想いと距離

「────そうだ。少し行きたい所があるんだが、いいだろうか?」

若桜の隊長就任祝いを兼ねたささやかな食事会が終わり、店を出た所でふと若桜本人が二人に訊ねる。

「私は構いませんけど、どうされたんですか?」

すると桃が首を傾げ、自分も大丈夫だと答えた乱菊も何か用があるのかと聞いた。

「平子隊長や日番谷隊長が推薦してくれたお陰でもあるから、何か贈り物をしようと思って」

「棗隊長……そんな、気にしないでください!平子隊長とは昔馴染みだと聞いてますし、本人も気を遣うなとおっしゃるでしょうから」

「そうそう!ウチの隊長も─────と言いたい所ですが、お言葉に甘えても宜しいでしょうか?」

しかも桃に続いて気持ちだけで十分だと言おうとした乱菊が、前のめりになれば若桜は勿論だと笑顔で頷き。何やらピンときた桃が、冬獅郎の好みをチャンスとばかりに教える。

「もし贈り物を選ぶのに迷っていたら、ひとつだけ。実は、日番谷くんは甘いものが苦手なんです。でも流魂街にいるおばあちゃんが好んで食べていた甘納豆だけは、唯一食べられるものなんですよ!」

ちなみにおばあちゃん子だとも教えると、若桜がやはり優しい人だと微笑み。

「そうだったのか。菓子を選ぼうかと思っていたから良かった……」

「はい!ですので、敢えて選ぶのであれば甘納豆一択になりますが、それ以外だとコマ回しも得意です!!」

「コマ回し……なるほど」

それは初耳だと、熱心に聞いているのを見た乱菊はウズウズしっぱなしで。
こうなったら若桜自身をプレゼントにしたほうが早くないかと口に出そうになる。

「私や日番谷くんが居た西流魂街の『潤林安』では負け知らずで、本当に強いんですよ!」

「それはまた………。時間がある時に是非見てみたいものだな」

「それなら、今度彼に聞いてみてはどうですか?棗隊長のお願いなら必ず聞いてくれますから!」

そんなやり取りの中で、桃が冬獅郎の趣味や好みなどを絶妙なタイミングで若桜へと刷り込み。
知らず歩いているとコマを売っている店の前に偶然にも辿り着く。

「棗隊長、そこにちょうどコマを売ってる店がありますよ」

しかも乱菊がすかさず声をかけ、顔を上げた若桜が本当だと笑顔になればあとはグイグイ押すだけか。

「………だが、さすがにコマでは申し訳ない。高価とまではいかなくとも、もう少し良いものを贈りたいと思ってるんだが」

「それこそ気遣い無用ですよ!あなたから貰えるなら何でも喜ぶと思います」

実際それは事実で。桃も太鼓判を押すと背中を押す。

「たまには童心に返って遊ぶことも必要って言いますよね?」

「っ、ひ、雛森さん………ちょ、そんなに押さずとも」

そのまま勢いで店の中に入り、店員がいらっしゃいと声を掛けてくれば桃がこんにちはと返し。棚に飾られた色とりどりのコマを若桜が見た瞬間、綺麗だと呟いていた。

「お!お客さん、いい目をしてるねぇ!ここには実際に遊ぶものから、観賞用まで色々取り揃えてるよ!」

それは実に様々な色彩で色付けされ、形も特徴的なものがズラリと並ぶ。

「実際に使えるものを見たいのだが、どれがそうだろうか?」

すると若桜が店員に訪ね、説明を受けていれば乱菊と桃が後ろで期待に胸を脹らませ。

「やりましたね!乱菊さん。後は直接渡せるように上手く御膳立てできれば言うことなしですよね!」

「ええ、そうね!これで少しは進展すればいいんだけど」

今も色んなコマを手に取っては、店員に話を聞いている彼女は真剣な表情している。
そうしてコマを回すための紐なども、どれがいいのか確認しながら選び。コマ本体も派手ではないが、幾何学模様に綺麗に色付けされたものを選ぶと贈り物用に包んでもらった。

「雛森さん、松本さん、お待たせ」

それから会計も済ませ、先に店から出ていた二人と合流すると若桜が微笑み。

「二人のお陰で良いものを選ぶことができた、有り難う」

包装されたコマが入った小さな袋を軽く持ち上げると、二人ともに役に立てて良かったと笑う。

「そうだ!この時間ならもう隊長も十番隊舎に戻ってると思うので、そのまま渡しませんか!?」

そこで乱菊が身を乗りだし、良い案だと自画自賛するも若桜の頬がポッと染まり。

「っ……あの、松本さんに預けるのでは………駄目、だろうか?」

『────!』

しかもそんな反応をした彼女を見た途端、乱菊も桃も驚き以上に言葉を失ったのは言うまでもなく。
目の前では恥じらってか長い睫毛を伏せ、視線を地面に落とせば急激に期待感が込み上げる。

(これはもしかして────脈アリってことよね!!)

更に何がきっかけとなったのかは不明だが、今までにない反応を見れば乱菊は居ても立ってもいられなくて。

「今すぐ行きましょう!手渡ししたほうが、絶対に喜ぶに決まってますからっ!!」

「え────待っ………松本さ────」

腕を掴まれたと思った時には既に遅く、勢い良く引っぱられて走り出すとあっという間か。

「棗隊長!頑張ってくださいねー!」

そんな二人を手を振って見送った桃が、期待に胸を膨らませると冬獅郎にもエールを送り。

「早く恋人同士になった姿を見てみたいなぁ」

若桜も冬獅郎も美男美女で、またお互いに惹かれあう運命にあって、以前から似合いの二人だと思っていたから。

「シロちゃんのおばあちゃんもきっと喜ぶこと間違いなしだね!それに、可愛い孫がお嫁さんを連れて来たって盛り上がっちゃうかもしれないし、そうなったら後は秒読みってやつよ!」

そこまで想像できてしまうのも、ここにきてやっと若桜に変化が表れたのが大きく。

「どうか上手くいきますように」

目を閉じて強く祈ると同時、引き続き乱菊と共に影ながら応援する事を誓った。

──────。

乱菊に引っ張られるまま、あれよと言うまに十番隊舎に到着すると若桜が緊張した表情を浮かべ。
そのまま隊長の執務室へ移動すると、乱菊が戸を開けて中に入る。

「日番谷隊長─────って、居ないわね……」

しかしそこには冬獅郎の姿はなく、若桜がそれならと再び乱菊へ袋を渡そうとしたがまだ早いと言った。

「彼なら多分、休憩室だと思うので。こちらです、棗隊長」

そうして部屋続きになっている隣室へ向かい、そろりと戸を開けて乱菊が覗き込むとニヤリと笑う。

「ウチの隊長は時間さえあれば昼寝するのが日課なので。ほら───」

「…………本当だ」

次いで見てくださいと促され、また少し戸を開ければ彼女の言うとおり冬獅郎は寝台の上で眠っており。少し惚けてしまった瞬間、軽く背中を押されて部屋の中に入ってしまう。

「っ!?」

「もうすぐ起きると思うので、その時に渡してくださいね♪あと、人払いもしておくので心行く・・・までごゆっくりしていってください」

「松本さ────っ!」

更に有無を言わさず戸がピシャリと締まり、何故か開かないように鬼道で閉められてしまえば唖然とするしかなく。

「どうしてこうなったんだ………」

半ば呆然としつつ、ゆっくり振り返ると眠っている男をまじまじと見つめ。熟睡しているのか起きる気配もない冬獅郎に、思わずフッと微笑めば静かに近付く。

「こうしてあなたの寝顔を見たのは初めてだが、 やはり顔つきも何もかも………大人になったな」

それでいて近くに置かれていた椅子を引き寄せ、そこに座ると寝台の空いた場所に袋を置いた。

「……………」

それから小さな寝息をこぼす冬獅郎の、端整な顔立ちから男らしい喉仏へと視線を向け。次に白銀の髪がキラキラと輝いているのを見れば、ふいに触れたくなった自分に驚く。
だが好奇心のほうが勝ってしまい、躊躇いがまだ残るものの手をそっと伸ばすと彼の前髪に指先が触れ。

(や、柔らかい………!)

サラリと指先を滑るその髪が思いの外に柔らかくて、思わず感動する。

「…………ん」

「!!」

同時に冬獅郎が声を洩らし、慌てて手を引っ込めるとまた寝息がこぼれ。危なかったと胸を撫で下ろすと、今度は男らしい手へと視線を向ける。

(あの時、この手が私の手を握って………それと顎にも、触れた………)

途端に胸の動悸が速くなり、感触までリアルに思い出してしまえば頬も染まり。
先ほどに続いて今までになく冬獅郎を意識する自分がいて、今度は直視できなくなる。
けれどそれは決して不快なものではなく、逆に困ってしまうほどにどうしてこうなるのか知りたくてたまらず。

(もう手加減はしないと………言っていたな。それはまだどういう意味か分からないけど、あなたは私だけが『特別』だと言ってくれた………。現世に来ることを固く禁じていたのも全て、私に相応しくあるため、と)

知らず伸ばした指が、冬獅郎の指先に触れるとそれだけでも鼓動がトクリと波打ち。

(───あなたに触れただけで鼓動がおかしくなって、他の女性といる所を想像するだけで胸がざわつくのは、あなたを『特別』だと思っているから………?)

この感情は何処からきて、普通ではいられなくさせているのか。

(あなたはそれを教えてくれるだろうか………日番谷隊長)

そっと重ねた手をじっと見つめた若桜は、己の鼓動が高鳴る音を聞いていた。


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