛ければ、持っていた携帯機器がブルブルと震えた。
(日番谷隊長だろうか?)
確か前日に連絡すると言っていたから、羽織の袖口からそれを取り出して画面を開けば、やはり冬獅郎からで。内容を確認すると、八番隊舎の入り口で待ってると書いてある。
(………?流魂街に行くのは明日だったはず)
しかし本人が待っているとなれば待たせるわけにはいかず、すぐにそこへ向かうと見えた人影。
「………やっぱり迎えに来て正解だったな」
更に何も持っていない若桜を見た彼───日番谷冬獅郎が苦笑すれば意味が分からず。
「どういうことだろうか………?」
思い切り首を傾げると、今から祖母の家に行くと言われて息を飲んだ。
「っ!?私はてっきり明日かと────」
「まあ、そこを詳しく言ってなかったのは俺だから謝る。けど、久し振りに帰るってのもあるし、今回は若桜もいるからな。少しばかり欲張ってもバチは当たらねえだろ?」
そう言った冬獅郎の表情はやはり嬉しそうで。予定を変更してまで早めたのは、若桜がいるからだとも言われただけで胸が温かくなる。
「そう言うことなら行こう。でもその前に、荷物は家に置いてあるんだ」
「なら取りに行くぞ」
そうして冬獅郎が背を向けようとするも、若桜が引き止めるとこっちに来てくれと伝え。
「………どうした?」
目の前に来た彼を見上げると、少しじっとしていて欲しいと付け加える。
「時間も時間だから、ここはショートカットしよう」
「なっ─────!?!?」
途端に二人の足下が円形に光り始め、一瞬焦った冬獅郎があまりの眩しさで目を開けていられず。そこから瞼の裏で光りが弾けたように感じた瞬間、また元の夕焼け色に戻る。
「到着だ、日番谷隊長」
「────」
そこで若桜の声が聞こえ、目を開けた冬獅郎が辺りを見回すと邸宅の前に立っていた。
「…………まさか、場所と場所を瞬間移動できるなんてな。これを知ってるのは四楓院と浦原くらいだろ?」
しかし彼はそこまで驚く素振りもなく、やれやれと肩を竦めると若桜が頷く。
「あなたもそんなに驚いてないな?」
「そりゃあな。最初は俺も信じられなかったが。あの時───見えざる帝国が瀞霊廷まで攻めて来た時、俺は黒崎と別行動で動いていたお前と合流しようと探していた」
「っ!」
それだけで冬獅郎が何を言おうとしているのか理解したのか、若桜が長い睫毛を伏せる。
そしてその時に冬獅郎が見たもの────それは瓦礫と化した場所に突如として若桜らしき者が姿を現し。星十字騎士団の残党たちを一瞬にして消し去った。
更にその人物は髪が銀色に輝き、瞳は青。けれど棗若桜だとかろうじて認識できたのは、彼女が斬魄刀を持ち死覇装を着ていたからで。
「俺はその瞬間、これは決して口外してはならねえことだと理解した。きっとお前は藍染やユーハバッハの『目』から逃れるために、現世に行って自らを封印したんだと。それだけの『理由』が、棗若桜にはあるんだ────ってな」
「……………」
「それを見抜いていたから、こうして瞬間移動までしてみせた。そうだろ?」
紫と翡翠の瞳が交わると、やがて若桜がコクリと頷いた。
「やはりあなたには敵わないな。冬獅郎 さん」
「───っ!?」
同時に初めて名を呼ばれたと。
驚愕して言葉を失うと、若桜がここで待っていてくれと微笑む。
「待っ……今、何て────」
しかし彼女は家の中に入り、呆然とするしかない冬獅郎が大きく息を吐けば笑みを浮かべ。
「やっと名前で呼んでくれたな………。かと言って、まだ全然足りねえ。俺は存外欲張りだってのも……若桜と出逢わなければ知りようもなかったことだからな」
「────お待たせ」
少しして荷物を持った若桜が施錠をして戻って来ると、有無を言わさずその荷物を奪い取った。
「っ、それは自分で持てるから───」
更に若桜がそういう性格だとも分かっていて尚、そうしたいと思うのも彼女しかおらず。
「早くしねえと、日が沈んじまうだろ?行くぞ」
「………分かった」
微苦笑した若桜が横に並ぶと、二人は西流魂街へ向かった。
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松本乱菊の策略により、十番隊舎にある休憩室に閉じ込められるというハプニングがあったにも関わらず、若桜と冬獅郎は休日に流魂街へ行く約束を交わし。
そこから二日の間、若桜はいつも以上に業務を繰越さないよう専念する。
しかも喜助がそんな動きに敏感に気付き、何かあるのではとそれとなく若桜に質問すれば、これまた彼女が素直な性格故に冬獅郎との約束があると話す。
途端に喜助の絶叫が八番隊舎に響き、どうしたのかと鉄仙が駆け付けると副隊長がまるでこの世の終わりのようか顔か。
「ボクは絶っっっっっっ対、認めませんよ!!!」
「そう言われても………日番谷隊長のおばあ様にも会うと約束してるから」
「それなら日帰りでいいじゃないですか!?そこで女性を泊めようとしているなんてっ、下心があるに決まってるっス!!!」
そんな幼馴染を宥めることもまた若桜にはお手のものか、日番谷冬獅郎はそんな男ではないと告げ。
「彼を卑下するような言い方をすることは、この私が許さない。喜助さんも分かっているだろう?」
「ぐっ………そこは認めますが。なんか若桜サン、日番谷隊長のことになると凄みが増してるような………?」
「とにかく、明日は余程の事がない限り連絡はしないこと。なるべくおばあ様には心穏やかにいて欲しいと思っているから」
「……………」
それは死神となったからこそ、冬獅郎の祖母も常に彼の無事を祈っているはずで。孫と過ごすことのできる唯一の日でもあるからこそ、彼との時間を存分に堪能して欲しいと願っているから。
「────分かりました。今回はアナタのその想いに免じて、急務がない限りは邪魔しませんよ」
「有り難う、喜助さん」
そんな嬉しそうに微笑む若桜を見つめ、それでも相手が日番谷冬獅郎となれば喜助は気が気でない。
「ですがっ!男は皆狼だってこと、ちゃあ~んと覚えててくださいね?若桜サン」
だからまだ『恋』というものを知らない彼女に警告しようとするが、やはり意味が分かっていないようで。
「それはどういう意味だ?まさか狛村さんのように────」
「いやいや違うっスよ!?今のは例えです!例え!」
そんなやり取りを目の前で繰り広げている二人を眺めていた鉄仙は一人、何事かと心配して駆け付けたにも関わらずの展開に苦笑する以外なく。
(私からすると、棗隊長の心はもう既に芽吹き始めているように見えますが………)
そう感じてならないのは、若桜が瀞霊廷に戻ってきた時よりも表情が更に色付いて見えるためか。
それは浦原喜助が副隊長として名乗りを上げる少し前。
きっと護廷十三隊のなかの『誰か』が、彼女の心の琴線に触れたのだろう。
そこから少しずつ、ゆっくりと彼女の中で育ち。言葉や表情に少しずつ現れ始めた。
そう思えば、若桜の心を動かした人物が誰なのか────。
(ここから先は野暮でしょうから。浦原副隊長が確信した時はどうなるんでしょうね)
「いいっスか?若桜サン。くれぐれも!布団をくっつけたりしないように!!」
「────喜助さん、いい加減仕事をしてもいいだろうか?」
それでいてまだやり取りは続いていたのか、喜助が口を酸っぱくして言う横で若桜は苦笑しつつ筆を取り。
午後もやる事が多いのだと、手伝わないなら研究室にでもいてくれと跳ね返したのだった。
──────。
時刻は夕方。
今日上がってきた書類や報告書などをギリギリまで片付け、鉄仙から労いの言葉を貰って笑顔を返した若桜。
それでも慌てることなく、硯箱などを引き出しに丁寧に仕舞い。研究室にイジケて籠ったままの喜助に一声掛けると、楽しんで来てくださいと声だけが返ってくる。
しかし幼馴染であるが故の気心が知れた仲であるため、放っておいても大丈夫だろうとその場から離れ。鉄仙にもお疲れ様と声を掛ければ、持っていた携帯機器がブルブルと震えた。
(日番谷隊長だろうか?)
確か前日に連絡すると言っていたから、羽織の袖口からそれを取り出して画面を開けば、やはり冬獅郎からで。内容を確認すると、八番隊舎の入り口で待ってると書いてある。
(………?流魂街に行くのは明日だったはず)
しかし本人が待っているとなれば待たせるわけにはいかず、すぐにそこへ向かうと見えた人影。
「………やっぱり迎えに来て正解だったな」
更に何も持っていない若桜を見た彼───日番谷冬獅郎が苦笑すれば意味が分からず。
「どういうことだろうか………?」
思い切り首を傾げると、今から祖母の家に行くと言われて息を飲んだ。
「っ!?私はてっきり明日かと────」
「まあ、そこを詳しく言ってなかったのは俺だから謝る。けど、久し振りに帰るってのもあるし、今回は若桜もいるからな。少しばかり欲張ってもバチは当たらねえだろ?」
そう言った冬獅郎の表情はやはり嬉しそうで。予定を変更してまで早めたのは、若桜がいるからだとも言われただけで胸が温かくなる。
「そう言うことなら行こう。でもその前に、荷物は家に置いてあるんだ」
「なら取りに行くぞ」
そうして冬獅郎が背を向けようとするも、若桜が引き止めるとこっちに来てくれと伝え。
「………どうした?」
目の前に来た彼を見上げると、少しじっとしていて欲しいと付け加える。
「時間も時間だから、ここはショートカットしよう」
「なっ─────!?!?」
途端に二人の足下が円形に光り始め、一瞬焦った冬獅郎があまりの眩しさで目を開けていられず。そこから瞼の裏で光りが弾けたように感じた瞬間、また元の夕焼け色に戻る。
「到着だ、日番谷隊長」
「────」
そこで若桜の声が聞こえ、目を開けた冬獅郎が辺りを見回すと邸宅の前に立っていた。
「…………まさか、場所と場所を瞬間移動できるなんてな。これを知ってるのは四楓院と浦原くらいだろ?」
しかし彼はそこまで驚く素振りもなく、やれやれと肩を竦めると若桜が頷く。
「あなたもそんなに驚いてないな?」
「そりゃあな。最初は俺も信じられなかったが。あの時───見えざる帝国が瀞霊廷まで攻めて来た時、俺は黒崎と別行動で動いていたお前と合流しようと探していた」
「っ!」
それだけで冬獅郎が何を言おうとしているのか理解したのか、若桜が長い睫毛を伏せる。
そしてその時に冬獅郎が見たもの────それは瓦礫と化した場所に突如として若桜らしき者が姿を現し。星十字騎士団の残党たちを一瞬にして消し去った。
更にその人物は髪が銀色に輝き、瞳は青。けれど棗若桜だとかろうじて認識できたのは、彼女が斬魄刀を持ち死覇装を着ていたからで。
「俺はその瞬間、これは決して口外してはならねえことだと理解した。きっとお前は藍染やユーハバッハの『目』から逃れるために、現世に行って自らを封印したんだと。それだけの『理由』が、棗若桜にはあるんだ────ってな」
「……………」
「それを見抜いていたから、こうして瞬間移動までしてみせた。そうだろ?」
紫と翡翠の瞳が交わると、やがて若桜がコクリと頷いた。
「やはりあなたには敵わないな。
「───っ!?」
同時に初めて名を呼ばれたと。
驚愕して言葉を失うと、若桜がここで待っていてくれと微笑む。
「待っ……今、何て────」
しかし彼女は家の中に入り、呆然とするしかない冬獅郎が大きく息を吐けば笑みを浮かべ。
「やっと名前で呼んでくれたな………。かと言って、まだ全然足りねえ。俺は存外欲張りだってのも……若桜と出逢わなければ知りようもなかったことだからな」
「────お待たせ」
少しして荷物を持った若桜が施錠をして戻って来ると、有無を言わさずその荷物を奪い取った。
「っ、それは自分で持てるから───」
更に若桜がそういう性格だとも分かっていて尚、そうしたいと思うのも彼女しかおらず。
「早くしねえと、日が沈んじまうだろ?行くぞ」
「………分かった」
微苦笑した若桜が横に並ぶと、二人は西流魂街へ向かった。
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