想いと距離
横たわる自分の手に、優しく何かが重ねられている。
それはとても温かく、同時にずっと感じていたいと思わせるもので。
ピクリと指先が反応すれば、その温もりが確かにあることを実感する。
(若桜…………?)
更に伝わる温もりが、何故か棗若桜のものだと感じてならず。
反射的に逃したくないと、握ったその時────。
「…………」
パチリと目を開けた冬獅郎が、視線を天井からゆっくりと横へ移動させる。
そして人影が視界に入り、透き通るような紫色の瞳と目が合った瞬間。
「お早う、日番谷隊長」
「─────っ!!!???」
勢い良く身体を起こした冬獅郎は、そのまま壁際へと高速移動していた。
「………っ………若桜!?」
だが背中が壁につき、それ以上後ろに下がれない彼はまだ何が起きているのか理解が追い付かず。
「そんなに驚かれるとは………。まるでお化けでも見たような反応だな」
目の前ではクスクスと笑った若桜が、固まってしまった男を見つめる。
「いや………それより………何で、ここに………」
そもそもこれは一体どんな状況なのか。
昨夜眠れていないのはあったが、いつも通り『昼寝』をしていただけだったのに。
しかもよく見ると、戸口に何やら細工をされているようで。
(────なるほどな。松本のやつ……)
こうして閉じ込めるなど、彼女以外やりそうにないと半ば呆れる。
「それを話せば少し長くなるが、ついさっきまで松本さんと雛森さんの三人で昼を一緒に食べていたんだ」
だがそんな状況でも若桜は困惑していないのか、事のいきさつを説明すれば冬獅郎がやれやれとため息を吐き。
「─────俺に直接渡そうと、ここまで連れて来られたんだな」
「ああ。でもまさか閉じ込められるとは思ってもなかった………」
そこは想定外だと、若桜が苦笑すると側に置いていた袋を手に取って差し出す。
「雛森さんから、あなたはコマ回しが得意だと聞いた。特に潤林安では負けなしだとか。それでささやかだが………推薦してくれたお礼も兼ねて、これを受け取ってくれると嬉しい」
「………あいつ、そんな事まで」
しかし冬獅郎からしてみれば、若桜が自分のために贈り物を選んでくれたというだけでも無条件で嬉しくて。
「有り難く、受け取らせてもらう。………見てもいいか?」
すぐにでもどんなコマなのか見てみたくて、顔を上げると若桜の頬が急激に染まる。
「い、今か!?待ってくれ……その、心の、準備がっ」
「…………」
その反応に冬獅郎は驚くどころか、いつもなら笑顔で頷いているであろう彼女が、いつになく挙動不審になると頬の熱さが伝染しそうで。
(────は、恥ずかしがってるだとっ!?いや待て!急にそんな反応されても、免疫できてねーよっ!!)
二人してあたふたしていると、先に我に返った冬獅郎が大きく深呼吸する。
「………そんなに心の準備がいることなのか?」
「それはっ………そうだが!何と言うか、その………」
それでいて可愛らしい姿に思わず表情が緩み、許可を取るまでもなく袋から取り出して包みを取り除くと、手の上に乗せた。
「────これはかなり良い材質でできてるな。紐もついてあるし、形も均一で色彩もとても綺麗だ」
それは投げゴマと呼ばれるもので。コマの胴体部分に紐を巻き、投げ出すようにして回すというものだ。
そこから遊びの一環として発展したのが喧嘩ゴマというもので、最後までコマが回り続けた者の勝ちという、至極シンプルなルールである。
その遊びで冬獅郎は一度も負けたことがないという、幼少期から天才ぶりを発揮していたと雛森から聞いた。
「そうだろう?店で見た時に私もすごく綺麗だと思って。あなたには実際に遊べる用のコマを買ったが────」
そして若桜が羽織の袖口から何やら取り出し、ほら、と手の上に乗せると冬獅郎が驚いた。
「それは………観賞用か?」
まさか若桜も購入していたとは思うわけもなく。漆塗りをされた、小さめの正方形の板の上に乗せられたコマを見る。
「ああ。これは板の上に固定されてしまっているが、机の上に置けば可愛らしい飾りにもなるだろう?しかも上面の色彩は幾何学模様と言うらしくて、私もあなたと同じ色のもの見つけて買ったんだ!」
「───っ」
そう言われて見ると、円盤型となっている上面には模様が描かれており。実に繊細で色合いも鮮やかだ。
しかも冬獅郎と『お揃い』のものを選んだと微笑む若桜を見れば、これもまたいつもの彼女なら言わないような言葉で。
「お前と揃いなら、俺も観賞用として飾る」
傷が入ってしまったり汚れてしまうのは嫌だからなと、そう言って若桜の手の上からそれを取ると形も同じだと気付いた。
「え────使わないのか?」
しかし若桜は残念で仕方ないといった顔で、冬獅郎が首を傾げると回している所を見たかったと呟く。
「コマ回しといったものを私は見たことがなくて。どんなものかあなたに見せて貰いたかったんだ」
「…………」
すると冬獅郎がクスリと笑い、スッと手を伸ばすと優しく若桜の頬に触れ。
「それなら、今度休みの時に俺と一緒に流魂街に行くか?」
「───っ」
指先でそっと撫でると、そこが薔薇色に染まる。
「雛森から聞いたかもしれねえが、休みの日は必ず潤林安にいる祖母に会いに行ってるんだ。そこで一日過ごして、次の日の朝に帰る───って感じなんだが。そこでならコマ回しでも何でも見せてやれるぜ?」
それこそまさに『手加減なし』で、いずれ若桜を祖母に紹介したいと考えていた冬獅郎にとっては、またとない機会だ。
一方、そんな魅力的な誘いに若桜は瞳を揺らし、しかし案の定邪魔ではないかと聞いてくればそれを否定。
「お前のことは何度か話してるからな。いつか会ってみてえって、言ってたぞ」
だからいい機会だと笑い。若桜も是非会いたいと笑顔になれば決定か。
「それじゃ、三日後が休みになってるはずだから、前日に連絡する」
「分かった。それまでに雑務を片付けておくから」
そこからトントン拍子に話が進み、ふと冬獅郎がニヤリと笑えば若桜がどうしたのかと瞬く。
「着替えとかも用意しておけよ?じゃねえと、さすがにばあちゃんのもんは着れねえだろ?」
「っ!!」
それも決定事項だったのか、ひとつ屋根の下で冬獅郎と眠るのだと意識した途端に、心臓が口から飛び出しそうになり。
「と、泊まるなんて………それこそ迷惑を掛けると思うのだが」
さすがにそこは家族水入らずでと言うが、冬獅郎は却下だと言い放つ。
「いくらなんでも、お前をひとりで帰すなんてできねえ相談だ。ばあちゃんも泊まっていけって言うに決まってんだろ」
「っ………そこまで言われると………」
断れないと若桜が呟き、冬獅郎が最初から拒否権はねえと畳み掛けると苦笑しながら彼女が頷いた。
そうして二人は初めて約束を交わし、無邪気にも若桜が楽しみだと微笑む横で、冬獅郎がじっと見つめ。
(松本たちと話してからか……?若桜の雰囲気が違うというか、俺の言葉や動きに頬を染めて反応し始めたってことは、俺を男として意識してるってことでいいんだよな?)
今までであれば、驚いて言葉を失ったり何が起きているのか分からないといった反応ばかり見せていたけれど。
まだ確証はなく、冬獅郎の勘違いかもしれないが。
「俺も、楽しみにしてる」
そう言って笑みを浮かべた瞬間、若桜の目許がほんのりと染まり。恥じらいながらもふわりと笑顔を返してくれるから。
「………つーかそれ 、若桜なら簡単だよな?」
そこで現実に引き戻された冬獅郎が戸口を指差し、休憩時間もとうに終わってると言えば若桜が一瞬フリーズする。
「───も、勿論だ!」
そして椅子から立ち上がり、鬼道で施錠された戸口に手をかざすと寝台から降りた冬獅郎が横に立つのを感じ。解錠の鬼道を詠唱なしで使うと、パチンと小さな音がして戸が開くようになる。
「よし、開いたな」
「ああ、回りくどいものでなくて良かった。松本には後で言っておく」
そのまま部屋から出ようと、若桜がおもむろに開けようとしたその時。
「────っ」
冬獅郎の手が戸を押さえるようにして触れ、若桜の後ろに立てば顔を近付ける。
(日番谷隊長………?)
同時に耳許で彼の吐息が掠め、ピクリと反応してしまえば彼がフッと笑い。
「約束、忘れんなよ?」
「!!!」
男らしくも低い声が耳に響いた瞬間、若桜はここが何処なのか何をしに来たのかさえ吹き飛ぶような衝撃を受け、思考回路が停止したのだった。
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それはとても温かく、同時にずっと感じていたいと思わせるもので。
ピクリと指先が反応すれば、その温もりが確かにあることを実感する。
(若桜…………?)
更に伝わる温もりが、何故か棗若桜のものだと感じてならず。
反射的に逃したくないと、握ったその時────。
「…………」
パチリと目を開けた冬獅郎が、視線を天井からゆっくりと横へ移動させる。
そして人影が視界に入り、透き通るような紫色の瞳と目が合った瞬間。
「お早う、日番谷隊長」
「─────っ!!!???」
勢い良く身体を起こした冬獅郎は、そのまま壁際へと高速移動していた。
「………っ………若桜!?」
だが背中が壁につき、それ以上後ろに下がれない彼はまだ何が起きているのか理解が追い付かず。
「そんなに驚かれるとは………。まるでお化けでも見たような反応だな」
目の前ではクスクスと笑った若桜が、固まってしまった男を見つめる。
「いや………それより………何で、ここに………」
そもそもこれは一体どんな状況なのか。
昨夜眠れていないのはあったが、いつも通り『昼寝』をしていただけだったのに。
しかもよく見ると、戸口に何やら細工をされているようで。
(────なるほどな。松本のやつ……)
こうして閉じ込めるなど、彼女以外やりそうにないと半ば呆れる。
「それを話せば少し長くなるが、ついさっきまで松本さんと雛森さんの三人で昼を一緒に食べていたんだ」
だがそんな状況でも若桜は困惑していないのか、事のいきさつを説明すれば冬獅郎がやれやれとため息を吐き。
「─────俺に直接渡そうと、ここまで連れて来られたんだな」
「ああ。でもまさか閉じ込められるとは思ってもなかった………」
そこは想定外だと、若桜が苦笑すると側に置いていた袋を手に取って差し出す。
「雛森さんから、あなたはコマ回しが得意だと聞いた。特に潤林安では負けなしだとか。それでささやかだが………推薦してくれたお礼も兼ねて、これを受け取ってくれると嬉しい」
「………あいつ、そんな事まで」
しかし冬獅郎からしてみれば、若桜が自分のために贈り物を選んでくれたというだけでも無条件で嬉しくて。
「有り難く、受け取らせてもらう。………見てもいいか?」
すぐにでもどんなコマなのか見てみたくて、顔を上げると若桜の頬が急激に染まる。
「い、今か!?待ってくれ……その、心の、準備がっ」
「…………」
その反応に冬獅郎は驚くどころか、いつもなら笑顔で頷いているであろう彼女が、いつになく挙動不審になると頬の熱さが伝染しそうで。
(────は、恥ずかしがってるだとっ!?いや待て!急にそんな反応されても、免疫できてねーよっ!!)
二人してあたふたしていると、先に我に返った冬獅郎が大きく深呼吸する。
「………そんなに心の準備がいることなのか?」
「それはっ………そうだが!何と言うか、その………」
それでいて可愛らしい姿に思わず表情が緩み、許可を取るまでもなく袋から取り出して包みを取り除くと、手の上に乗せた。
「────これはかなり良い材質でできてるな。紐もついてあるし、形も均一で色彩もとても綺麗だ」
それは投げゴマと呼ばれるもので。コマの胴体部分に紐を巻き、投げ出すようにして回すというものだ。
そこから遊びの一環として発展したのが喧嘩ゴマというもので、最後までコマが回り続けた者の勝ちという、至極シンプルなルールである。
その遊びで冬獅郎は一度も負けたことがないという、幼少期から天才ぶりを発揮していたと雛森から聞いた。
「そうだろう?店で見た時に私もすごく綺麗だと思って。あなたには実際に遊べる用のコマを買ったが────」
そして若桜が羽織の袖口から何やら取り出し、ほら、と手の上に乗せると冬獅郎が驚いた。
「それは………観賞用か?」
まさか若桜も購入していたとは思うわけもなく。漆塗りをされた、小さめの正方形の板の上に乗せられたコマを見る。
「ああ。これは板の上に固定されてしまっているが、机の上に置けば可愛らしい飾りにもなるだろう?しかも上面の色彩は幾何学模様と言うらしくて、私もあなたと同じ色のもの見つけて買ったんだ!」
「───っ」
そう言われて見ると、円盤型となっている上面には模様が描かれており。実に繊細で色合いも鮮やかだ。
しかも冬獅郎と『お揃い』のものを選んだと微笑む若桜を見れば、これもまたいつもの彼女なら言わないような言葉で。
「お前と揃いなら、俺も観賞用として飾る」
傷が入ってしまったり汚れてしまうのは嫌だからなと、そう言って若桜の手の上からそれを取ると形も同じだと気付いた。
「え────使わないのか?」
しかし若桜は残念で仕方ないといった顔で、冬獅郎が首を傾げると回している所を見たかったと呟く。
「コマ回しといったものを私は見たことがなくて。どんなものかあなたに見せて貰いたかったんだ」
「…………」
すると冬獅郎がクスリと笑い、スッと手を伸ばすと優しく若桜の頬に触れ。
「それなら、今度休みの時に俺と一緒に流魂街に行くか?」
「───っ」
指先でそっと撫でると、そこが薔薇色に染まる。
「雛森から聞いたかもしれねえが、休みの日は必ず潤林安にいる祖母に会いに行ってるんだ。そこで一日過ごして、次の日の朝に帰る───って感じなんだが。そこでならコマ回しでも何でも見せてやれるぜ?」
それこそまさに『手加減なし』で、いずれ若桜を祖母に紹介したいと考えていた冬獅郎にとっては、またとない機会だ。
一方、そんな魅力的な誘いに若桜は瞳を揺らし、しかし案の定邪魔ではないかと聞いてくればそれを否定。
「お前のことは何度か話してるからな。いつか会ってみてえって、言ってたぞ」
だからいい機会だと笑い。若桜も是非会いたいと笑顔になれば決定か。
「それじゃ、三日後が休みになってるはずだから、前日に連絡する」
「分かった。それまでに雑務を片付けておくから」
そこからトントン拍子に話が進み、ふと冬獅郎がニヤリと笑えば若桜がどうしたのかと瞬く。
「着替えとかも用意しておけよ?じゃねえと、さすがにばあちゃんのもんは着れねえだろ?」
「っ!!」
それも決定事項だったのか、ひとつ屋根の下で冬獅郎と眠るのだと意識した途端に、心臓が口から飛び出しそうになり。
「と、泊まるなんて………それこそ迷惑を掛けると思うのだが」
さすがにそこは家族水入らずでと言うが、冬獅郎は却下だと言い放つ。
「いくらなんでも、お前をひとりで帰すなんてできねえ相談だ。ばあちゃんも泊まっていけって言うに決まってんだろ」
「っ………そこまで言われると………」
断れないと若桜が呟き、冬獅郎が最初から拒否権はねえと畳み掛けると苦笑しながら彼女が頷いた。
そうして二人は初めて約束を交わし、無邪気にも若桜が楽しみだと微笑む横で、冬獅郎がじっと見つめ。
(松本たちと話してからか……?若桜の雰囲気が違うというか、俺の言葉や動きに頬を染めて反応し始めたってことは、俺を男として意識してるってことでいいんだよな?)
今までであれば、驚いて言葉を失ったり何が起きているのか分からないといった反応ばかり見せていたけれど。
まだ確証はなく、冬獅郎の勘違いかもしれないが。
「俺も、楽しみにしてる」
そう言って笑みを浮かべた瞬間、若桜の目許がほんのりと染まり。恥じらいながらもふわりと笑顔を返してくれるから。
「………つーか
そこで現実に引き戻された冬獅郎が戸口を指差し、休憩時間もとうに終わってると言えば若桜が一瞬フリーズする。
「───も、勿論だ!」
そして椅子から立ち上がり、鬼道で施錠された戸口に手をかざすと寝台から降りた冬獅郎が横に立つのを感じ。解錠の鬼道を詠唱なしで使うと、パチンと小さな音がして戸が開くようになる。
「よし、開いたな」
「ああ、回りくどいものでなくて良かった。松本には後で言っておく」
そのまま部屋から出ようと、若桜がおもむろに開けようとしたその時。
「────っ」
冬獅郎の手が戸を押さえるようにして触れ、若桜の後ろに立てば顔を近付ける。
(日番谷隊長………?)
同時に耳許で彼の吐息が掠め、ピクリと反応してしまえば彼がフッと笑い。
「約束、忘れんなよ?」
「!!!」
男らしくも低い声が耳に響いた瞬間、若桜はここが何処なのか何をしに来たのかさえ吹き飛ぶような衝撃を受け、思考回路が停止したのだった。
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