想いと距離

「棗隊長………凄くお似合いです!!」

時刻は少し遡り。
八番隊舎では一日足らずで若桜の隊長羽織が完成し、さっそく鉄仙の前で着て見せると拍手が起こる。

「あ、ありがとう……月見里さん。だが拍手をするほどでもないと思うんだが……」

それもそのはず、羽織の形態としては袖があるかないかくらいでしかなく。裏生地の色も隊によって決まってもいて、八番隊は蘇芳すおうとなっている。
そして若桜は袖がある型にしてもらい、背に『八』とあれば彼女自身も身が引き締まる思いだ。
更にその横では喜助が感極まっているのか、拳を握り締めて滝のような涙を流している。

「こうしてあなたの羽織姿を見ることができるなんて………っ。二番隊に居た時からずっと夢見ていたことが遂に叶ったんですねっ!!!」

「………喜助さんも大袈裟だ。それに二番隊に居た時からとは、そんなに昔から思っていたのか?」

しかし若桜は苦笑するばかりで、喜助がカッと目を見開くと肩を掴んだ。

「当たり前じゃないですかっ!!あの夜一サンですら敵わないと言わしめたアナタが、副隊長に甘んじていたこと自体が間違っているんスよ!若桜サンは昔から人望が厚かった上に、何より上に立つに相応しい統率力があるんです。誰もがアナタのためならば何をも厭わないと言わせるほどにっス!」

それは鉄仙も身をもって感じていることで、彼女に副官章を渡した時でさえ既にそれを感じていたから。

「それは私も思っていました。副隊長までもがそう言われるとなれば、副官章を渡したのはやはり間違ってなかったんですね」

「二人とも………」

そんな二人の言葉を受け、若桜が軽く瞬くと微笑み。

「有り難う。私自身は皆が言うほどの者ではないと思っているが………それでもこうして言葉として伝えてくれることが、何よりも嬉しくて仕方ない」

「いやいや本心っスよ!!こんなボクでさえ十二番隊隊長をやってたんですから、もっと自信を持っていいんですからね!」

「ふふっ、そうだな」

続けて喜助が写真を撮っていいっスかと、何処に隠し持っていたのか専用機器を取り出し。返事を聞かずして様々な角度からパシャパシャと撮影すると、アルバムを作るのだと闘志を燃やす。
それでいて若桜は半ば諦めているのか好きにしてくれと苦笑し、鉄仙がやれやれとため息を吐くと同時にコンコンと戸を叩く音が聞こえてきた。

「失礼しまーす!────あ、羽織が出来上がったんですね!」

しかも鉄仙が開ける暇もなく勝手に開き、入って来た人物と言えば松本乱菊で。

「松本さん?何か急務だろうか?」

若桜の羽織姿をこれもまた乱菊が有無を言わさず写真に収め、全死神に配布されている携帯電話のような形をした機器を何やら操作。

「松本副隊長、何をされてるんですか?」

それを訝しげに見た鉄仙が覗き込もうとするとヒラリとかわされ。

「保存しただけよ!ほ・ぞ・ん☆」

「…………なんか怪しいですけど」

「まあまあ、気にしない気にしない!」

クルリと向きを変えて若桜の前に立つと、昼を一緒に食べませんかと突然誘ってきた。

「え………私、と?」

「はい。隊長になったお祝いも兼ねて!実は雛森も誘ってるんです!」

そんな唐突な誘いに若桜は目を白黒させ、どう反応すればいいのか分からないでいると喜助が背中を押す。

「行って来たらいいっスよ!まずは一番近しい人から親睦を深めることが大切ですから」

それには鉄仙も賛成か、遠慮せず行ってくださいと微笑み。

「………それじゃあ、行ってくる」

男二人が見送るなか、乱菊に促されて隊舎を後にした。

「やっぱりとても似合ってますね!(バッチリ送信したし、これは間違いなく永久保存するわよね♪)」

「有り難う………と言うか、その後は何か言っただろうか?」

そうして商店街へ向かう道すがら、乱菊が上機嫌で何か呟くと若桜が首を傾げ。

「いえっ!何でもありませんよ!それより、一度でいいから棗隊長とゆっくりお話したいと思ってたんです」

何やらはぐらかされたような気がしたものの、ふわりと微笑んだ若桜が自分もそう思っていたと伝える。

「いつも現世に会いに来てくれていたが、ゆっくりする時間もなかった。このような機会を作ってくれて、本当に有り難う」

(うっ……なんて眩しい笑顔なのかしら。それでいて凄く純粋な人だし、これでよく浦原さんに捕まらなかったわね……)

途端に乱菊が手をかざし、眩しさを防ぎつつ常にヒヤヒヤしていたのを思い出す。
何故なら、元十二番隊隊長で技術開発局初代局長という肩書きを持つ彼は、あの藍染から己を越える頭脳を持つ者と言われたほどの逸材なのだ。
しかも幼馴染とくれば、幼少期から二人は一緒だったはずで。

(もしもの話なんてしたくないけど………。彼女が浦原喜助とくっついてたらどうするつもりだったのかしら、ウチの隊長)

思わず天を仰ぎ、若桜が誰のものにもなってなかった幸運に心底感謝すると、雛森桃と待ち合わせている店に向かった。

「あ───松本副隊長、こっちです!」

目的の店に到着した二人が早速中に入り、目当ての人物を探していれば声が聞こえ。分かりやすいように立って手を振る桃を見つけると移動する。
そして若桜が口を開く前に、ペコリと頭を下げた彼女が目をキラキラとさせ。

「あの、お久し振りです!棗隊長。私のこと……覚えていらっしゃいますか!?」

長かった黒髪を肩につくかくらいに短く切った姿は変わらず、左腕に『五』と掛かれた副官章をつけた少女を見れば若桜は微笑む。

「勿論、覚えている。久し振りだな、雛森副隊長」

途端に彼女の表情が明るくなり、会えるのを心待にしていたと言われると嬉しくて。

「私もだ。貴女も元気そうで良かった」

「はいっ!平子隊長がとても良くしてくださるので。それに総隊長からあなたがこちらに戻って来ると聞いた時は、嬉しさのあまり平子隊長から落ち着けと怒られちゃいました」

そんな彼女は先日見掛けたばかりだったが、こうして話をしたのは十数年振りだ。
あれからまた少し大人びた桃は、髪型こそ変わらないものの女性らしく成長していて。まだ少女の面影を残していた面も、見違えるほど大人びている。
そう思えば日番谷冬獅郎が成長したのも頷けることで、二人ともにますます似合いになったと。

「─────」

「棗隊長?どうされましたか?」

そう思った瞬間、突然動きを止めてしまった若桜に首を傾げた桃が質問してくると、我に返って笑みを見せる。

「いや、何でもない。立ち話も何だから、座ろうか」

そうして三人とも席に着き、メニュー表を手に取った桃に見せられるまま彼女が薦めてきた桜御膳という料理に決め。乱菊もそれにすると言えば、結局女子三人が同じものを頼むこととなる。
しかし若桜は先ほど感じた微かな違和感を拭えず、そっと桃を見れば今度は胸の中心がチクリと痛んで息を飲み。

(急にどうしたんだろうか………。日番谷隊長の事を思い出した途端、何だか胸がモヤモヤする)

それは先日には起きなかったことで、その時は似合いの二人だと思っていたはずだったのに。
けれど改めて桃を見た時、彼女はあの後冬獅郎と何を話していたのだろうかと考えただけで心がざわつくのを感じ。

「───そう言えば、最近日番谷くんは無茶してませんか?先日ばったりこの辺で会ったんですが、空いた時間を使ってよく稽古場にいるみたいなことを十番隊の人から聞いたので」

彼女の口から冬獅郎の名が出れば、また言い様のない感情が沸き起こる。

「ああ、それなら心配する必要なんてないわ。隊長が鍛練してるのは毎度のことだし、これでも足りないくらいだって────まぁ、目標が目標だから。けど無理がない程度にちゃんと考えながらやってるみたい」

「そうなんですね。…………ふふっ、日番谷くんらしいと言うか。こうと決めたら真っ直ぐだから、たまに心配しちゃうんですけどね」

「そうそう!それでもう少し分かりやすくアピールできたら言うことなしなんだけど………」

「あ、確かに……。真面目過ぎて、相手に上手く伝わってないところありますよね」

そこで乱菊と桃がチラリ……と若桜を見たが。

「?」

本人は全く分かってないのか、長い睫毛を軽く瞬かせていて。

「(乱菊さん………もしかして棗隊長も?)」

「(ええ、そうなのよ………。彼女は特に男女の色恋に疎いと言うか、今見せた反応がそれよ)」

桃がじっと見つめていると、顔に何かついてるだろうかと言う始末だ。

(棗隊長のそんな所も可愛らしいけど………シロちゃんの想いが全然伝わってないのは問題だよね)

かと言って、乱菊や桃には日番谷冬獅郎の想い人が誰なのかすぐに分かったくらいなのに。
当の本人はそれさえ気付かず、あの浦原喜助を副隊長に任命するなど冬獅郎からすれば絶体絶命に近い。

(乱菊さんが私に協力して欲しいって頼んできた理由がわかった気がする。こうなったら私もシロちゃんのために一肌脱がなくちゃ!)

だからグッと拳を握り、乱菊と目を合わせて頷きあえば若桜はどうしたのかと困惑していたけれど。

「はいよ!桜御膳、お待ちどおさまっ!」

タイミング良く頼んでいた料理が目の前に置かれた途端、女子三人は何とも豪勢な料理に目を輝かせたのだった。


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